10.ダンジョン第2階層藍エリア - 3 -

「ふむ、これは変わった職痕マークですね。こんなのは初めて見る…いや、どこかで見たような…確かここにスクラップしていたはず」


 翔琉の左胸に浮かんだ職痕マークをしげしげと眺めていた町長は何かを思い出したように部屋の片隅に置いてあった古ぼけたファイルを引っ張り出してきた。


「あったあった!これですよ!」


 そう言って見せてきたのは茶ばんだ海外の古い新聞の切り抜きだった。


 そこには男の左腕の写真が載っており、そこに浮かんだ職痕マークは確かに翔琉の左胸に浮かんだそれに似通っていた。


「レベルやスキルによって職痕マークの模様は若干変わっていくのですがジョブを示す部分は一緒です。これによると…これは”運び屋”のジョブらしいですな」


「運び屋?」


「ええ、物を運ぶことに関するスキルが得られるジョブです」


 その言葉に思い当たるふしがあった。


 突然足が早くなったのも、オットシを背負っても全く重さを感じなかったのもこのジョブを手に入れたからなのか。


 そしてこのジョブが身についたのは…やはりあの天使のような生き物が体内に入ってきたからなのだろう。


「へえ~、その運び屋っていうジョブはかなりレアなんだ。今までに数例しか確認できてないって」


 スマホで調べていたナナが感心したように声をあげた。


「ねえねえ町長さん、カケルのレベルやスキルはわからないの?この町に鑑定士はいなかったっけ?」


「あいにくと今は別の町に行っているところでして、帰りは数日後になるのです」


「と、とにかく!この運び屋というジョブで何かやれることはないですか?オットシさんの治療をできるような?どこかに何かを運ぶとか、何かを持ってくるとか!」


 翔琉の懇願に町長は申し訳なさそうに首を振った。


「申し訳ないのですが今はそういった用事はありません。仮にあったとしてもとてもその額には…」


「そう…ですか…」


 翔琉はがくりと肩を落とした。



「一旦戻ったうえで異港の救急センターに行って協会の認定治療士に治療をしてもらうという方法もあるけど、その場合は今以上にお金がかかると思う。おそらく150万円はくだらないんじゃないかな」


 ナナが重々しく告げた。


「おそらくこのままだと一週間持たないと思う。それまでに決めた方がいいと思う」


「モンスターを討伐して素材を集めるのが一番手っ取り早いのですが、運び屋というジョブですと…」


「クソ…」


 ナナと町長の言葉に翔琉は歯噛みをした。


 翔琉たちが今いるのは第2階層、つまりどれだけ頑張ってもレベル2ということになる。


 そのレベルで倒せるモンスターなどたかが知れているだろう。


 ましてや翔琉は戦士でも闘士でもない、ただの運び屋なのだ。




「し、仕事ならある…」


 その時オットシが声をあげた。


 苦しげにスマホを操作すると翔琉のスマホにメッセージが来た。


「そ、それは私のプライベートマップだ…そこに第3階層に生えているキュアリングハーブの場所が載っている…それを摘んで来てもらえないか?それがあれば治療代になるはずだ」


「キュアリングハーブですと?怪我から解毒、状態異常まで全てを治療できるという薬草が第3階層に?」


 町長が驚いたように目を見張った。


「私だけが知っている秘密の場所だ。おそらくリュック一杯に詰めてきたら数百万になるはず。カケル君…町長への支払った残りを君への報酬にする。それでお願いできないだろうか?」


 翔琉は町長の方に振り返った。


「町長、そのキュアリングハーブというのを持ってきたらオットシさんを治してもらえるんですか?」


「そ、それはまあ…しかし…本当にやるのかね?」


「もちろんです!」


 翔琉はそう叫ぶと山刀を掴んで立ち上がった。


「こ…これも持っていくといい…その山刀よりも役に立つはずだ…」


 オットシがサバイバルナイフを翔琉に差し出した。


「ちょ、ちょっと!本当に行くつもりなの!?第3階層なのに?」


 驚くナナに翔琉は頷いた。


「ここでじっとしていたって何もならないですから。やれることは全部やってみますよ。それじゃあちょっと待っていてもらえますか?すぐに取ってきますので」


 そう言うと翔琉は踵を返して町長の家を出た。


「ま、待ちなさいってば!…しょうがないから私もついていってあげる!」


 その後をナナが追いかけた。


「いいんですか?ナナさんには何の得にもならないんじゃ…?」


「あなたがそこまでやるのに私だけ何もしないんじゃ居心地悪いじゃない。それに本当にキュアリングハーブがあるなら行く価値あるし」


 翔琉に追いつきながらナナがすまし顔で答えた。


「あなた、危なっかしくて見てられないところもあるしね。何かあったら助けてあげるから安心して。当然有料だけどね」


 そう言って右手を差し出す。


「それはどうも…お手柔らかに頼みます」


 翔琉は苦笑しながらその手を握り返した。


「じゃあ私たちはこれから先パートナーという訳ね。ついでにお願いするとその話し方も止めてくれない?組む以上敬語はいらないし私のこともナナでさん付けはいらないから」


「わかりま…いや、わかった。これからよろしく頼むよ」


「よろしい」


 ナナは満足そうに頷くと改めて翔琉の方を見た。


「それで、行き先はわかってるの?」


「ああ、こっちだよ。時間もないし急ぐことにしよう」

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