第58話 教会の戦い ハイド対コリン開戦

 「出てこぬな」と教会の前。 ブレイク男爵は呟く。


 籠城戦を開始して4日。 時たま、挑発するようにハイドは姿を現して巡回の兵を襲う。


 それも、痛めつけるだけで、戦闘不能まで追い込まない。


 そうすることによって、猟犬部隊の士気を低下させていく。


 「火を放ちましょう」


 猟犬部隊の隊長が進言してくる。 


「いや、ダメだ。この町中で火を放てば、周辺まで飛び火する」


「それの何がいけませんか?」


「――――」とブレイク男爵は顔を顰めた。


 中央都市に貴族が火を放つ重大性。


 だが、部下たちは、それよりも名誉を取る。 ――――いや、罪人を捕らえる事を指名とした部下たちは汚名を挽回する事を何よりも優先する。


「今は待て――――それはいずれ」


「――――っ!」と隊長は、言葉を止めて「失礼します」と踵を返した。


 隊長の姿が消えるとブレイク男爵はコリンを呼んだ。


「コリン! コリンはおらぬか!」


「はい、ここに控えています」


「うむ、部下が火を放てを進言してきた。 今にも暴走しそうだ」


「……」とコリンは考えた。


「ん? どうした?」


「はい、この周辺は封鎖しています。 火を放ち、それをハイドが自ら火をつけたと触れ回れば……」


「放火の罪をハイドに擦り付けるか。しかし……いや、今なら人的被害は起きぬか」


「しかし……ハイドを相手をするならば無意味かと」


「む? 無意味か」とブレイク男爵は首を傾げた。


「ならば、なぜ火矢を良しと考えた?」


「部隊内に不満が充満してるならば、彼等の進言を聞いて行えば、失敗しても構わないかと……」


「う~む、つまりはガス抜きのためだけに火をかけるのだな」


「はい、無意味ならば無意味なりに、利益を探して取ればよろしいかと」


「面白い考えだ。 ならば――――」


「誰か、おらぬか!」と男爵は声を張り上げた。現れた兵に――――


「隊長の進言を聞く。 火矢の準備を」


「はい!」と命令を聞いた兵から活力が戻るのを感じた。それを見たブレイク男爵は


「――――うむ、やはり不満が溜まっておるか」と頷いた。


 もうすでに準備を済ませていたらしい。 矢を構えた兵たち――――その先端に火が灯る。


 そして、それが


「撃て!」


 教会に向けて一斉に放たれた。


 だが……放たれた無数の火矢は教会に到達する事もなく、その直前に空中で何かに弾かれたように地面に落下していった。


「何が……起きた?」


「おそらくは蹴り。その風圧で弾き落したのだと」


「馬鹿な。そのような事が可能ならば――――


「もはや、敵は人間ではない」とブレイク男爵は、その言葉を飲み込んだ。


 呆気にとられる兵たち。 彼らの士気というならば、もはや――――


 だが、士気が完全に失われるのを防ぐためにコリンが動いた。


「このタイミング……私が行きます」


「なに!?」と驚くブレイク男爵を後ろに残して、コリンは単騎で教会に走った。


 教会の屋根。ハイド神父は接近する影をすぐさま感知する。


「むっ? あの男――――なぜ生きている?」


 神父は憶えていた。 接近してくるのは、暫く前にトールを襲った男だ。


 他ならぬ、自分が心臓を突き刺して殺したはずの男。


「むっ……私が仕留めそこなった? ――――いや、違う。何かあるな」


 ハイドは普段の武器――――ナイフを懐にしまう。 


 選んだ武器は長剣。 もちろん、ただの剣ではない。


(強盗に盗まれるふりをして、町に曰く付きの武器を流してきましたが……)  


「これは特別品。 久しぶりにコイツを――――魔剣を振るわせていただきましょう」 

 

 ハイド神父は、自ら腕に刃を滑らせる。 それまでの白刃が赤く変色していく。


 それを見届けて、ハイドは屋根から飛び降り――――


 コリンと対峙した。


「お久しぶりです。どうして貴方は生きているのですか?」


「あぁ、震えるよ。一度、アンタに殺されて恐怖が染み付いているみたいだ」


「――――どうも話が通じないみたいですね」


「そうですね……恐怖が私を加速せるのです」


 コリンが間合いを詰める。それと同時に抜刀――――


「だが、遅すぎですね」とハイドの魔剣が光り、剣筋が赤い閃光と化す。


 瞬時に四肢……手足を切断する。 だが――――


「これは……以前の私なら瞬殺でしたね」


 切断したはずの手足は、すでに元に戻っている。


 コリンが手に入れた力――――不死鳥の回復力。


 その効果だが、その理由を知らないハイドは一瞬の動揺。 しかし、すぐさま冷静さを取り戻す。


「超回復……それが死んで蘇った理由。いや、死後に手にいれた能力ですかね」


「へぇ、すぐに見抜くんだ。 普通は戦いの最中にそこまで考えないよ?」


「戦闘思考能力。今まで私が戦ってきた人間は、普通からかけ離れていましたから……考えないと勝てない領域だったので」


「それじゃ私も、その領域にたどり着けたという事ですかね?」とコリンが笑った。


「えぇ、残念ですね。せっかくなのに、すぐここで貴方は死ぬのですから」


「本当かな? 本当に私を殺せますかね?」


「さぁ?」と肩を竦める。 それから――――


「初めてじゃないんですよ? 不死殺しの経験は」

 


 

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