第43話 アン・ナン・パク
「それよりオメエさん、ただ顔見せに来たってわけか?ご苦労なこった」
せせら笑うようなかなめのいつもの表情にもアンはうろたえることもなかった。
「実は嵯峨隊長に会ってくれと言われました。もし馬が合わないようならそのまま帰ってもかまわないと言うことでしたが」
嵯峨らしい配慮である。誠はあの間抜けな顔をした部隊長がめんどくさそうに画像通信をしている場面を思い浮かべた。
「それでどうするつもりだ?帰るなら早いほうがいいぞ」
かなめがサングラスをずらして小柄なアンを見下ろした。
「いえいえ、帰るなんて。なかなかいい環境のようじゃないですか。それに司法局の本局で事前に聞いていたほど、お馬鹿な集まりじゃないと分かりましたし」
そんなアンの言葉にかなめは複雑な顔で黙り込む。
「そうよねえ、馬鹿なのはこの男子二人とかなめちゃんだけだもんね」
アメリアはそう言って島田、誠を眺めている。
「アメリア……本当にいっぺん死んで見るか?」
かなめがこぶしを握り締めてアメリアをにらみつける。アメリアはいつものようにすばやくかなめから遠ざかると誠の陰に隠れてかなめを覗き見るふりをした。
「アン……フルネームは?」
「本当の名前は憶えていません。書類上はアン・ナン・パクとなっています。階級は軍曹です」
丁寧にそう答えるアンを皆がら誠はアンが手にしているガンケースの中身が気になってそわそわしていた。
「それではみなさん。本部に出頭するバスの出る時間なので……失礼します」
アンはペコリと頭を下げるとそのままロビーへと足を向けた。
「そうだな。では本部で会おうや……ベテランの新兵さん」
黒いガンケースを抱えたアンを見送りながらかなめはそうつぶやいた。
「隊の形ができたってことか」
「そうか?民兵上りはしつけが色々となあ……」
カウラの言葉にかなめはめんどくさそうにそう答えてアンが去っていったロビーへと歩いていく。
「置いてくぞ!」
振り返ったかなめの言葉に一同はようやく我に返ってロビーへ続く廊下を進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます