第6話 僕しかいない町と何か①-6
「なんなんだよ、あんた。僕に恨みでもあんのか」
「ギー。ギギー!!!!」
ギーギー言う何かはまたこん棒を振ってきた。
「くそっ。ほんまなんなんだよ」
必死にこん棒を避けて、起き上がり、あとは腰の痛みをこらえながらひたすら走った。電車にさえ乗ればこっちの勝ちだ。今度はもう我も忘れて全力で駅に向かった。
駅といってもただ一つの路線を二つのホームが挟んであるだけのシンプルな無人駅だ。一番線は東に、二番線は西に向かう。唯一の路線がこれだけなのだからわかりやすくて助かる。
電車はまだ来ていない。走ったおかげで予定の一本前の電車にぎりぎり間に合いそうだ。中学の時に父からもらった腕時計をチェック、あと一、二分で来る。
飛び込むように駅に入り、線路をまたぐ陸橋を渡り、向こう側のホーム二番線へ。踏切の音が響く。もうすぐだ。逃げられる!
「ギー!」
もう追いついてきた。「何か」と目が合った。もう逃げ場はない。早く電車こい。
はやくはやくはやく。
すると「何か」は陸橋を渡らず、直接線路を横切ってこちらのホームへやってきた。
「パァーーーーーン」
電車の警笛?が響く。それと同時に鉄くずの鈍いガシャという音がした。
「ギーーーーーーーーーーー・・・・・・」
「・・・・・・」
「何か」は空の彼方へ吹っ飛んでいった。リアル「バイバイキーン」を見てしまった。
何もなかったかのように電車のドアが開き、誰もいない電車の席に座ると安堵とともに汗が噴き出てくる。極度の緊張状態からの落差で、心身ともに「寝ろ」と訴えかけてくる。こんな状況で寝てられるかとしばらくは抗った。
意識を巡らせる。いや、そこまでしなくてももう気付いた。人身?事故だろうと止まらない電車、誰も出ない電話、そして何より客も運転手もいない無人で走る電車。
「僕しかいない町か。あとそれと変な何かもいたけど。夜行バス、予約完了メール来てるけど本当に来るのか?」
そして訴えに負けた。
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