テロリスト、カガイの尋問?

 捕縛された結界師のテロリスト。


 彼の名前はカガイ。 トールに敗れた直後に学園関係者たちに運ばれて行った。


 今は椅子に縛られ、尋問を受けようとしている。


「気をつけろ。前回みたいに自死の可能性もあるぞ」


「無論、意識が戻る前に検査したさ。何もなかった」


「なかった? なにも? それは妙だな」


「あぁ、本来は捕縛されるような戦闘要員の位置ではないか。それとも……」


 学園関係者の声。 カガイに聞かれないように部屋の外で話していた。しかし――――


(馬鹿め、俺は結界師……こういう空間支配は得意分野。この程度の距離ならばは、会話を盗み聞く方法なんていくらでもあるのさ)


 気を失っているのは演技。 意識を取り戻したカガイは脱出の算段を行っていた。


(ふん、俺には自死用など不要だ。結界師の俺を閉じ込まれている部屋なんか存在しない。手錠? 足枷? ロープ? 世界を塗り替えた空間では、俺を留める物の侵入は許さない)


 そして、彼は魔力を放出して結界を展開していく。……そのはずだった。


「――――なに?」と演技を止め、驚きの声すらあげる。


「け、結界が、俺の結界が発動……しないだと?」


 カガイは結界に対して、間違いなく天才の部類。


 ゆえに矜持が高い。その反面、報酬が高ければ外道な依頼も受ける。


 狂信的テロリストと言うよりは傭兵的……だから、最初から死ぬ覚悟もない。


 そんな彼が絶対的信頼を寄せる結界魔法。それが作用しない衝撃の大きさは計り知れない。 しかし、そんな彼の内面を知ってから知らずか……


「あっ! よかったです。意識を取り戻したみたいですね」と朗らかな女性の声。


「……アンタ、誰だ? 俺に、何をした」


 激しい剣幕のカガイ。それが予想外だったのか女性は狼狽えた様子で


「すいません。何……と言われましても、貴方が結界を使わないように私の結界で抑えさせていただいています」


「な……なんだと? そんな事ができるはずが……」


 加えて言えば、カガイの剣幕に女性が狼狽えたのは、彼の迫力に怯えたわけではない。


 むしろ……


(この人、結界師として才能は高いのかもしれませんが……基本を知らないのでしょうか?)


 結界師と結界師の戦いは、相手の世界を抑え込む戦い。


 彼女にとって当たり前の常識と思っていた事をカガイは知らなかったという事に狼狽したのだ。


「――――クソが! てめぇ……女ッ。お前、何者だ!」


「私ですか? えっと、私は学園でお手伝いをさせていただいているレナと言います」


「レナ……女王! レナ・デ・スックラか!」


「はい、そのレナ・デ・スックラです」


「冒険者最上位のAランク。その結界……ここまで、ここまで高度に発展した結界は規格外の化け物になるのか……」


「ん~ ちょっと、酷い言い方ですね」と彼女……レナは立ち上がり、カガイに近づいていった。


「お、おい、寄せ! 俺に近づくな! 俺に何をしようとしている」


「えっとですね。私が見る限り、貴方は深い業と言いますか……なんとなく結界師同士ならわかるので」


「わかる? 何が分かると言う!」


「貴方は少しばかり、人様から恨まれるような仕事をしていて怨念みたいな物に付かれていますね」


「うっ! うぅぅ……」


「ですので……まず最初には、そういう業を払ってあげましょうと」


「待て! 待て! なんだ、その杖は? なんで素振りをしている?」


「説明は難しいのですが、私の場合は神聖なる力を杖に込めて――――文字通り、叩き込む事で浄化を……」


「や、やめろ! 寄せ……それ以上……俺に、おれに近づく――――」


「大丈夫です。痛くありませんから――――えい!」


「うおぉぉぉぉぉぉ!?」とカガイの声が響いた直後、凄まじい打撃音が部屋の外まで届いた。


 忘れてはならない。 どれほど彼女が好意的で、力を緩めて浄化しようとしても――――


 彼女の剛力は、加工された床や壁適度なら手加減しても叩き割る威力があると言う事を……


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 一方、その頃……トールとシン王子は暗い顔をしていた。


 テロリストの1人を捕える事に成功したのだが、問題はその後に起きた。


 テロリストであるカガイを倒した事により、彼が展開していた結界は解け、世界は元に戻った。 当然、そうなるのが当然だ。


 しかし、奇妙な事が起きた。 その場には、確かに4人いたはずだ。


 襲撃を受けた場所はシン王子の部屋。 そこにいたのはテロリストであるカガイを除いた3人は、トール、シン王子、エド……


 しかし、カガイを退けて結界が解かれた後……エドの姿はどこにもなかったのだ。

 


 


 


 

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