第123話~各々の決断~

 水葉が未だ眠り続ける原因は、体や精神などが弱った時に強すぎる魔力を浴びて肉体が崩壊するのを防ぐため。


 白霊草モーリュは魔力への抵抗を高めることができる。これにもう一つの素材を組み合わせれば、永眠病を治す薬が手に入るのだ。



「白霊草モーリュは、一体どれほど群生しているんだ?」


『す、少ないとは思うわ。許可なく採取する事は許されなかったらしいから。でも、数草しか生えてないなんて事は無いはずよ……絶滅さえしてなければ、だけど……』


「なら、作戦で俺が成功したら薬草をもう一輪摘む許可をくれ!」


『ち、父上……族長にきいてみないとわからにゃいわよ……』



 ヘレスの滑舌が急に悪くなり、頬が赤く硬直する。それでもクルゴンさんの方に視線を向けると、無言でコクンと頷いた。



「ありがとうヘレスっ!」


『ふにゃあっ!? ちょ、ちょっと……ち、近いわよ……!』



 両手を掴んでお礼を告げる俺に対して、ヘレスは変な声をあげ、目を渦のようにグルグルと回し、最後に慌てて手を離された。



「空、セクハラかの?」


「え? ……あ、そうなるのか。ごめんヘレス、でも……俺も、妹の病気が治るかもしれなくてつい……」


『そ……そう言う事なら、許してあげるわ……。次やったらぶ、ぶっ殺すわよ?』



 エフィーに指摘されてから気づき謝るが、ヘレスはそっぽを向いてしまう。だが今回は許されたようで何よりだ。



***



「と言うわけで、俺はちょっと迷宮主を倒そうと思います!」



 みんなが食事のために大部屋に戻ってきた時を見計らい、白霊草モーリュを採取しにいく事を伝える。



「へぇ、面白そうじゃねぇか! ちょうど本格的な実践も久し振りにやりたかったんだ。俺もいくぜ篠崎!」


「でも、さすがに最上さんは危険すぎない? サリオンさんや空君ならともかく、僕たちC級じゃ多分足手纏いだよ」


「くっ……。確かに、そうだ……な」



 最上のおっさんが自分もと張り切りを見せるが、牧野さんの冷静な一言で悔しがりながらも諦める。



「最上のおっさんは自分から言い出しましたが、わざわざ命を危険に晒してまでついてくる必要はありませんよ」


「すまないが空君の言う通りだ。僕には責任があるからね。志願者以外はここに留まることをお勧めする」



 俺がそう告げると、大地さんが苦渋の決断を下した顔で肯定する。マスターとしては、今回の遠征? には参戦してほしく無いだろうからな。



「それともう一つ、まぁ最上のおっさんみたいな物好きは居ないと思いますが、B級未満の人は行きたいと思っていても連れていく事は不可能です。守れる保証が出来ませんから」



 これで行けるのは大地さん、氷花さん、琴香さん、馬渕さんの4人に絞られたな。大地さんはマスターとしてここに残るだろう。馬渕さんも関係がないので残るはずだ。



「私は、行く……」


「氷花さん……良いの?」


「ん……。辛い過去を、呼び起こす……それならむしろ、好都合」



 氷花さんは何か秘策のあるような笑みをした。なんだ? 自分には辛い過去なんてありませ〜ん、とかかな?



「ぁ……私は……私も、行きます」


「琴香さん、今回はさすがに無理しなくても──」


「行きます!」


「……はい」



 と言う事で、琴香さんも参戦することになった。これで白霊草モーリュを取りに行く人は俺、氷花さん、琴香さん、サリオンさん、ヘレスの5人だ。エルフ側からの追加人数はあまり期待できそうに無いだろうな……。



「空君、少しだけ話したいことが」


「なんです?」



 そう考えていると、琴香さんが話しかけてきた。



「実は、私もよく分かってないんですけど……こう、違和感というか……何か引っかかってるんです。それがなんなのかは分からないんですけど……すみません、具体的に例えられず抽象的な感じで……」


「いえ気にしてません。……何か『あれ?』と感じる事があったけど、具体的には思い出せないって事ですか?」


「そうですそうです!」



 琴香さんが腕をぶんぶん振って肯定の感情をアピールしてくる。



「う〜ん。でも、忘れちゃったって事はすごく重要な事じゃない可能性が高いですからね。時々考えておいて、思い出したらまた話してくれませんか?」


「了解です!」


「あ、ちなみにその違和感っていつ頃からです?」


「確か……最初にサリオンさんと戦った時……ぐらいですね!」



 思ったよりも結構最初だな……。俺もその時の出来事を思い出してみるが、全然分からん!



「分かりました。ありがとうございます」


「いえいえ……それよりも空君」


「なんです?」


「……いえ、なんでもありません! 気をつけてくださいね!」


「はぁ……はい」



 琴香さんとはそんな事を話して別れた。そう言えば最近はあんまり話せてなかったしちょうど良かったな!


 そして、次の日から採取組は全員サリオンさんとの模擬戦が訓練の代わりとなった。今回の1番の問題は悪夢なので、鍛える事は出来ないのが悔しいな……。あと驚いたのが……。



『あ? なんだよ……?』


「いや、アムラスが来るとは思わなかったから……」



 そう、エルフ側からはアムラスが採取組に加わることになった。



『はぁ? 不吉だとか色々言ってるのは大人だけだ。それに……ララノアはヘレスの妹だからな。それよりも、俺としちゃそっちが来る方が意外だったぜ? ……はっ! まさかヘレスを狙ってるとかじゃ!?』


「ちげぇよ!」



 てか前から思ってたけど、アムラスって絶対ヘレスのこと好きだよな? アムラスもほとんど隠す気ないし。でもヘレス、多分気づいてない。なんて不憫なやつなんだ。俺は応援してるぜアムラス!



「……まぁ、俺にも妹がいるんだ。病気で、寝たきりの……。重ねちまったのかもな……?」


『っ……そうかよ。なら……ララノアは絶対に助けるぞ?』


「おう!」


『あと、ヘレスは渡さないからな?』


「おう! ……おう?」



 アムラスとはそんな会話をして仲を深めていった……と思いたい。

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