第34話 決着 巨大粘獣決戦

 グリアに取って、豪華とも言えるその鎧は自身の心を守る象徴でもあった。


 それが破壊され――――


(助けて……助けてください……トールさま)


 ――――心の均衡が崩れた。


「うむ、これはちと不味いかのう……おい冒険者や。お主が良ければ、この実験は中止しても良いのじゃが……」


「それじゃ! すぐにお願いします」とレナ。


「ほいほい……むっ?」


「ど、どうしました? 全く粘獣の動きが止まる様子がないのですが!」


「いやはや……緊急停止ボタンをどこかに落としたみたいでな」


「なっ!」と慌てて視線を粘獣とグリアに戻す。


 その巨体は、グリアに向けて触手を振るった。 


 「危ない! 『華の盾フラワーシールド』」


 それはレナの防御魔法。


 名前の通り、花の形状をした防御壁が形成され、粘獣の一撃を防いだ。 しかし――――


「一撃で私の防御壁が壊れた。 防御魔法を破壊する仕掛けまで?」


「うむ、ワシの傑作じゃ。打撃に強い、防具を溶かす霧、防御魔法無効化……何よりデカくてパワフル!」


 空気の読めぬ科学者はご満悦だった。


「天然産魔獣が、ここまで強くなるには気が遠くなる長い年月が必要なのを、ワシなら2年の研究で――――」


「少し黙っててくれます」と一喝したレナ。 本気で怒っているらしく、これには科学者も


「うむ」と沈黙した。だが、今だに粘獣はグリアを狙い攻撃を――――


「仕方がありません。私も前線に出ます!」


 グリアを庇うように、レナも前衛に飛び込んだ。


 再び防御魔法である『華の盾』を発動して粘獣の攻撃を耐えると――――


「大丈夫ですか? 少し失礼しますよグリアさん!」


 彼女がグリアを小脇に抱えるように持ち上げ、そのまま走り出した。


 人を1人抱きかかえ、走るレナ。 それが意外と速い。


 どこか、普段のぼんやりとした彼女からは想像のできない俊敏性だった。


 その姿に科学者も黙っていた口を開き、


「ぬ? あの娘、見た目と違って、想像以上に力が強いのか。これは面白い!」


 まるで面白い研究対象を見つけたように目を輝かせた。


 しかし、前衛で戦うレナは、それどころではなかった。


 粘獣から放たれる鞭のような攻撃が連続で繰り出される。


「防御魔法では受け切れません! だったら――――」


「このっ!」と襲ってくる触手に対して片手の杖を振るう。


「おぉ! ただの膂力で人工魔物スライムの攻撃を打ち返すか。どのような技を……いや、これは単純な腕力が……」


 レナは一振りは粘獣の一撃を打ち返し、その巨体を仰け反らすノックバック


 「これで一息付けます。 グリアさん」とレナは抱えていたグリアを地面に下した。  


 しかし、グリアの今も目の焦点が合っていない。


「私はもうだめ……もう戦えない」


「いえ大丈夫ですよ。 それ私が直しますから」


「え?」とグリアは失われた光が瞳に戻っていく。


「では行きますよ! 『聖なる領域サンクチュアリ』」 


 レナの魔力が周囲に広がり、結界が成形されていく。


「レナちゃん、回復術士だけじゃなくて結界術士も……これは兼業者ダブルワーカーだったの!」


 結界内。 堅固な城壁が出現して――――中にいる者を治癒していく。 


 しかし、治癒するものは生物だけではなかった。


「これ……私の装備が光って――――」


「えぇ、私の結界の効果は壊れた防具も回復されます」


「そ、それは回復じゃなくて……ふ、復元魔法!? 殆ど禁術じゃない!」


「それは大げさですよ。ただ……他の人には内緒ですよ」


「あっ――――はい」とグリアは、理解した。少しだけ危うい立ち位置にいる事を――――


しかし――――


「うん、ありがとう。 これで――――まだ私は戦える!」


完全に復元された装備。 疲労も消え、体力も回復している。


結界内の回復効果及び身体能力強化効果。 


加えて安全圏内で精神も安定している。 


「今ならわかるわ。 高速で動く粘獣のコアに法則性がある!」  


「狙えますか? グリアさん」


「うん、大丈夫。 結界から出たら、一気に行くよ」


「はい、タイミングは?」


「――――今!」


結界から飛び出るグリア。 その動きは閃光の如く――――


一筋の光。 瞬時に間合いは消え去り、繰り出されるのは刺突。


 その必殺の刺突は――――


「ほっほっほ……見事じゃ。ワシの傑作も本望じゃろうな」


 生みの親から、終戦の感想を引き出し――――


 人工魔族 粘獣スライムコアを貫いて見せた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


「さて、言い残す事はあるかしら? 依頼者さん!」


 粘獣を倒したレナとグリア。とくにグリアは、依頼者である科学者に詰め寄っていた。


「うむ、2人で人工魔物を倒すとは、流石Aランクじゃな。天晴じゃ!」


「う~ん、アンタには反省という文字は存在しなのかしら?」


「科学者にとって反省とは、学問の前進に過ぎぬからな!」


「とりあえず、監査の権限を全力フルに使って冒険者ギルドに依頼が通らないようにしてやるから、覚悟しておきなさいね!」


「ほっほっほ……まぁ、粘獣は第一弾だから、次行ってみよう!」


「「え?」」とレナとグリアは硬直した。


2人は失念していた。冒険者ギルドの依頼内容は――――

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