第10話 職業2

 ギルドに冒険者募集の貼り紙を貼った次の日。

 俺とアリスはクエストを受けにとある貴族の屋敷に来ていた。

 あまりのデカさに目が点になりながら周りを見渡しながら3m程ある木製のドアの前に立つ。

 数分後ドアが開き3人のメイドに出迎えられた。

「ようこそいらっしゃいました。ユウマ様

 、アリス様。当主メーデー・M・クローバー様が奥でお待ちです。どうぞこちらへ」

 3人のメイドさんは合図し合うことなく、息ピッタリの挨拶を披露する。

 メイドさん自身はこの挨拶を披露なんて思っていないだろうし日常の1部なんだろう。

 しかし俺には舞台の役者顔負けの職人技の一部を垣間見れ俺の心は燃え盛っていた。

 はい、と言い俺は頷きメイドさんに着いていく。


 今回のクエストは貴族の護衛だ。

 冒険者ギルドの掲示板には「護衛」としか書かれておらず、今から直接クエストについて話される。

 実はこのクエストはほかの冒険者も受けようと申請をしていたらしいがパーティーに1人神聖級魔法使いが居るだけで、神級3人のパーティーより優先でクエストを受けることが出来るとは……俺が思っている以上には凄いのかもしれない。


 話は変わるが今案内してくれているメイドさんはとても可愛い。

 ドアが開かれた時に少し顔を見ただけだがおもわず2度見してしまいそうになってしまう。

 百合のような綺麗なピンク、吸い込まれるようなムラサキ、淡く透き通った濁りのないミルクティー色の髪をしている。

 ピンク子は特徴的なヘアピンを左側に。

 ムラサキの子は主の偉大さを示すようなカチューシャを。

 ミルクティー色の子はピンクの子と同じヘアピンを右側に。

 歩く速度、曲がることの無い背筋、すれ違う他のメイド、その全てが完璧なお辞儀を俺とアリスが通り過ぎるまで行っている。

 俺がここに来てまだ10分程しか経っていないが、この領主は信用出来るタイプだ。

 メイドさんを見て俺はそう思った。


 メイドさんだけで無く内装だって凄い。

 どう見ても高そうな絵画や彫刻にツボや花。

 何億掛けたらこんな内装になるんだ?と思ってしまう華やかな廊下。


 長いが飽きることのない廊下を渡り、メイドさんが扉の前で止まる。

「メーデー様。冒険者の方々がいらっしゃいました」

 ムラサキの子が1歩前に出て扉をノックし言う。

「済まないが私は今書類作成が忙しく客人を招き入れる準備が出来ていない。この屋敷の案内でもしといてくれ」

 切羽詰まった低音の声で返事が来る。

「かしこまりました」

 メイドさんは主に見られていないのにお辞儀をする。

 3秒ほどお辞儀をした後くるりと振り返り、「ではこちらへ」

「了解です」


 一階から2階へ部屋を進みムラサキのメイドがドアを開ける。

「こちらが今回の滞在中のお部屋になります」

「ひっっつろ!!」

 キングサイズのベットが3つ。そのうちひとつはカーテンのかかったお姫様ベット。大人数用のダイニングテーブルとL字ソファー。

 こんだけの数の物を置いても余る広さに俺は思わず脊髄反射で叫ぶ。

「メーデー様は御客人にはいい思いをして帰ってもらいたい。何時もそのように仰っております」

「ご不満な点はごさいますか?」

「な、何も無いけどさ……。と言うか」

 小首を傾げたピンクのメイドさん。

「淫魔でもお送りいたしょうか?」

 このメイドがとんでもない事を口走った

「淫魔!?この世界には淫魔が居るのか」

「居ますよ。しかも結構可愛いのが」

「まじかよ〜。……じゃなくて!」

 興奮し鼻の下が伸びた俺はアリスの視線で何とか正常を保つ。

「そこら辺の淫魔じゃご不満でしたら、私が直々に御奉仕ってのもありますが」

 さっきから子のピンクの子は何を言っているのだろうか。

「大変魅力的な提案ありがとうございます。それはアリスが居ない時……。それよりピンクの子なにか勘違いしてませんか?」

「自己紹介が遅れて大変申し訳ございません。こちらのピンクの髪がジャスミンと言います。私はダージリン、こちらはルフナと申します。以後お見知りおきを」

 ムラサキの子ダージリンは自己紹介が遅れたことを謝罪し、他のメイドの紹介をする。

「ご丁寧にどうも」

 こういった格式高い貴族の世界の言葉遣いが分からないと発言に自信を持てないもんなんだな。

 勉強をしとくべきだった。

「ジャスミンさん。なんでそんなさっきから淫魔や私が御奉仕などなんで、仰ってるんですか?そんなに鼻の下伸びちゃってますか?」

 再びジャスミンさんは小首を傾げる。

「ユウマ様が先程と仰ってたのでもしかしたら精液を頂けるのではないかと」

 えげつない事を言いながら舌なめずりをするジャスミンさん。

 だが、動揺し驚くのは俺だけで、アリスとメイドさん2人は表情一つ変えなかった。

 言葉に困り詰まっているとダージリンさんが溜息をつき話し始まる。

「御無礼を申し訳ございません。ジャスミンはサキュバスで先程から言っている淫魔その人なのです」

 ここに来てまた新しい情報が飛び込んでくる。

「この屋敷には基本男性は領主様しか居られないので久しぶりの男性に少々取り乱した様です」

「大変申し訳ございません」

 我に返ったジャスミンさんが深深と謝罪をする。

「全然大丈夫ですよ。むしろちょっとアレな異世界って感じを体験出来ただけでもおもしろかったので気にしないでくださいね」

「寛大なお言葉有難うございます」


「しかし、サキュバスが働いてるのは驚いたな」

「確かにこの世界では珍しいかも知れませんね。冒険者ギルドの近くにまたにある風俗店以外で勤務ってのは私も初めて見ました」

 俺の横にポツンといたアリスが口を挟む。

「アリスは気付いていたのか?」

「ええ。最初はなにかの見間違えかと思いましたが、話を聞いて確信に変わったって感じですね」

「流石だな。俺にはなんも分からなかった」


「失礼致します。ダージリン様少しよろしいでしょうか」

 また新たなメイドが現れダージリンさんに耳打ちをしている。

「わかったわ。ありがとう」

 ダージリンさんはこちらに振り返り、

「ユウマ様、アリス様。準備が整いましたのでこちらへ」

「は、はい」

 何度か返事をする場面があったがなんて返事をするのが正解なのか未だに分からないな。


「こちらになります。では、ごゆっくり」

 メイドさんも一緒に入るのかと思ったら入らず中には俺とアリス。そしてこのクエストの依頼主で当主のメーデーさんだけのようだ。


「これこれはよく来てくださった。ささ掛けてくださいな」

「では、失礼致します」

 ふかっとした柔らかいソファーに腰をかける。

紅茶と茶菓子が机には置いてある

 白髪の優しい感じの叔父様の第一印象のメーデーさんだが、よく見ると額には刃物で斬られた古傷が深く残っていた。


「さて、何から話すべきか」

 着席から10秒ほどの沈黙後当主メーデーが口を開いた。

「……」

「まずは今回の依頼について話させて貰おう」


 メーデーは天井を見上げ話だした。

「私には相棒と呼べる仲間が居た。毎日用にクエストを受け、大物賞金主討伐したり、魔法実験で街の1部を半壊し損害賠償を請求され無一文になったりと苦楽を共にした仲間が居た。大変だがこいつとなら一緒に乗り越えられる。その日もそう思っていた。その日私は仲間にあることを打ち明けられたしまった」


「私、ファルナ王国の1部を統治する領主の娘なの。それで、来週結婚するわ」


「あまりに突然の出来事だった。頭がパンクしそうになった。昨日まで一緒に冒険に出かけていた仲間が領主の娘で来週に結婚をすると言い出したのだから。正直気が狂いそうになったよ。そのあと本当に彼女は結婚した。パーティーにも呼ばれその時は盛大に祝ったさ。なんて言ったって仲間の幸せの披露宴だからね。

 私はそのあと、その時に出会った彼女のお父上と交流を深め、長女と結婚し、今の地位にある。しかし、妻は病弱で早くに亡くしてしまった。その絶望に打ちのめされていると2枚の告発文が私の元に送られてきて、恐る恐る開けてみるとそこに書かれていたのは、苦楽を共にしたアイラが大変な状態にあると書かれていた。

 妻が病弱だったなら姉妹のアイラが病弱な可能性だってある。

 どんな病気だ。今の医療で治るのか?私はページを捲った。

 しかし、そこに書かれていたのは結婚相手であるプランダール伯爵のDVが凄く、既に満身創痍。そう書かれていた。

 その後アイラは亡くなった。病死として判断され誰が騒ぎ立てること無く片付けられた。

 でも、実際は違う。プランダールの野郎が嬲り殺したそれに違いない。私はそう確信している」

 メーデーさんは深呼吸し、我に返る。

「済まない。前置きが長くなりすぎた。で、依頼の件だが私の三女がそのプランダールの元に行ってしまわないように、説得しては貰えないだろうか?」

「……説得なら、我々のようなガサツな冒険者よりも父上として説得した方が効果があると思うのですが」

 当然の意見にメーデーは表情変えずに言う。

「もちろんそれは何度も試みました。しかし娘は15歳反抗期と呼ばれる時期に入ってしまったのでしょう。気づいたら父の意見なんて……。私は!アイラと同じ被害を娘に出したくないッ!プランダールの奴を殺したって構わない。なんとしてでも娘を結婚させないでくれ!」

 目元に水滴を浮かべ魂からの願いを叫ぶ。

 ……殺しか。親バカなのか親ならこれが普通なのか。自分の感情も相手の感情も何一つ今の俺には分からないな。

「アリスどうするよ」俺はアリスに耳打ちをする。

「多分ですが魔物と呼べる様な物が絡んでそうです。これは一応受けてみましょう」

「魔物!?どうしてだ?」

 アリスは少し黙り、

「……女の勘ってやつです」

 それだけ言った。

「分かりました。では今回のクエスト正式に受けさせてもらいます」

「ありがとうございます。報酬はいくらでも出しますので!」

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