第31話 奇妙な現実
「それでは、クロダイのソテーになります」
ボーイが運んで来た皿を眺めながら誠はなんでこんなに少なく盛るのか理解に苦しみながらその魚の切り身を眺めていた。
「そう言えば……野球の練習っていつやるんですか?」
誠の問いは自分ではもっともな話と思っていたが三人の女性上司にとってはあまりに間抜けな話のようだった。
「あのなあ……アタシ等は楽しみで野球をやってるの。この夏の暑い中練習してどうすんだ?」
相変わらずの見事なフォークさばきを見せながらかなめはそう言って誠をにらみつけた。
「あれよ、九月になったらリーグが始まるから。……そうねえ……月末になったら考えましょうよ」
「そうだな」
アメリアとカウラもまたそれなりに手慣れた手つきで料理を口に運ぶ。
「皆さんフランス料理とか食べ慣れてます?」
誠はずっと気になっていた疑問を口にした。
「逆に聞くけどさ。オメエの親父は私立高の教師だろ?そんなに給料安いのか?」
「いや……うちの父は全寮制の高校の寮に住んでいて年末ぐらいしか帰ってこないんですよ。それに僕は乗り物に弱いんで旅行とかほとんどしたことが無くて……修学旅行も行ってませんし」
仕方なく誠は自分のあまり知られたくない事実を吐露した。
「でも、校外学習とかは?」
「それも……僕はその日は休みました。本当に乗り物に弱いんで」
アメリアの問いに答えつつ、誠はある事実に気づいた。
自分が『パイロット』と言う乗り物の操縦を仕事にしているという事実である。
「でも今日は吐かなかったじゃないか」
「いえ、途中のパーキングエリアで吐いてました」
カウラのフォローにそう答えざるを得ない自分を情けなく思いながら誠は不器用に白身魚の肉片を口に運んだ。
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