第22話
「もちろん気絶して苦しみから逃れるなんてさせるわけないでしょ。私は三日月と違ってそんなに優しくはないの。」
朦朧としていた意識が無理やり現実に引き戻される。彼は再び激しい痛みに襲われた。
「ぐぁぁ!ぎゃああああ!」
彼の喉は先ほどからのあの拷問によってまともな叫び声すらあげることのできない状態にまで陥っていた。そして意識ははっきりとしているのに、目の焦点が合わなくなってきて、まるで左右の目が別々の方向を向いているかのような感覚であった。彼は気が狂ってしまう一歩手前の状態であった。
「はぁ、今回のお楽しみはここまでかしらね。これ以上やって完全に壊れてしまっても嫌だしね。そこの者たち、この人間を地下室に連れて行きなさい。」
宵月が手下にそう命ずると、手下のうちの二人が彼の拘束を解いた。拘束は解かれても体が思い通りに動かないので逃亡するどころか立ち上がることすら困難だった彼は、手下の二人に抱きかかえられるようにして彼は地下室に運ばれた。
地下室は、まるで刑務所のような内装だった。柔らかくないベッドに薄汚れた毛布が一枚、端にはトイレの穴が設置されていた。
彼は手下の二人に放り投げられるようにしてベッドに寝かされた。そして手下の二人は設置されている地下室の鍵を閉めることもなく部屋から去って行った。俺は手下の二人が部屋からいなくなったのを確認すると、彼部屋から脱出しようと試みるが、体が言う事を聞かず、思うように動かなかった。まるで芋虫のような格好で必死に身をよじって地下室の出口まで向かい、やっとのことでたどり着いたが、そこで彼の意識はプツリと切れた。
「どうしてこんなところで寝ているのかしらねぇ?」
宵月の蔑むような声と共に頭の右側の横っ腹に走った激しい痛みによって彼は目を覚ました。目を覚ますと、彼の体は驚くことに宙を舞っていた。そしてすぐに地下室の壁に衝突した。宵月が寝ている彼を蹴飛ばしたのだ。その衝撃を左腕がもろに受けてしまった二の腕がすごく痛んでいた。その上、彼の思うように動かせず、だらんと垂れていた。
「何をするんだ!」
彼は地下室の壁にもたれ掛かりながら宵月を見上げるような体制で睨んだ。くれぐれも彼は自分のけがのことを宵月に悟られないように自身の腕を背中の方にかばっていた。
「あらあら、痛かったかしら?私は好意のつもりで起こしてあげたのだけれどねぇ。」
宵月は彼を馬鹿にするようにクスクスと笑っている。そして宵月は彼がかばっている左の二の腕に気付いたようで、目を向けた。
「おや?もしかして怪我しちゃったの?ごめんなさいね。お詫びにちょっと見せてみなさい。」
宵月はふざけているようにニヤニヤと笑っている。まともに手当てする気がないのは明らかであるので、彼は宵月に骨折した腕を見せることはせずに宵月を鋭くにらみ続けた。
「聞こえなかったの?私に見せてみなさい。」
「見せるわけがないだろ!見せてと言われて見せる馬鹿がどこにいるんだ!?」
「ふーん、そういうのね?」
宵月は彼の方に近づいてくると、無理やり彼の腕を引っ張った。そして、グイっと腕をひねった。
「ぎゃああああ!」
彼は思わず叫び声をあげてしまった。そして声の限り叫び続け、再び彼の喉は限界を迎えた。
「ほら、ここを見てみて、ぷくーっと血が溜まっててとても美味しそう。とてもそそられるわ。ねぇここに噛みついてもいいかしら?」
宵月は彼が骨折して大きく腫れているところを指している。彼はただでさえものすごい痛みでやっとのことで耐えているといった状況であるのに、これ以上刺激を加えられたらどうなるか分からない。まして、吸血鬼の鋭い牙が入ってしまうとこれは間違いなく壊れてしまうだろう。
「た、頼む!それだけはやめてくれ!」
彼は恐怖で涙が溢れてき、がくがくと膝を鳴らして震え始めた。
「そんな顔でそんなことを言うなんて興奮しちゃうわ。それじゃあいただきまーす♪」
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