和解
「う…ん……」
目が覚めると知らない天井が見えた。
(何処だ?ここは?)
気怠い身体を起こす。
どうやら病院のようだ。
たぶんファイゼンに運ばれたから魔法世界のだろう。
(ホントに存在するんだな、魔法世界って)
見た目は普通の病院で実感は全くない。
「気が付いたか?」
突然声をかけられたので驚き、声の主を確認した。
そこには腕を組んで壁に寄り掛かっていたあの赤髪のチビ女がいた。
「あんたは…」
「リャン・リシャ、あいつらからはリーシャって呼ばれてる」
そういえばリーシャと呼んでいた気がする。
「で、何の用?殺しに来たの?」
「ちげぇよ。…その…」
あの時はもっと強気な感じがしたが、今はかなりオドオドしている。
「すまなかった!勘違いだったとはいえ、うちは…」
頬に何か光るものがあるように見えた。
「話は聞いてる。俺もあんたを殺そうとしたんだ。責める気はないよ」
「でも……」
それじゃ許されないって顔をしていた。
「俺どれくらい寝てた?」
「三日くらいだ」
「その間看病してくれたのか?」
「そ、それは…」
またごもごもする。
こう都合よく目を覚ましたタイミングに居るには、看病し長時間ここに居なければ出来ない。
それに目が覚めたときに何もせずに壁に寄り掛かって待っていたのもその理由だ。
「あんたも怪我してるんだろ?」
腕を指し、リーシャが巻いている包帯を示す。
「うちの身体は特別頑丈なんだ。こんなのどうでもいい」
「どうでもよくねぇよ。自分も怪我してるのに看病してくれた。それで十分だ」
「十分じゃねぇ!」
リーシャは必死に訴えていた。自分に責任がある。そう言ってるように見える。
「じゃあどうすれば納得する?」
十分だ違うの水掛け論になりそうだったので打開策を直接聞く。
「う…うちを好きにしてくれ!」
「……」
誰かが聞いたら誤解されそうなセリフである。
「お前の気が済むまで相手する!」
「……」
「だからうちを好きに殴ってくれ!」
そう言ったリーシャにすかさずデコピンをする。
不意打ちの思わぬ、しかもかなり痛い攻撃にリーシャは涙目になりながら額を抑える。
「これでいいだろ?」
「え?」
「俺はあんたを好きに殴った」
「え?でも…」
「お前が言ったことだ。これで文句ないだろ?」
リーシャはまだ納得してないような顔をしていたが、何も言わず頷いた。
これでいい。本当にこれでいいんだ。
問題はここからである。
さっき聞いた寝てた時間は三日。
急いで帰らなければシスターたちに心配されるし、あいつらも心配だ。
「おい、どうすれば地球に帰れる?」
「お、おい、まだ寝てろ」
トウヤは普通に話しているが頭と腕には包帯が巻かれている。
普通ならまだ安静にしていた方がいいだろう。
「お前の症状は…」
「そんなもん地球で治す。一刻も早く戻らないといけないんだ」
「何かあるのか?」
リーシャは真剣な表情で問いかける。
「俺みたいな子供が三日も行方不明なんてのは地球、特に俺のいる日本では大変なことなんだ。
大規模な捜索隊が組まれたり、いろいろな人達に心配させることになる」
「そうなのか?なら急ぐべきだな。
ポーラもまだ寝てっからそういう根回しは誰もやってねぇだろうし」
不意に出たもう一人の怪我人を思い出した。
「ポーラも寝てるのか?」
「ああ、お前と同じ症状だよ。それと腕が折れてたみたいだ」
ああ、あの怪我か。ポーラには申し訳ないことをしたと思った。
怪我人ではあるが身体に痛みは無いので、せっせと着替える。
「地球へ行くなら局内の転送装置を使うしかない」
カーテンの向こうでリーシャが説明する。
「局の人間なら申請出してすぐ出発できるが、お前はまだ局の人間じゃない。
だから局の人間の同伴が必要になるんだが…」
地球に同伴できる局の人間はまだポーラ、ファイゼン、リーシャしかいない。
ポーラは寝てる。ファイゼンはおそらくポーラの看病だろう。
もしくはトウヤがスムーズに局に入れるよう仕事しているか?しかし呼びに行く時間も惜しい。
となると…
「うちの名前で申請した。仕方ねぇが付いて行くよ」
「嫌いなのに悪いな」
「ま、一応仲間だからな」
地球嫌いとは思えないような笑顔で返された。
こいつも肩書きで見ないように頑張ってるんだな。
あんな殺し合いもしたが、何とかなりそう。そんな気がした。
急に部屋の扉が乱暴に開かれた。
扉を開けた主はポーラだった。
「ポーラ、起きたか」
ポーラは安心するリーシャをさて置き、トウヤに詰め寄る。
「トウヤ!帰るよ!急いで!」
「どうしたんだよ、そんなに慌てて」
まだ荷物とかも地球にあるので、言われなくても今から帰るつもりである。
「いい?よく聞いて」
ポーラはトウヤの肩をしっかり掴み言い聞かせる。
「地球はね、魔法世界の半分の早さで時間が進むの」
「え?」
わけが解らない。
「ここでは三日しか経ってないけど、地球はもう六日経ってるのよ」
その瞬間、急がなければならない理由が理解できた。
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