風塵遮視-サンドアウト-

天を駆け、大地を滑る嵐

高速で動く相手に砲撃を放つ。


しかし砲撃はかわされ、反撃を受ける。


後方から別の相手が駆け抜けると、そこに気流の槍が生まれた。


気流の側面に当たると壁のような衝撃を受け、思わずバランスを崩し落ちてしまう。


ある者は気流にうまく乗り、一気に駆け抜ける。


またある者は駆け抜ける相手に目がけて砲撃を放つ。


またある者は体当たりで他の者を気流の槍へ突き飛ばす。


そして不意に突き飛ばされた者は気流の槍に衝突しバランスを崩して落ちてしまった。




「さあ!残り3チームになった!!」


実況の言葉と同時に映像は最終コーナーの固定カメラからのものに変わった。


滑るように宙を舞う集団が駆け抜けていく。


大きく曲がったコースを旋回して駆け抜ける集団の風圧で固定カメラが揺れる。


風は見えない。しかし駆け抜けた後は気流が槍のように流れている。


「さあ!最終コーナーを曲がり、残りは超ロングストレート!!

ここが勝負の分かれ道だ!!」


そう実況が叫ぶと、最後尾の大型車立ち止まり、大きな砲身が現れた。


「こ!こ!で!仕掛けてきたああああ!!」


実況の絶叫で会場が一気に盛り上がる。


そんな盛り上がりを他所に巨大な砲撃は放たれた。


凄まじい衝撃を放つ光はコースを走るように過ぎていく。


コースの終着点、すなわちゴール地点である会場にまで砲撃は放たれた。


だが会場は多少の衝撃で揺れる程度で砲撃を打ち消していた。


コースを埋め尽くすように放たれた砲撃は前走者たちを一気に飲み込む。




……はずだった。




別の二台の大型車がそれぞれシールドを張り砲撃の一部を弾き飛ばす。


その空いたスペースに逃げ込むように、板に乗り滑る者、走るように滑る者が逃げ込む。


弾かれた砲撃はどこかへ飛んで行ったが、途中で何かに当たるように消えていった。


砲撃はまだ断続的に放たれている。


大型車は身動きがとれない。身軽な者たちは限られた空間を駆け抜ける。


「このまま砲撃が勝つか!耐え抜くか!最後の勝負だ!!」


だが健闘むなしく、一台はシールドが崩れ砲撃に飲み込まれた。


そしてかろうじて空いていた空間も砲撃に埋め尽くされ、全てを飲み込んだ。


「ああっと!ここで1チームダウン!無念のリタイアだ!!」


片方のチームが倒れるのが確認出来ると、巨大な砲撃は徐々に小さくなり消えていった。


砲撃が消えると同時に最後尾の大型車は急加速で駆け出す。


どうやら片方のシールドの破壊を諦め、このままレースで差をつける作戦に切り替えたようだ。


「きゅ!う!きょ!作戦変更!!これはどうでる!?」


即座に加速したお陰で先を走ることが出来た大型車は、先に駆け出していた者たちを追い抜き先頭に立つ。


それを追うように残った大型車も駆け抜ける。


道中、先を駆けていた者たちを回収し、レースは大型車二台の争いになった。


「ラストはモービル同士の一騎打ちだ!!」


互いに小さな砲撃を打ち合い、相手を妨害する。




すると大型車は徐々にスピードが落ちていく。


どうやら砲撃とシールドでエネルギーを使い切り、十分に走れなくなったようだ。


「おっと!?もしやモービルは二台ともエアー切れか!?」


片方は切り札の大型の砲撃、もう片方はそれを防ぐシールド。


どちらも大量にエネルギーを消費していた。


大型車での走行を諦めると、それぞれから二人ずつ飛び出した。


「やはり最後を決めるのはボードだ!おっと!?一人だけスケートだぞ!!」


先頭から飛び出したのは板に乗って滑る二人。


そしてそれを追うように板に乗って滑る一人と走るように滑る一人。


「直線ではスケートが不利!やはり狙いは?」


ある程度スピードが出た頃、先頭を走る者の後ろに強い気流が生まれる。


「出た!!タービュランス!!」


槍のように鋭く流れる気流、タービュランス。


巻き起こる粉塵で可視化したその気流は、このレースの醍醐味の一つ。


タービュランスの発生と同時に後ろを走る者たちは全員その気流に乗り勝負の時を伺う。


気流の効果で後方を走る者たちが追い上げ、先頭との距離が段々と縮まる。


「残りわずか!先にゴールへたどり着くのはどっちだ!?」




「ごおおぉぉぉる!!ゴール前の混戦を制したのはスケート!優勝はジェットホークだ!!」


実況と共に起こった爆発で紙吹雪が宙を舞い、観客たちの盛り上がりは最高潮だった。


「やはり最後のタービュランスからのトリック、そして着地後の加速で僅かにスケートが勝った!

トリックのタイミングがもう少しズレていたら結果は変わっていたかもしれない僅差のレースでした!」


ゴールシーンが何度も流れ実況が丁寧に解説する。


映像では四人が宙を舞い、我先にとゴールへ進む姿が映し出されていた。


足先だけの本当に僅かな差だった。


当の四人のうち、二人は抱き合い優勝を喜び、残りの二人は落ち込みながらも拍手をしていた。







「ふん、あいつらが優勝か…くだらん」


放送されていたレースの中継を切り、何かを投げつけた。


「この程度の相手に苦戦するとは…俺の言う通りにしていれば大差をつけれただろ!」


男は近くの壁を蹴る。


「ちくしょう!ちくしょう!!ちくしょう!!!」


何度も何度も壁を蹴る。


「なぜ…なぜだ!?なぜなんだ!!」


男の叫びに答える者はいない。


「俺は終わった…もう戻れねぇ…いや戻る気もない!…くっ!」


頭を抱え、しゃがむ男は小刻みに震えていた。


「…もう…いい。全部…・」


そう呟くと男は電話を取り出した。


「……」


「俺です…決めました。やります」


通話相手の声は当然聞こえない。


「…はい……はい……お願いします」


そう頼むと、通話は切れた。


「こう決めると…本当にどうでもよくなるんだな」


男は椅子に座り天を仰ぐ。


「次は……ワールドグランプリか…」


日付を確認すると、なぜか笑いが込み上げてきた。


「…ふふっ…ふふふっ…はっはっはっ!」


大きく深呼吸をして、一度落ち着きを取り戻す。


「楽しみにしてるがいい!!」


その目には鈍い光があった。

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