6.ダンジョン第2階層青エリア - 2 -
「カケル君、何かやっていたのかい?」
「中学のころから合気道をやってるんです。でも実戦はあれが初めてですけど」
「そうなのか。とてもそうは見えなかったぞ。あっという間に男を抑え込んでたじゃないか」
「いやあ、たまたま上手くいっただけです。結構緊張しましたよ」
翔琉とオットシはそんな会話をしながらダンジョン内を歩いていた。
第2層と言っても第1層とそう変わることはない。
同じように素掘りのダンジョン内を不思議な明かりが照らしていた。
「うーむ、私も今から護身術を習おうかな。ダンジョン内は何があるかわからないからなあ」
「ああいうことが結構あるんですか?」
「あるなんてもんじゃない。あんなのはまだ可愛いものだよ。冒険者の中にはヤクザ崩れや娑婆じゃやっていけない食い詰め者がうじゃうじゃいるからね。それにダンジョンの中は日本の法律が一切通用しない外国扱いだから何が起きたって不思議じゃないんだよ。ある意味モンスターよりも恐ろしいのは人間同士とも言えるだろうな」
オットシはうんざりというように肩をすくめた。
「だからカケル君も気を付けた方が良いぞ。冒険者同士と言えども油断はしちゃ駄目だ。って私が言えることじゃないか。ハッハッハ」
「ハハハ…」
だらだらと会話をしながら小一時間ほど歩いていた時、突然オットシが足を止めた。
「ちょっと待った、あの横穴は何だ?」
指差した先には真っ黒な穴が口をあけていた。
「あんな道はマップにも載っていないぞ」
オットシがスマホを操りながら興奮したように呟く。
「地図ってどうやって見るんですか?」
「それはダンジョン内に付けられたダンジョンジオタグを読み取るんだ」
オットシは気もそぞろというようにダンジョンの壁に貼られたプレートを指差した。
その金属製のプレートには『第2階層青エリア』という言葉と共にQRコードが刻まれていた。
「先人たちが探索をしながら作ったマップがダンジョンナビに入っているだろ。ダンジョン内に貼られているジオタグのQRコードを読み取れば自分の今いる場所が分かるようになっているんだ」
翔琉がそのQRコードを読み取るとスマホの地図に現在地が表示された。
「なるほど、こんな便利な機能が付いてるんですね」
オットシは翔琉の話など耳に入っていないかのように興奮しながらスマホを見ている。
「しかしあの横穴はこの地図には載っていない…つまりあれは新ルートってことだ!」
「??それがどうかしたんですか?」
「どうかしたなんてもんじゃない!既に探索済みのエリアにもああやってたまに新しく道ができることがあるんだ!そういう新ルートはまだ誰も入っていないからアイテムや素材が見つかる可能性が高いんだよ!他の人に入られる前に入ってしまうぞ!」
言うなりオットシは横穴へと駆けだした。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
地面に置いていたバックパックを背負い直して翔琉も慌てて後を追った。
「おーい、オットシさーん、どこに行ったんですか~?」
翔琉は暗いダンジョンの中を一人歩いていた。
できたばかりのルートだからなのか今まで通ってきたダンジョンよりもかなり薄暗い。
オットシに言われるままにヘッドライトを買っておいて良かった、と翔琉は心から思った。
既にかなり先行されてしまったのかオットシの姿は全く見えない。
「どこに行ったんだ?あの人こういう時は素早いんだな」
翔琉はライトが照らすわずかな足がかりを頼りにゆっくりと進んでいた。
目の端に不思議な光が見えたのはその時だった?
「?」
ダンジョンの脇、瓦礫の影に何かがいるみたいだ。
恐る恐る近づいてみるとそこにほのかに光るものがあった。
「人…形…?」
それは人の形をしていた。
とは言っても大きさは40~50センチほどしかないから人形にしか見えない。
全身からほのかな光を放っていて、背中には鳥のような翼が生えている。
「モンスター…なのかな?」
翔琉はおずおずとそのモンスター?に手を伸ばした。
手に持ってみると驚くほど軽かった。
まるで重さを感じさせない。
それは人間の子供をそのまま縮めたような造形をしていた。
ぐったりとして目を閉じているけど端正な顔立ちをしているのがわかる。
背中に翼が生えているあたりはまるで聖書に出てくる天使のようだ。
「生きてるのかな?それともこれがアイテムとか?」
頬をぺちぺちと叩いてみても何の反応もない。
「とりあえずオットシさんに見せてみるかな…」
その時、突然それが目を見開いた。
「うわっ!」
思わずのけぞった翔琉にそれが飛び込んできた。
そしてそれはそのまま翔琉の身体の中に吸い込まれていった。
「うわ、うわあ!うわああああああ!!!!」
翔琉は突然のことに叫びながらゴロゴロと転げまわった。
シャツを引きちぎるようにはだけてみても先ほどの天使のようなものは影も形も見えない。
(体に寄生された?まさかそんなモンスターが?俺はどうなるんだ?体の中から食われるのか?)
冷や汗がどっと溢れでて、鼓動が破裂しそうなほどに胸を叩き、息を吸い込もうとしても浅い呼吸しか出てこない。
パニックを起こしかけていた。
「ぐああああっ!」
オットシの叫び声が聞こえてきたのはその時だった。
「オットシさん!?」
翔琉は立ち上がると荷物を投げ捨てて走り出した。
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