第3話 え~?もしかして本当に運命キタコレ?


「じゃあ俺、最初歌いま~す!」



カラオケに入って、立宮さんがみんなを盛り上げてそう言ってくれた。

祥子は相変わらずまんざらでもない顔で立宮さんと話していて、「よかったね」と心の中で思いながら、なんとなく取り残される焦りも、どこかで感じ始めた。



「なっちゃん、なに歌う?」



ハイスペックイケメン香水いい匂い男は、なぜかやっぱり私の隣をキープしていた。私は適度に距離を取りながら、一緒に何を歌うか相談することにした。



「ん~こういう時はやっぱりみんなが知ってる歌のが盛り上がるよね~。」



ただのうさんくさい男だと思っていたんだけど、意外とそこら辺の空気は読めるようだ。でも南出さんは流行りの歌とかあまり知らないみたいで、私が何か提案しても「あんまりわからない」という答えしか返ってこなかった。



「俺、仲いいやつとカラオケ行くと、だいたいこのバンドの歌しか歌わないんだよね。」

「え…?」



そう言って南出さんがこちらに見せてきたのは、私が大好きで何年も追いかけている少しマイナーなバンドの歌だった。そんな歌を選ぶなんて大人数のカラオケにはふさわしくないと思いながらも、その歌を知っているという事に純粋に驚いた。



「知らないよね。やっぱ別のに…」

「いや、大好きです。」



素直にそう答えると、南出さんは驚いた顔で私を見た。それに私も驚いていると、次の瞬間に彼は、顔をクシャっと崩して笑った。



「初めて見た、このバンド知ってる女の子。」



不意の笑顔に、騙されてしまいそうになった。

このハイスぺイケメンが私にこんな笑顔を向けてくるなんて、嘘過ぎる。



一度ドキッと胸が高鳴ったことを否定はしないけど、人間の本能みたいなものだから仕方がない。


誰に言い訳しているのかも分からないけどとりあえず呼吸を整えて、「私もです」と答えた。



「いつから好きなの?」

「えっと、"天井交換"を聞いたくらいから…。」

「え!俺も俺も!やばい、なんか感動するわ。」



イケメンはそう言いながら機械を操作して、"天井交換"を予約にいれた。周りの友達から「なんだよその変な歌」と言われていたけど、イケメンは笑って「うるせえ!」と言っていた。



「響くんだよな、歌詞が。」

「そうなんです。ちょうどその頃元カレと別れた頃で…。」

「そんなところまで一緒。」



そうやって歌の感想を話す南出さんの笑顔には、嘘がないみたいに見えた。

最初私に話しかけてきたときにはどう見ても下心が見えたけど、でもどう考えても今の笑顔に、下心があるように思えなかった。



「ほらなっちゃん。次俺たちだよ。」

「え、私も?!」

「当たり前じゃん!二人で歌えば怖くない!」



あなたに怖いものなんてあるんですか?と思いながらも、南出さんにつられて一緒に歌を歌い始めた。歌っているうちに酔っているのもあって私たちは肩を組み始めていて、周りにはドン引きされながらもその歌を楽しく歌いつくした。



「やばい!まじで楽しい!」

「私も、です。」



あれ?もしかして…。

神様、もしかしてですけど。


ついに私にも、本当に運命ってやつ、訪れちゃってます?



結婚した友達に聞くと、よくビビッときたとかそういうの言っていた気がする。まさに私の今がそれで、私はこの胡散臭いハイスぺイケメンに、心臓が高鳴ってしまっている。



「ねぇ、なっちゃん。今度二人でカラオケ行ってよ!」

「は、はい。」




断る理由が見つからなかった。

運命とかそういうのを信じられる年でもなくなったけど、この人のことをもっと知りたいとか、そんなことを思い始めていた。



イケメンはそれからもなれたように私に連絡先を聞いてくれて、私も警戒心を少し解きながら教えてしまった。


遠くの席でニヤニヤと、祥子がこちらを見ているのが目に入ってきた。

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