第111話 トール対シルグ ソリット二天一刀流

 金属と金属が叩きつけられる音が周囲に鳴り響いて行く。


 一合、二合、三合と両者の剣はぶつかり合う。


 それは斬撃というよりも、あまりにも――――


 鈍器の打撃の等しい荒々しい競い合い。


 シンプルな競い合い。 しかし、徐々に速度と威力が跳ね上がっていく。


 大地は揺さぶられ、割れた亀裂が走り抜ける。


 おぉ……見よ! 空は切り裂かれた雲が浮遊している。


 環境破壊闘術。


 人は戦う事で星をここまで痛めつけ、破壊する事ができるのだ。


 そんな戦いの中で悲鳴が上がる。 ただし……それは人間のものではない。

 

 それは剣である。 トールが有する剣は、ごく平凡な物。


 シルグの魔剣との打ち合い、斬り合いで耐えれたのは、トールが持つ技術。


 皆、知っての通りではあるが、ソリット流剣術は衝撃を無効化する技が存在している。

 

 高速、正確に……かつ大量に繰り返される。剣を引くというシンプルな動作により剣に伝わる衝撃は分散され、やがて無となる。


 そんなトールの妙技を持ってすら、剣は限界を向かえた。


 「せいやっ! このチェストをぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 シルグから放たれたのは裂帛の気合と共に剛剣の一撃。


 鍛えられたとは言え、ただの金属である剣は、それに抵抗する事も叶わず――――


 あっけなく叩き割られた。


「――――」


「これが正常な試合なら、この時点で拙者の勝ちは動かぬ。――――どうする?」


「それを聞くのか? 魔に飲まれて、それでも人を捨てないのならば、俺もここで引くわけにはいかない」


「だが、できるか?」


「できる……か? とは?」


「拙者に勝つ。それは魔法による攻撃であってはならぬ。 肉体による打撃であってはならぬ」


「あぁ、なるほど……アンタは、もうそう言う存在になっちまったのか……いや、言い直そう。そういう存在にまで到達したのか……」


 ここは魔があり、神秘かある世界。 ならば、時折は起きる。


 『概念』で人間を完成させる。


 例えば、ゴースト系の魔物は斬撃が効かない。魔法の効果も薄い。


 効果的なのは聖職者の破邪系の魔法。 ……それと同じことなのだ。


「剣で到達した者を倒すには剣でなくてはならない。そう世界の理が入れ替わった。そういうことだな?」


「あぁ、そう難しい事は拙者とてわからぬ。しかし――――ただ、なんとなく。自然に感じている。そういう物なのだ……と」


「そうかい。それじゃ――――『風のエックスカリバー』」


 それはトールが使う風魔法。


 風で作った斬撃を飛ばす攻撃。 あるいは斬撃を固定させて剣として使う魔法。


「……それは斬撃と言っても魔法。 それじゃ拙者は斬れない」


「いいや、こうするのさ」とトールは砕かれた剣の残り……柄の部分に力を入れる。


 柄に斬撃の魔法が移動して――――


「刀身部分を魔法で再現した。なるほど、それならば拙者を斬れる」


「まだだ。これから……もう一段階ある」


 今度は折れた刀身部分、それをトールは拾い上げる。


 抜き身の刀身を素手で掴めば、手は斬れるはず……しかし、トールの手から流血は見えない。 おそらく、なんらかの魔法を使っているのだろう。さらに――――


「風魔法を刀身部分に――――二刀流か?」


 シルグの察する通り、折れた刀身部分に魔力を流した。


 トールは折れた剣の2つから魔力によって2つの剣を作り出したのだ。


「あぁ、ソリット二天一刀流だ。 ……行くぞ」


 先手はトール。 下半身の爆発力で一瞬で間合いを潰す。


「間合いがなくなれば、魔剣 アップシュタントの脅威を薄れる」


「―――いいや、勘違いをしとりゃせんか、トール? 魔剣アップシュタントの剣撃を掻い潜って近間に来れば倒せると?」


 打撃。それも荒々しく、危険な技。


「がっ!」とトールは声を漏らす。 その喉元に指による打撃が叩き込まれたのだ。


 思わず動きを止めたトールにシルグは――――


「それ! 追い打ち!」と今度は指でトールの目を狙いにいく。


「させるか! それは欲張り過ぎだ」


 トールは低い体勢で避ける。 その頭上にシルグの腕が通過。


「その足、貰った!」としゃがんだ状態からトールは剣を走らせた。


「脛斬りか! えげつない技を使うか!」


 避けるシルグ。


 しかし、低い斬撃を避けるには大きく飛ぶような動作。

  

「実戦的だろ?」とトールは、相手の動きが必ず止まることになる着地を狙う。


(狙いは着地のタイミング。下から跳ね上げる軌道の剣――――)


「うむ、受けるまでもないわ……魔剣 アップシュタント」


 空中でシグルは魔剣を振るう。


 相手が止まる隙を狙う予定だったトール。 だが、魔剣には間合いの概念がないのだ。


 シルグの剣撃は彼が着地するよりも速く、トールに届く。


「――――ッ!?」と驚きながら、地面を転がるように回避したトール。


(追撃が来る! ――――いや、来ないのか?)


 当然、不利な体勢になればシルグは襲い掛かってくると思っていた。


 しかし、彼は歩みを止めていた。しかも、事にあろうに――――


「なぁ……剣とはこのような物か?」


 何やらシルグは哲学のような事を語り始めた。


 


 


 

  


 


 

   


 

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