戸惑い
「さっきやられたから、今度はこっちから行くよ!」
ポーラはデバイスの性能を確かめたいこともあり、先に仕掛けた。
さっきの彼の速さからある程度の見切り能力があると思われるので、見切れる速さで拳を叩きつけた。
拳と言っても変身時に身に着けた籠手型のデバイスにより、10m大の大岩も簡単に砕ける力はある。
ガン!
鈍い衝突音を発したが、拳は止められた。
(この程度では壊れないか)
粗悪品の疑惑は拭えないが、物としては合格点だろう。そしてまだ十分耐えられそうだ。
拳を弾くと斧で薙ぎ払ってきたので少し身を引きそれをかわす。
あれ?
一瞬、斧におかしなところがあったように見えた。が何がまではわからなかった。
もう一度確かめようと思ったが、斧を持っていない手で指差しをしている姿が見えた。
あれは監視してる時に見た構えだ。彼は放出系の魔法を使用するときは、大体この構えをしていた。
しかも使う属性がわからない。確認できただけで、炎、風、雷を使ってた。
急いで横に動き躱そうとしたが、動きを見切られ方向を直され撃たれた。
身体に衝撃を受けながら吹っ飛ぶ。バリアジャケットのおかげで痛みはないが、強い突風で吹っ飛んだのがわかった。
身体が回り上下左右が一瞬わからなくなったが、一面の海を見て海上に飛ばされたことを理解し、体勢を立て直す。
橋を確認し吹っ飛ばしてくれた相手を確認しようとしたが、そこに彼はいなかった。
「え?どこへ?」
周りを見渡すと上空に動くものが見えた。
「しま…っ」
完全に次の砲撃の構えが出来た状態で真上をとられたのだった。
そしてさっきの威力が可愛く思えるほどの暴風で海に叩きつけられた。
「…っ…ぁぁ」
あまりの衝撃に声が出ない。
その暴風に押しのけられ海水が飛び、海底に叩きつけられた。
さすがに多少の痛みが体中を走った。
防具の性質上、少しの痛みが走ることは許容範囲を超える可能性があるサインである。
かなりの衝撃でないとこのサインが出ないが、早々とここまでやられるのは想定外だ。
「くっ…」
暴風がおさまり、海水が押し寄せる。
あまりの衝撃に身体がまだ思うように動かないが、飛行魔法は使えたので海面を滑るように上った。
海面に立つと同時に大きく息を吸い、吐いた。予想はしていたが放出系魔法はかなり強力だ。
これだけやって見せて放出系じゃないなんてありえない。風属性の魔法としても申し分ない。
だとするとやはり気になるのがあのデバイスとバリアジャケットの存在だ。
未だちゃんと使ってるところを見ていない。違和感があるが粗悪品か?
「なあ」
不意にトウヤに声をかけられた。
「あんたの足元の海水、変な動きしてるんだが何かしてるのか?」
「変な動き?」
足元を確認すると海水がポーラの足の周りだけ凹み、全体的に渦を巻いてるように見えた。
「あぁ、これは飛行魔法の影響よ。足元で風の渦を作り身体を浮かせてるのよ」
「なんだそれ?突風とかで簡単に飛ばされそうだな」
「なんだそれって、君も今やってるでしょ?」
現にトウヤは飛行魔法で宙に浮いている。
「は?俺のは空間を切り取って動かしてるだけだよ」
予想だにしていない返答に戸惑う。
「え?君の魔法って…」
「どうやら根本的に違うようだな」
空間を操る魔法。
魔法世界では有名な魔法だが、皆一概に便利だが強くないという認識だ。
二つの空間を繋ぎ瞬時に移動する。これはポーラ達が地球に来るときに使用した魔法でもある。
物を遠くに移動させることも出来るため、デバイスなどの転送にも使われる。
そして異空間を作り移動することも出来る。これは空間を操作出来る魔道士にしか干渉出来ないため逃げ場としては有効である。
さらにこの空間の繋ぎ目を対象が移動している最中に閉じることで対象の体を切断させることも可能である。
これは有名な攻撃方法なので、敵はこの繋ぎ目に入ることは絶対にしない。よって実行出来る機会は滅多にないだろう。
空間を操作する魔法はそれしか出来ない。そのことから魔道士たちからは支援系魔法として認知されている。
ちなみにこの魔法は操作系に分類されている。
ここにきて五つ目の能力が明らかになった。
が確かに
そしてこの子が背中から小太刀を取り出したときにこの能力に気付くべきだった。
魔道士を見ないこの世界で、変身用の道具にした小太刀を常に身に着けておくことは無い。
つまり空間転移で取り出したのだ。
だとするとこの子のルール無用の何でもありの能力は何だ?
超スピードを可能とする強化系魔法。デバイス、バリアジャケットを作成出来る具現化系魔法。
監視の時に見た雷、炎、そしてさっきの風の属性変化を可能とする変化系魔法。
そしてそれを砲撃として扱う放出系魔法。最後に空間を操る操作系魔法。
魔法のルールが無茶苦茶だ。
わけが解らなくなり頭を
(あれ?身体が何ともない?)
風の魔法で吹っ飛ばされ海や海底に叩きつけられたはず、一瞬意識を失いかけたほどに。
いくらバリアジャケットに守られているとはいえ、意識を失いかけるほどの衝撃を受ければ痛みは残るはずだ。
しかしその感覚が何もない。どういうことだ?
ふとある考えが頭を過った。
(もしかして見た目が派手なだけ?)
人は視覚や感覚で誤認することがある。
他人の指に針が刺さったり、切ってしまったりすると、それをさも自分の身に起こった出来事のように感じることがある。
痛くもないのに痛いと感じる。剣で首を切られたように見せられ本当に切られた気分になる。
実際にそのような幻覚で自身の体に害を成した事例も沢山あるし死亡例も聞いたことがある。
そしてさっきわかった空間を操る能力を使えば納得がいく説明が出来る。
見た目は凄まじい威力があるように見せ、実際は空間操作で引っ張っただけだった。
なぜそのようなことをした?何のために?
その答えは簡単だった。
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