熱き教育実習と登校拒否⑧
琉生からの返事はない。 それでも返事が来ないまま話し続けた。 多少強引だとは思っている。 だが言葉を交わさなければ始まらないのだ。
「よかったら、琉生くんのやりたいことや夢を教えてほしいんだ。 是非、応援させてほしい」
「・・・」
そう尋ねても返事はない。 母は分かり切っていたのか後ろで溜め息をついていた。
「学校へ行かなくても、自分の好きなことだけで生きていく道もあるんだよ。 だからどうか、琉生くんも人生を諦めないでほしいんだ!」
そう声をかけ続け30分は経った。 “もういい”といったように母がドアと熱司の間に割って入る。
「・・・そろそろお引き取りください」
「まだ駄目です。 琉生くんとの話は終わっていません!」
「・・・もう無理だって分かったでしょう?」
―――どうしてお母さんがそんなに弱気になっているんだよ。
―――どうして常に不安そうな顔をするんだ?
それが琉生が部屋から出てこれない原因だと思った。
「分かりません! どうしてお母さんが琉生くんよりも先に諦めてしまうんですか!?」
「・・・もう無理だと分かっているから」
「大人が道を切り開いてあげないと! 子供は一歩を踏み出しにくいんですよ!」
母は限界が来たのか首を大きく横に振った。
「もう帰ってください! 放っておいて!!」
「まだ無理です!」
押し返してくる母だが男の熱司を動かせるわけがない。
「息子にどれだけストレスを与えたら気が済むんですか!」
「それが駄目なんですよ! お母さんは息子のためだとか言っていますけど、結局は琉生くんの気持ちを全然考えていない!」
「ッ・・・」
「琉生くんの本当の気持ちを聞いてみましたか?」
「・・・もういいです」
そう言うと母は一階へと降りていった。 すぐにドアに歩み寄る。
「琉生くん、ごめんね。 大声を突然出したりして。 驚かせちゃったかな」
母が離れてからも声をかけ続けた。 更に三十分後。 家のチャイムが鳴る。
―――誰か来たのか・・・?
熱心に声をかけ続けていたためチャイムの音で我に返った。 窓の向こうを見てかなりの時間が経ったことに気付く。
―――あれ、もう夕日が落ちかけて・・・。
―――ここへ来てからどのくらい時間が経ったんだろう。
ぼんやりと考えていると、琉生の部屋から小さな物音がした。
「ッ、琉生くん!? 聞こえるかい?」
物音はドアに近いところから聞こえた。
「よかった。 近くで聞いてくれているんだね」
少しでも琉生が自分と距離を詰めてくれたことに嬉しさを感じていると母が戻ってきた。 母の後ろには斎藤先生と教頭がいた。
―――ッ、マジか!?
―――俺がしつこいから、学校に連絡をしたんだな。
―――そこまでするか・・・?
「あ、熱司先生! もうお止めになってください! これ以上はあまり、人様に迷惑をかけないよう・・・」
相変わらず斎藤先生は動揺している。 それを見かね教頭が言った。
「これ以上我が校の評判を落とさないでくれますか? 力尽くでも引き剥がしますよ」
担任と教頭に引っ張られ琉生の部屋との距離が少しできてしまう。 二人がかりだと簡単には勝てなかった。 この場で留まるのがやっとだ。
―――ここまで来て負けてたまるか!
―――俺は今日と明日しか時間がないんだ!
「琉生くん! 聞こえるかい!? 君の本当の気持ちを知りたいんだ! 俺と一緒に話そう!!」
それでもめげずに声をかけ続けた。 その瞬間ゆっくりと琉生の部屋のドアが開く。 そこから小さな身体をした琉生が姿を現した。
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