第97話 唐突な飛竜着地 温泉旅行???

 あの戦いは終わり、数日後――――


 徐々に日常を取り戻しながらも、気たるべき決戦の日に備えるトールたちではあったが……


 朝の食事。 教会のテーブルにはトール、レナ、グリア……そして、ハイドは給仕のように料理を運んでいた。


 不意にトールは食事の手を止めて天井を見上げた。


「……なにか来る」と呟いた。


「?」とレナとグリアは疑問符を浮かべるも、次の瞬間――――大地が揺れた。


「じ、地震ですか!? かなり大きいですよ」


そんなレナの言葉に「いや……違う。これはっ」とトールは、駆け出す。


「ちょっ! トールさま? 地震の時は、机や椅子の下に頭を……」


 グリアの制止する声を背に受けながら、 外の様子を見る。すると――――


 「飛竜だ」


 巨大な巨大な竜がいた。 それは野生の竜種ではない。


 長い年月をかけて、それこそ数百年、数千年……野生の竜を捕えて品種改良を重ねて家畜化した竜だ。


「す、凄いです!? これは……大きいですね!」と追いかけて来たレナは、見上げてため息交じりの称賛を溢す。


「このサイズなら所有主はルキウス王ね。この国で飛竜を自由に――――少なくとも人様の私有地に着地させるなんて王様くらいでしょ?」


 どうやら、グリアの言葉は正しいようだ。


「その通りだ」と飛竜の頭部……と言うよりも首筋に乗り、手綱を手にした男が答える。


 そして、その男は、こう続ける。


「……久しいな。グリアよ」


「――――お父様」


 その男、ブレイク男爵。 正確にはアレク・フォン・ブレイクだった。


「うむ、我が娘よ」とブレイク男爵は答えた。


 脱走した咎人であるトールに恋心を抱いて、飛び出した娘――――グリア。


 彼女に対して、娘と呼ぶのは2人の仲を認めたのだと公言しているようなもの。


 それからトールの方を向くと、「そして我が後継者よ」と豪快な笑みを浮かべた。


 トールは肩を竦めるだけのリアクションにとどめ、それから――――


「何の用だ? こんな飛竜まで飛ばしてきて、嫌がらせでもないだろ?」


「うむ、これを受け取れ」とブレイク男爵は飛竜から飛び降りると、恭しく書状を手渡してくる。


 「なんだ?」と開いて目を通すと――――


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・ 


 このたび行われた 『旧スックラ領地争奪戦』におけるブラテン国代表者決定戦の優勝。 まずは感謝を込め、おめでとうと言っておこう。


 しかし、数々の激戦において、貴殿が負っている心労は察しするに余りあるものがある。


 近々行われるであろう本戦に向けて、心身ともに癒していただきたい。


 そう思い、せめてもの恩賞をして湯治を用意した所存だ。


 なお、益々の活躍を期待し、本戦においては必勝の覚悟を持っての奮闘を期待させていただく。


 

 ブラテン国王 ルキウス



・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「なるほど、つまり……どういう事だ?」


「要するに優勝賞品だ。湯治……つまり温泉旅行が用意されている」


「うむ……いや、待てよ。 温泉旅行だと? いつだ?」


「当然、今からだ。 取り合えず人数は4人分の用意している。無論、今からなら変更を効くぞ」


 ブレイク男爵の言葉に飛竜は「BURURURUUUUUUUUUUU……」と馬の嘶きのような声を出した。


「さぁ、こいつも早く乗れと言っている」


「……少し待ってくれ」とトールは、レナとグリアと相談を開始した。


「今の話、どう思う?」


レナは「う~ん」と悩みながらも、こう続ける。


「ルキウス王からのご厚意なら、辞退する事自体が不敬とされ、何かしてくるかもしれませんよ?」


「レナちゃん……王様相手にそんな風に思っていたの? まぁ、温泉旅行を無料なら良いじゃないかしら?」


 ちなみに遅れて来たハイド神父はと言うと…… 


「ちなみに私は、行けませんね。急な旅行で神の家である教会を留守にするのは、さすがにまずいですね……ここだけの話、同僚の神父たちから異端扱いされているですよ。私……」


「となると……今から出発できるのは3人か? どうする? 本当に行くか」


「――――」


「――――」


と両者は、暫く無言で考え込むと、


「行きます」とレナ。


「そりゃ行くわよ」とグリア。


 それを見ていたブレイク男爵は――――


「どうやら、決まったようだな。 ならば飛竜に乗るがいい。なぁに、必要な準備は、こちらに済ませている」 

 

 その言葉に従い、トール、レナ、グリアの3人は飛竜に乗り込んだ。




 


 


 

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