第128話~悪夢に誘われて~

ア〇ス構文「不定期更新だからといって定期更新より頻度が少ないと思ったか?」



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『さて、それじゃあ向かおうぞ』



 サリオンさんの言葉で俺たちは白霊草モーリュの群生する地域の森──群生すると言うほど多いかは謎だが──に向かって歩きだした。


 改めて行くメンバーを紹介しよう! 俺、琴香さん、氷花さん、サリオンさん、ヘレス、アムラスだ。


 昨日あんな出来事があった琴香さんは何事もないかのように接してくれている。が、その内情を窺い知るのとは出来ない。彼女は俺のことをどう思っているのだろうか……?


 もしくは向こうも、俺がどう思っているのか気になっているかもしれないな。……ともかく、今は時間が解決してくれることを願おう。白霊草モーリュの採取した時の勢いで、なんとか有耶無耶にするのも良いかもしれないな。



『最後にもう一度確認じゃ。今はソロンディア様の力で鱗粉の効果は無いが、近くに行けばそこら中に染み込んだ鱗粉の効果で、嫌でも悪夢を見ることになる』



 サリオンさんが確認するように話していく。氷花さんには俺が通訳で伝えているので、コクンと首を縦に振ってくれている。



『鱗粉を飛ばしている迷宮主の名前は幻影迷夢げんえいめいむ。大きな蛾のモンスターじゃ』



 主に戦うのは迷宮主の幻影迷夢げんえいめいむだが、他にも少数の幼虫のモンスターもいる。強さ自体は大したことはなく、ヘレスやアムラス……一般的な戦士エルフなら倒せるほどだ。


 この幼虫が成長して成虫に……つまりは幻影迷夢になるんだが、そうなったら迷宮主の幻影迷夢と成虫になったばかりの幻影迷夢の共食いが始まる。


 そして勝った方が迷宮主となるのだ。こうしてより強く、より強力な幻影迷夢が育っていく。……この情報が、少なくとも500年以上前。今はどれだけ強くなっているのだろうか……?


 と、俺たちが心配するとサリオンさんが『安心せい。あ奴らの強さに大した差は無いぞ。寿命も短いしのう……』と教えてくれた。



『そして……悪夢に負ければ心が折れる事は確実じゃ。精神的にもキツい。……この作戦を成功させるには、最低でも2人が悪夢を乗り越えなばならん。メンツによっては3人以上の可能性もあるがの』



 サリオンさんが念押しするように言ってくる。サリオンさんなら1人でも倒せるだろうが、彼は一度失敗している。あんまり自分を数に入れていないらしい。



『ふむ……もうそろそろじゃ。ここからはいつ意識を持っていかれるか分からん。最後の1人まで注意するように』



 サリオンさんが警告してくる。鱗粉の効果が現れるのには個人差があるのだろう。すると……。



『ぁ……やべ……。ソラ、すまん……』



 左右に揺れて倒れるようにもたれかかってきたアムラスを支える。虚な眼をしたアムラスを皮切りに、他の人も次々と症状が現れ始める。


 氷花さんと琴香さんが足から崩れ落ち、膝立ちで耐えるようにして動かなくなった。それを確認すると同時に、眩暈のようなものが俺にも起こる。


 アムラスと一緒に倒れている最中、横目にヘレスも同じように倒れているのが見えた。


 かろうじて耐えているがサリオンさんで、悪夢にかかり始めたみんなを木の幹にもたれ掛けさせていた。そして最後に倒れ込んだのを薄れゆく意識の中で確認して、視界が切り替わった。



***



 暗闇から明るい場所へと移動した感じだ。暗転と明点を繰り返し、そして視界が晴れる。体が思うように動かない……と言うか、一切動かない。それどころか……体という感覚すらない。


 だが視覚、聴覚、嗅覚、味覚……触覚以外の五感は全て正常だ。肉体と呼べるものが無いので、触覚だけはどうにもならない。


 そしてそう考えている間にも、俺の視界に映る景色は変わっていく。ちなみに俺は動かしていない。自動で勝手に動き出したのだ。


 俺の視界に映ったある少年が、白い壁に手をかけながら歩き、二階から階段の手すりを持ちつつゆっくりと降りていく。


 階段を降り終わると、少し歩いて部屋の扉を開けた。目の前には木製のダイニングテーブルが広がっており、そこには椅子が四つ用意されていて、3人の人が座っていた。


 一番手前が空いている。そこは少年の席だから……。隣には9歳の女の子がいて、美味しそうにベーコンエッグを頬張っていた。


 向かい合わせの目の前には、もうすぐ40歳になるとは思えないほど若めの女性がいた。その隣には、眼鏡をかけて最近白髪が増えてきたとたまに呟く男性がいる。



「あら、おはよう空ちゃん」


「おはよう、母さん」



 その女性は少年の名前を呼んで挨拶をしてきた。すると少年の挨拶を返す声が聞こえる。俺と同じ……いや、声変わりする前の俺と同じ声質だった。


 少年は洗面所に行き、水でパシャパシャと顔を洗い再び先程の席にまで戻った。



「空、時間は大丈夫なのか?」


「問題なしだよ、父さん」



 渋めだが優しげな笑みを浮かべる男性が、少年のことを心配するように尋ねてくる。少年は余裕を持ってそう答えた。



「兄さん、少し髪が跳ねてるよ? こっち向いて」


「ん……」



 ベーコンエッグを食べ終わった女の子が青年の頭を見てそう言う。少年は頭を下げた。女の子の持っていたクシが髪の毛に通される。



「よし……」


「ありがとう水葉」


「どういたしましてっ」



 綺麗になったので女の子が手を止めると、少年は頭を上げてお礼を伝えた。女の子はニコッと笑い、食べ終わった食器を台所へと持っていく。


 あぁ……なるほど。だんだんと分かってきた。まだ悪夢には罹ったばかりだからか、感情があまりはっきりとしてこない。


 だから死んだはずの父さん、母さん。それに寝たきりの水葉の3人がいても、一切心に揺らぎは生じなかった。だが、これは最悪の悪夢だろう。


 ここは……壊されることが確定している5年前の俺の、かけがえのない日常の一日だったのだから。



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脳内プロット作者「これにて3章の前編完結です! 最後まで読んだ方なら分かっているかと思いますが、次回からは空の過去編へと突入します! あくまで章自体を区切ることはしないのでよろしくお願いします!」


執筆作者「ぁ、ちなみに前編、中編、後編の3部構成やしな」


脳内プロット作者「え?(聞いてないんやけど……)」

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