第34話

「ど、どうかな悠斗くん。似合う?」


 試着室から出てきた小春は俺にそう聞いてきたが、似合わないわけがない。

 似合いすぎていて怖い。

 

「うん。取っても似合ってる。可愛いよ」

「そ、そう? えへへ、可愛って言われちゃった」


 そう言って小春は両手で赤くなった頬を隠す。

 なんだこの可愛い生き物は。

 

「あー、小春ちゃん可愛い~」

 

 俺の後ろから奈那子先輩の声がして振り向く。

 

「どうしたの? 小春ちゃんも悠斗くんに服選んでもらってたの?」

「は、はい! せっかくなら選んでほしいなって思って」

「良いじゃん! 凄い似合ってる、可愛いよ」

「あ、ありがとうございます」


 奈那子先輩は小春に近づいていく。


「奈那子ちゃんと一之瀬さん、中学の頃からの知り合いだったらしいぞ」


 翔琉は小春を見つめる俺の肩に手を置いてそう言う。


「ああ、小春からこの前聞いたよ」

「そうだったのか」

「ねぇ、翔琉。私にも早く選んでよ~。小春ちゃんみたいな可愛い服が良いな」

「分かったよ」


 そう言うと翔琉は俺の肩から手を離し、奈那子先輩に似合う服を探しに行った。

 奈那子先輩も小春に負けないくらいの美少女だ。

 小春と同様、何を選んでも似合ってしまうだろう。

 

「小春、この服で良いのか?」

「え? あ、うん。悠斗くんがせっかく選んでくれたんだもん」

「そっか、じゃあお会計するから服脱いでくれる?」

「こ、このまま着ていけないかな?」

「店の人に聞いてみるよ。待っててね」

「うん」


 俺は店員に聞くためにレジに向かった。


「すいません。ちょっと聞きたいことがあるんですが」

「はい、なんでしょうか」

「彼女が服を試着したんですが気に入ったらしくて、買ったらこのまま着ていきたいって言ってるんですけど大丈夫ですか?」

「はい、勿論です。でしたらレジまで彼女さんと来ていただけますか?」

「分かりました」


 俺は「小春、レジまで来てくれる?」と小春に聞こえる程度の声で呼んだ。

 小春は直ぐにレジまで来てくれた。


「わー、可愛い彼女さんですね」


 女性店員は小春を見ると一回り高い声でそう言った。


「あ、ありがとうございます」

 

 小春は嬉しそうにお礼を言う。


「彼女さんが今着ている服で間違いないですか?」

「はい」

「では彼女さんちょっとこっちに来てもらっても良いかな?」


 小春は言われた通り女性店員に気かづいて服のタグにバーコードリーダーかざす。

 俺はレジに表示された代金をトレイに乗せる。


「ちょっと待ってね。今タグ切るからね」

「ありがとうございます」

「こんな可愛いお客さん初めてですよ」


 そう言って小春が着ている服のタグをはさみで切る。

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