第109話 再登 魔剣持ちのシルグ
一方その頃、トール・ソリットは1人で歩いていた。
旧スクッラ領内。 前回のブラテン側とは違う。
争奪戦開催に合わせて自由にスクッラ領内を出歩けるようになったトールは、別の国が支配する土地を歩いて回っているのだ。
今は大国マディソン。あのブロック・マクマ・マディソンが治めている土地だ。
「活気はある……しかし――――」と視線を走られるトール。
大きな荷物が積まれた台車を運ぶ少年。 しかし、少年の頭には犬や猫のような耳が生えていた。
「獣人か……元よりスックラ領内、いやマディソンだって獣人は住んでいなかった」
ならば、答えは1つだろう。 マディソンは獣人がいる国から奴隷として連れ去ってきている。
(周囲の誰も気にした様子はない。当たり前になっているのか……)
そんな時、少年の台車から荷物が落ちた。 荷物と言っても果実が1つ。
コロコロと転がりトールの足元へ。
「……」と拾い上げたトールは、それを渡しに少年の元に近寄って行った。
「これ……落としたようだが」
「あ、ありがとうござい……」と獣人の少年は礼を言おうとした。
しかし、それを遮るような大声が少年に浴びせられた。
「てめぇ……また落としたか! 使えねぇ奴隷めが! 人間様の手を煩わすんじゃねぇぞ!」
その手には鞭。 それは問答無用で振り落とされる。
「ひぃ!」と少年は自身を庇うよう目を閉じて痛みに備える。しかし、いつまでたっても鞭の痛みはこなかった。
恐る恐る目を開くと「え?」と少年は驚く。
自分に向けられた鞭を掴んでいる男がいたからだ。 もちろん、トール・ソリットだ。
「なんだてめぇ! 邪魔するな!」と男は激高する。 どうやら、奴隷商のようだ。
奴隷商に恫喝されて動じるトールではない。しかし、言葉に怒りの感情が込められている。
「……たとえマディソンだろうが、奴隷など人身売買は国際法で禁じられているはずだ」
「はぁ? なに言ってやがる! だから、本国じゃなくスックラ領で実験的に運用してるんじゃねぇか!」
「――――」とトールは理解した。 ここスックラをマディソンは、どのように運営しているのかを……
「さっきからなんだよ! もう良い……ブチ切れたぜ! お前なんかよりも仕事を優先させるんだよ!」
鞭を捨てて男はトールを殴り倒そうと――――
両者の間に黒い影――――男が飛び込んできた。
「待たれよトール殿、さすがにここで刃傷事件はまずかろう」
「その剣――――魔剣 アップシュタントか!」
「いやいや、拙者よりも剣に目を奪われるか……」
そう言うのは魔剣持ち シルグ。 奇しくもトールの手によって現在に蘇った古代の戦士である。
「なんだ! なんだ! 新しく出てきやがって!」
「失礼。拙者たちは、このたび行われるスックラ領争奪戦の参加する者だ。それに免じて許してくれや」
「――――なんだと? お、お前等、いや貴方たちが……い、いや良いわ。それじゃこの辺のルールってのが分からないは仕方ない。へっへっお互いに気を付けようぜ」
それでも男は少年を「ほれ、てめぇはさっさと運べ!」と怒鳴り散らした。
「不快なのは拙者も同じ事……今は抑えなされトール殿」
「そう……だな。シルグも争奪戦に参加するのか?」
「なんだ、知らなんだか。第一試合の相手――――お前だ」
「――――ッ!?」とトールは息を飲んだ。
「驚く気持ちはわかるぞ。俺たちが戦うという事は自然と――――」
「勇者クロスと支配者コウ王が戦う。正直、いきなりはないと思っていた」
「だろうよね。どちらが勝っても世界への影響は大きい。……いや、どちらが負けてもか」
「そんな事よりも、俺はお前と再び戦えるのが、少し嬉しい」
「あぁ、俺もだ。俺も気持ちが昂る。本当の事を言えば、今ここで襲い掛かりたいのを抑えている」
「そうか……それは危ういな」
「誘っているのか? 止めとこう。戦いは――――」と最後まで言わないシルグ。
なぜなら、言葉の途中で手を魔剣の柄へ。そして――――抜刀。
トールへ斬りかかった。
「見事。これを避けるか」
「あぁ、距離を無視する斬撃――――魔剣 アップシュタントの力は一度味わっている」
ここは街中。抜き身の剣を振り回した男。
凶剣である。誰か女性の叫び声。
「本当にやるのか? 今、ここで」とトール。
「いや、本当は試すつもりだった。しかし、どうやらダメみたいだ」
「ダメ? 何がダメなんだ?」
「魔剣が俺の体を浸透している」
「なにを――――」
シルグは服をはだけさせた。 そこには歪な何かが張り付いている。
「それは魔の者が持つ目。……魔眼か?」
「あぁ、どうやら魔に魅せられたみたいだ」
「それじゃ……今、ここでお前を――――」
「そうだな。ここでスックラ領争奪戦の一回戦を開始しても問題なかろう」
そう言い終えるとシルグは魔剣を振るった。
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