第13話
明日から冬休みということもあり、今日は午前中で授業が終わった。
「篠原、先輩へのクリスマスプレゼントは買えたのか?」
「ああ、ばっちりだ。いよいよ明日だな」
「篠原くん。先輩へのクリスマスプレゼントちゃんと買えた?」
隣に座る小春は俺と同じ質問を篠原にした。
「悠斗と同じこと言ってるな。ああ、ちゃんと買えたよ。昨日はありがとね」
「良かったね! 私なんかで役に立てたなら嬉しいな」
小春は可愛らしい笑顔でそう言った。
「じゃあ俺帰るわ。明日のデートの予定考えないといけないし」
「ああ、じゃあな。頑張れよ」
篠原の事だし、明日のクリスマスイヴに先輩に告白でもするんだろう。
まぁ篠原なら難なくオッケーしてくれると思うけどな。
「ああ、お前も頑張れよ」
「何をだよ」
「さぁな」
そう言い残して篠原は教室を出て行った。
篠原は俺が小春を狙っていると思っている。だから俺に対してそう言ったのだろう。
それに篠原は明日の予定を考えると言っていたが、あれは多分嘘だろう。
さっきまで教室には俺と篠原、そして小春の三人だけだった。だから篠原は俺と小春の二人っきりにするために帰ったのだろう。
我ながら良い友達を持ったものだ。
「じゃあ俺達も帰るか」
「うん。帰ろ」
小春は自身のカバンを肩に掛け、俺の元へ来た。
小春と二人で家に帰ることになって三日目だが、今でも不思議な感覚だ。
それに小春と一緒に歩くと通行人の視線も結構来る。
「今日も寒いね。マフラー使う?」
「いや、いいよ。俺に貸したら小春が寒い思いするだろ? それに小春はスカート穿いてて素脚なんだからズボンの俺なんかよりも寒いでしょ」
「優しいね、悠斗くん。なら――――」
小春は一度喋るのを辞めて、右手の手袋を俺に渡してきた。
「手袋なら、悠斗くんに貸しても寒くないよ」
「でも少しは寒くなるだろ?」
俺の言葉に小春は首を横に振った。
「こうすれば寒くないもん」
そう言って小春は右手で俺の左手を握った。
「悠斗くんの手、冷たい」
「手袋も何もつけてなかったからな」
「私の手、温かいでしょ? だから悠斗くんの手温めてあげる」
小春の手は勿論温かい。
「……ありがとう」
まだ小春と手を繋ぐのは少し照れくさい。
それに小春の笑顔と行動が可愛すぎる。
「ねぇ、悠斗くん。明日楽しみだね」
「そうだね」
「早く明日にならないかなぁ」
小春は空を見上げながらそう呟いた。
早く明日がやってきてほしいと思う反面、明日が終わってしまうと楽しみが一つ減ってしまうと思うと少し寂しい。
小春は少し頬を赤らめる。
どうやら恥ずかしいのは俺だけではなかったらしい。
少し歩いていると家に着いた。
俺と小春は各自の部屋で制服から私服に着替えた。
ふと、小春へのプレゼントが仕舞われている引き出しに目が行った。
「小春、喜んでくれるかな?」
プレゼントを買った時は絶対に喜んでくれると思っていたが、やはり少しは不安だ。
初めてできた彼女への初めてのプレゼントは絶対に喜んでもらいたい。
「今から緊張してたらもたないよな」
そう呟いてリビングへと向かった。
リビングのソファーには小春がクッションを抱きしめながらテレビを見ていた。
「なんでクッションなんて抱きしめてるんだ?」
俺は小春に抱いた疑問を素直に言った。
「え、癖……かな?」
「癖? クッションを抱きしめる癖?」
すると小春はコクリと頷いた。
「あ、でもクッションというよりもぬいぐるみかな。私、学校から帰ってきても一人で、寂しいのが苦手だからいつも無意識にお父さんが買ってくれたぬいぐるみを抱きしめてて。そうすると凄く安心するの」
「そういうことか。ごめんな、俺の家にぬいぐるみなくて」
俺が謝ると小春は首を横に振った。
「悠斗くんが居てくれたら寂しくないから大丈夫だよ」
小春は俺にそう言って微笑んだ。
なんだこの天使は。何で我が家に天使が居るんだ。そう思わずにはいられなかった。
「小春。そのぬいぐるみは持ってこなかったのか?」
「うん。持ってこなかった。お家にあるよ」
お父さんから買ってもらって毎日抱きしめていたくらいなんだ。大切なものに決まっている。
それなのに何故持ってこなかったんだ?
「なんで持ってこなかったの?」
「ぬいぐるみとかは一回悠斗くんに聞いてからじゃなきゃダメかなと思って」
小春はまだ俺の家だからという理由で遠慮をしているらしい。
「前にも言ったと思うけど、遠慮なんてする必要ないんだよ。この家は小春の家だと思っていいから。小春の大切なものを持ってきちゃダメなんて酷い事言ったりしないよ」
「本当に良いの?」
小春は弱々しい声でそう尋ねる。
俺も小春に遠慮されるのはあまり好ましくない。
まだ同棲を初めてあまり時間が経っていないからかもしれないが、それでも小春に遠慮はさせたくない。
「良いに決まってるだろ? 小春には嫌な思いや辛い思いはさせたくないからね。勿論遠慮もしてほしくない」
「ゆ、悠斗くん…………あ、ありがとう」
小春は抱きしめているクッションで自分の顔を隠した。
そんな可愛らしい仕草をされたら俺はクッションじゃなくて小春を今すぐ抱きしめたくなってしまう。
そんな勇気、俺にはこれっぽっちも無いんだけど……
「あ、そうだ。明日の事なんだけどさ」
俺は話題を切り替えた。
「明日? クリスマスデートの事?」
「うん。明日の夕方の六時くらいに家を出ようと思うんだけど、どうかな?」
六時なら駅が混むか混まないかの微妙な時間帯だが、それ以上早く行ってもイルミネーションの電灯時刻は七時からなので時間が余ってしまう。
丁度いい時間が六時なのだ。
「良いよ。悠斗くんにお任せしちゃう」
「じゃあ任されました」
そう言って俺は小春の隣に腰を下ろした。
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