第184話~久しぶりの同期達~

 ララノアちゃんの魔力が暴走する可能性が無くなった次の日、エルフの里では集会が開かれていた。そこでララノアちゃんに対する扱いや、シェイドの言葉などを主とした里全体の今後の方針についての話し合いが行われているのだろう。


 なので暇を持て余していた俺は一香さんから貰った短剣を今日も丁寧に手入れしている。幻影迷夢は思ったより弱く感じたが、武器の方も長年使いこんだせいでちょっとガタがきているからな。


 向こうの世界に帰ったらお金もたっぷりあるし、それを使って魔道具のように特殊な効果のある武器でも買おう。それまでこの短剣も大切にしないとな……。



「そう言えば最上(もがみ)のおっさん、今日は子供たちと遊ばないんですか?」


「アホか篠崎、あれは遊んでたんじゃない。遊ばれてたんだ」



 短剣の手入れをし終わった俺は気晴らしに外に出ると、そこには筋トレをしている最上のおっさんがいたので話しかける。


 彼が言うには、俺たちが白霊草モーリュを採りに行っている間も今のように過ごしていたらしい。そこに好奇心旺盛なエルフの子供たちが集まり、いつの間にか最上のおっさんは遊具と化していたのだった。


 帰ってきて最初に見た最上のおっさんの光景もその1部だそうだ。言葉が通じないのでやめろと怒鳴るのも躊躇われ、結果としてあんな風になってしまったと昨日、最上のおっさん自身の口から語られた。



「大地さん、5日ほどここを空けていましたが、特に問題は無かったですか?」


「強いて言えば、やはり言葉が通じない事だね。いざと言う時には困るから、出来れば今後は君か琴香さんのどちらかは里にいて欲しいかな」


「了解です」



 マスターである栄咲大地(さかえざきだいち)さんは俺たちがいない間、残った人達と会話することでストレスを解消させたり、エルフ達の訓練を見学したりと色々していたらしい。


 ここで起きた状況は向こうに帰った際に纏めるらしいので、今は日常生活を体験したりするのが仕事で楽だなぁ、と呟いていた。



「北垣さーん」


「おぉ、空君。どうしたんだい?」



 北垣さんはエルフの里をぐるりと回るように散歩をしていた。この景色は日本に戻れば見納めになってしまうのでその気持ちも超わかる。



「いえ、久しぶりなんで顔見せだけでもと」


「はは、私にそんな気を使わなくても良いよ。そう言えば──」



 北垣さんの話を聞き、俺は挨拶を済ませて次の人物の元へと向かう。



「おぉ、空君久しぶりだね。どうしたんだい?」


「いえ、牧野(まきの)さんが俺を必要としているって北垣さんから聞いたので」


「あぁ、実は──」



 弓の整備をしていた牧野さんに話しかける。彼は俺たちがいない間、エルフ達と言葉が通じないのに見よう見まねと体を使った動作だけでコミュニケーションを取っていたらしい。



「いやぁ、僕も弓を使うけど、エルフの人達は何十年とか使ってきた分動きが洗練されてるんだよ。部活でもやってた弓道は武道だからね。狙って打つ以外の動作、残心とかはむしろ邪魔なんだ」



 他にも地形によって体の重心を変えたりなどを教わっていたらしい。どうせなら言葉の通じる俺を挟んでやりたかったらしいが、既に直接体を触って持ち方を教えられたりするほど仲が良いらしいので、俺が来るのは少しだけ遅かったらしい……とほほ。


 牧野さんの元を離れて里の中を歩いていると、ランニングをしている氷花さんを発見した。なんかを呪文のように唱えているが話しかけて大丈夫なのだろうか? ……話しかけよっと。



「あ、氷花さ──」


「心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅きゃきゅっ!? ~~~っ!」


「えぇ?」



 何故か氷花さんに話しかけようとすると逃げられる。嫌われるようなことでもしたのだろうか? 一切覚えがない、謎だ……。


 うん、向こうが逃げるなら俺から話しかけるような真似はしないほうが良いな。そうに決まってる。……う~ん、いや、何だか嫌な予感がするな。じゃあ次は……。



「──と言うわけなんで柏崎(かしざき)さん、氷花さんへの対応で何かアドバイスありませんか?」


「何でその相談わざわざ私にするのかしらっ!?」


「いや、順番的に……?」


「意味わかんないわよ!」



 一応探索者の人には全員顔を出す予定だったので、嫌われているであろう柏崎さんにも話しかけて氷花さんへの対応の相談をした。



「じゃあお付きの2人はどう思います?」


「「お付きじゃねぇよ!!!」」



 B級タンク系探索者の馬渕(まぶち)さんと、C級探索者の岸辺(きしべ)さんに話を振るがノリツッコミで返された。



「つかお前、少なくともどう言った方向性の気持ちかも気づいてねぇのか?」


「え……う~ん、何か氷花さんの癪に障る様なことをしてしまったんでしょうね。呪文唱えてる所を邪魔しちゃったんで」


「はぁ……」



 馬渕さんにため息をつかれた。あれ?



「馬渕さん、それを言ったらうちの姫も大概ですぜ?」


「なるほど、それもそっか」


「? なんで急に私が話に出てくるのかしら?」



 すると岸辺さんが柏崎さんを指さしてそう告げてくる。しかし柏崎さんは理解できないと言わんばかりに首を斜めに傾けた。


 えぇ、柏崎さん鈍感すぎないか? どう見ても馬渕さんと岸辺さんの2人は柏崎さんのこと好きっぽいのに、これじゃあ2人が可哀想だよ……。



「あ、空君やっぱりここでしたか」


「琴香さん? よくここが分かりましたね」



 すると琴香さんがまるで俺がどこにいるか知っていたかのように現れる。柏崎さん達にさよならの挨拶を告げ、その場を後にした。



「私、空君の匂いを覚えているので」


「え゛?」


「……冗談ですよ? それよりも思い出したことがあるんです」



 声のトーンが冗談に聞こえなかったんだけど!? あと露骨に話逸らすのやめて!



「思い出したこととは?」


「ほら、あれですよ。なんかここに来てから違和感があるって言ってたじゃないですか」



 琴香さんが言っていたのは特級迷宮で最初にサリオンさんと戦った時から感じていたと、白霊草モーリュを採りに行くと探索者のみんなに話した後に告げてきたことだろう。



「そうですね。それで……一体なんだったんです?」



 琴香さんの表情が思ったよりも硬かったので、俺が想像していることよりも悪いことだったのかもしれない。俺自身の目も鋭くなっていたと思う。



「その違和感なんですが、もしかしたら……いえ、常識的に考えて十中八九、私の間違いだと思うんですよ。ですが、今の私は自分の記憶に従います。サリオンさんとの戦いの際、あの人が……──」



 その言葉を聞き、俺は思わず呆けたような顔をしていたと思う。それほどに驚きだった。俺なら自分の間違いだと思い込むような些細な点。


 しかし今それを告げているのは琴香さんだ。普段は鈍いが、こういった直感での琴香さんはとても鋭い感覚を持っている。


 間違いない……だろう。もちろん、間違いであって欲しいが。琴香さんも顔をしかめるまでは行かないまでも、眉を酷くひそめていた。



「な、るほど。分かり……ました。ありがとうございます。えー、とりあえずは2人だけの秘密にしておきましょう。俺の方から折を見て話し合いの席を設けて尋ねてみますので、琴香さんは何も知らないフリをしていて下さい」


「あ、はい……それじゃあ、失礼しますね」


「はい。お気をつけて」



 琴香さんは気まずそうに去っていった。俺はその背中を見届け、先程聞かされた言葉を何度もリピートする。



「……はぁ、間違いであって欲しいなぁ」



 俺の心の声が思わず漏れ出た。そうこうしているうちに会議は終わり、ララノアちゃんの処遇が決まった。



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2日に1回更新に変更です。いや、色々とキツいわ……。

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