風打ち2

「エンチャント・ギア・セカンド」


見た目は特に変化していないが発している魔力はさっきより確実に増えていた。


「まだ納得していないのね」


「当然だ。あんたはまだ力半分も出していないだろ?」


スカウトに来ているのだから手加減しているのは事実だが、彼はそれでも納得していないようだ。


さっきの戦闘で籠手が片方やられてる。さてどうしようかと考えているとトウヤはデバイスを消した。


「何それ?私の籠手の差を埋めるつもり?」


「邪魔に感じたから消すだけだよ」


「それって侮辱よ?甘く見すぎだよ」


ポーラの戦闘は放出魔法がメインではあるが、接近戦をこなせないわけではない。


仮にもギルドマスターになろうと言うのだから、そんなポンコツではない。


「そういうのはちゃんと判断するよ」


そう言うとトウヤの姿が消えた。


またたきか!?即座に目線を自分の周りにやると正面から低い体制で近づいてきた。


「また!?」


先程の戦闘と同じ光景に見えた。


しかし正面の姿は薄らいでいた。


(これは!?)


周りを見渡すとトウヤが数人に分かれていた。


いや、正確には複数の残像に囲まれていた。


自身と同じ姿の残像を残す、具現化系の魔法か?


だがこの程度探知すれば簡単にわかる。


しかしその残像が迫ってきた。


もし仮にこの中に本物がいてふるえを使われたら危険だ。


即座に残像のいない空中に飛び退いたが、それはトウヤの想定した動きだったのだろう。


トウヤ本人が空中で蹴りを構えていた。


だがポーラも同じ手は食らわない。即座にトウヤの足にめがけて雷を放つ。


足に衝突した雷は爆発し、それにやや遅れてふるえと思われる振動が放たれた。


思った通り衝突、または接触で発動する誘発タイプだった。


そして想定外の場所で揺れたため、ポーラ自身には全く影響がなかった。




すこしトウヤの足に怪我がないか気になったが、

付加魔法エンチャントの効果でしっかり強化されているため怪我はないように見えた。


ギアと言っていたのでおそらく段階的に付加を付け身体や能力を強化してるのだろう。


こういうところは魔道士らしい発想である。


そうこうしているうちにトウヤが動く。


足をしっかり曲げ、ジャンプするように頭突き、いや、突進か。


かなりのスピードだが十分に避けられた。


しかし避けた後に強い衝撃を受けた。


どうやら通過地点から数mは風の衝撃波のようなものが起こるようだ。


トウヤの攻撃にはただ単純なものもあれば、

避けられた時を想定した厄介な効果がついてるものをみせる。


「厄介な…」


予想をはるかに超える優秀さである。


ポーラはこの戦いに快感を得始めた。


何をしてくるかわからないのがこんなに楽しいなんて。


思わずスイッチが入ってしまいそうになるがここは我慢である。




「風打ち・第十座・たち!」


そしてトウヤから新しい光線のようなものが放たれる。新しい風打ちのようだ。


「トライデント・スマッシュ!」


それに応呼するようにポーラも雷の光線を放つ。


三つの光線が渦を巻くように放たれたが、断と衝突すると一方的に消えた。


たち、断ち切るのたちだろう。だからこそ一方的に消えたと予想する。




なので上空へ飛び、再度雷の光線を放つ。


「ガンズ・ランサー」


ポーラの左右一面に無数の魔方陣が描かれ、その中心から槍状の雷が現れる。


「シュート!」


全ての槍がトウヤに向けられ、乱れ撃ちのように発射される。


たち!」


放たれた槍はトウヤの目の前で消えていく。


まるで見えない壁に当たったかのようだ。


空間を断ち切る。だから一方的に消滅すると言う事か。


それは壁として断ち切っても良し、光線状にして放っても良し。汎用性のあるもののようだ。


しかしいつまでも断ち切ったままというのは出来ないだろう。


いくら空間に干渉できるとは言え、断ち切ったものをそのまま維持することは摂理として出来ないはず。


(さてどうする?)


と槍を放ち続けながらトウヤの動向を伺う。


すると高く飛びあがりポーラを見下ろす位置へ移動した。


「無駄よ」


魔方陣の方向を変え、放たれる槍の方向をトウヤに向けた。




「風打ち・第十一座・しずめ


一瞬、空間が凍りついたように感じた。


そして気付いたら魔方陣がパリンと音を立て崩れていった。


(まさか、魔力を打ち消した?どうやって?)


魔方陣が崩れると言うことは術者からの魔力の供給が消えたことを意味する。


ふと思い当たる魔法があった。


「デスペルか」


魔法を強制的に打ち消す魔法が魔法世界にも存在する。


これは使う人間が限られる伝説級の魔法だ。


それを魔法の概念がない国の魔道士が使って見せたのだ。


しかし欠点は魔法世界の物と一緒のようで、明らかにトウヤの息が上がっている。


デスペルは大量の魔力を消費するため乱発できないのだ。


そして魔力不足になった魔道士は強い倦怠感に襲われる。


しかし、この倦怠感は元の魔力が高ければ高いほど強く出るはずなんだが…


推定Sランク以上は伊達じゃないということだろう。




そうこうしているうちにまたトウヤの姿が消えた。


そして突進を繰り返し縦横無尽にポーラへの攻撃を続ける。


連続で攻撃して何もさせないつもりだろう。


さらにあのふるえに対する警戒もしなければならない。


息が上がっていたので疲れはあるはず。それでもこのスピードと手数は驚異的だ。


見えなくはない、でも守る一方で何も出来ない。しかも手数に重点を置いてるのか攻撃が軽い。


何かを狙っているのはわかるが、何をするかがわからない。




「風打ち・裏二座」


そうトウヤが呟いているが聞こえた。




(裏!?裏があるの!?)


耳を疑い驚く。


さき!!」


左手に何かが当たると鋭い痛みが走った。


「あああああ!!」


左手を見た限り見た目に変化はない。しかし左手に力が入らない。


力を入れようとすると痛みが走る。


「まさか、骨を折ったの!?」


トウヤは答えの代わりを出す。


「裏三座・穿うがち


トウヤが身体を指をさすと何かに打ち抜かれた。


そして目の前が真っ暗になる。


(あ、死んだかも)


何が起きたのかわからぬままポーラは倒れた。

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