パーフェクト・アナザーワールド〜俺はバスケットボールでこの異世界を制する〜

キミチカ

 序章 アナザーニューワールド


 静かな森の中……。


 そこには青々強い緑に溢れており、木々の隙間から光のシャワーが所狭しと降り注ぐ。

 現代の日本でも、探せば同じような風景は見つかるかもしれないが、ここは日本では無い。


 そして今、その幻想的な森の中で、一人の青年が目覚めようとしていた。



 カサカサ……ゴロゴロ

 ……ゴンッ!



「痛っ!! なんだよ……くそ。ふぁ~ねみぃ……んん! へ? 森?」


 草葉に包まれて寝ていた青年は、寝返りをして岩に頭をぶつけ、その衝撃で目を覚ます。


「なにこれ? うそだろ……ここどこよ?」


 青年は大きく目を見開き、辺りの光景に驚愕すると共に、現実を疑った。


 自分がなぜ森の中で目が覚めたのか全く記憶が無い。

 そして混乱の原因は、それだけに留まらなかった。


「あれ? そう言えば俺の名前は? マジかよ! 思い出せない!?」


 記憶の一部分が、何かで刈り取られたように消え去っている。

 しかし、なんとか自分が


 シン


と呼ばれていた事だけは思い出した。


 とりあえず、一旦名前は置いておこう……。

 まずはこの状況だ!


 見渡す限り木と草と石……。


 その石を見て察する。

 この石に頭をぶつけて、記憶が飛んだのだと。


 しかし、いくら思い出しても、自分がなぜ森にいるのかわからない。

 覚えているのは、自分が18歳で日本で生まれ育ち、これから大学に入学しようとしていたこと。

 最後の記憶は両親に囲まれて入学祝のご馳走を食べていた。


「だめだ! どう思い出しても俺が森にいる理由がない!」


 今度は、自身の服装を見てみる。


 バスケットパンツにTシャツ。

 それにバッシュ。


 その姿は、まるでこれからバスケットボールでもやるような恰好であった。

 しかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。


 更に周囲を見渡すと、そこであるものを発見した。


 バスケットボール……。


「うん、だよね~。この恰好なら当然…って意味わかんね!」


 一人、現状につっこみつつも、少しづつ冷静を取り戻し始め、重要な事に気づいた。


「そうだ! 携帯! 携帯さえあれば助けを呼べるじゃん!」


 文明の必需品、携帯電話。

 一人1台は必ず持ってる便利ツール。

 当然俺は、常にそれを持ち歩いている。


 早速服のポケットや寝ていた付近を片っ端から探し始めた。


「だめだ見つかんねぇ……絶対持ってきてるはず。どっかに落としたかなぁ。」


 俺は携帯が見つからず途方に暮れていると、突然変な音が近くで鳴り響く。



 パキッ!

 パキパキパキ!



「え? 何この音? 怖!」


 音が聞こえる後方に振り向くと、さっき自分が、寝返り頭突きをかましたと思われる石が割れ始めていた。


「ん? これが音の原因か…」


 奇妙な音の原因がわかり、少しホッとした俺は、その石を観察し、それが石ではないことに気付く。


「卵? え、嘘? 孵化すんの!?ちょ、え、マジ?これ爬虫類の卵?」


 爬虫類の卵にしては、少し大きめの卵を見つめていると、その石もとい卵は、まるでくす玉のように盛大に割れた。



 パカ!



 中から何かが飛び出してくる!


「うお! なんだなんだ?」


 卵から飛び出した何かは、そのままバスケットボールの上に着地した。


 そこにいたのは真っ白い猫だった……。


「はい? 猫? いやいや、猫は卵から出てこないっしょ。これは夢か?」


 俺は、その真っ白い猫をジーっと眺めていると、その猫は、人間のような悪戯な笑みを浮かべた。


「ビックリしたか人間よ」


「ね……猫が喋ったぁ!?」


「ちょっと落ち着くニャァ、喋る動物なんかこの世界には沢山いるニャ。」


 その衝撃に俺は言葉を失う。


「にゃあは猫の形してるけど猫でニャアし、そもそも、この世界では猫も人間もそう変わらないにゃ」


 その猫が言ってる意味が全く理解できない。


 しかし、この夢のような出来事がもしも現実であるならば、こういう状況に心当たりはある……。


 まさか!


 俺は冗談だと思いながらもその猫に尋ねた。


「もしかして……俺は異世界に勇者として召喚されたのか? そして最強チート能力を駆使して、あらゆる種族の美女のパーティーに囲まれ魔王を倒すのか!?」


 俺の妄想はまだ続く。


「そして最後には神の力を手に入れてそのハーレムと一緒に元の世界に帰る! ふふふ、テンプレじゃねぇか! つまりお前は俺を導く神様の使いかなんかだろ?」


 俺のテンションは上がり続け、中二病的妄想について熱弁を振るい始めるが、現実は残酷だった。

 

「全然違うニャ……。」


 その猫は呆れた様子で冷たくひとこと言い放った。


「まぁ少しだけ合ってるニャ。まずにゃあが神様の使いってところは、結構近いニャ。にゃあの事はそうだニャア、アズって呼んでくれニャ。ここは、地球には変わらないけど地球とはまるで違う世界ニャ。簡単にいうとシンが住んでた地球は滅亡したニャ!」


 アズの口から出た衝撃の事実に、俺は茫然とするしかなかった。


「え? 冗談でいったつもりが……まじで? 地球滅亡したの? 訳わかんねぇ……じゃあ家族は? みんなは? ここはどこなんだよ!」


 頭の中がオーバーヒートした俺は、つい語気が強くなってしまった。


「まぁいきなりで混乱するのは当然ニャ、シンの場合は転移というか転生に近いかニャァ、それは後で自分で確かめるニャ。」


「確かめるって、どうやって……というかそもそも何で俺の名前知ってるんだよ。」


「それはにゃあがシンに会う為に生まれたからニャ。わかりやすく言うとシンは神に選ばれたんだニャ、その案内役としてにゃあが選ばれたんだニャ!」


「俺が神に? じゃあやっぱり勇者……異世界転移であってるじゃないか!」


 少しだけシンの目に希望が宿るも、アズから返ってきた答えに再度絶望する。


「シンは勇者でもなければただの人族ニャ、ぶっちゃけこの世界の基準からすれば激よわニャ……でもにゃあがいるから安心しろニャ!」


 アズは二足歩行で立つと、右手の肉球を胸に当てて自信満々でそう言い張つ。


 おい、この小さな小動物に何を期待しろと…

 つか、俺……弱いんだ……。


「なぁ、お前が神の使いって言うなら教えてくれ。俺は何の意味があってこの世界に召喚されたんだ?」


 俺の質問にアズは前足をアゴにあてながら、長考し始める。


 その姿は、さながら考える人、もとい考える猫。


 しばらくして出た言葉は……。


「意味ニャァ……うーん、たぶんシンが望んだからかニャ。正直にゃあも記憶が完全じゃないからよく思い出せないにゃ。」


 たぶんって……。

 つか俺が望んだ?

 何いってんだこいつ?


 そんな記憶ねぇぞ、ますますわからん!

 さっき任せろって自信満々に言ってた割にいきなり使えねぇなこの猫……。


「とにかく今は深く考えずに一緒に冒険するニャ!楽しい冒険の始まりニャ!」


こうして、俺とアズの不思議な旅は始まった。



 

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