第9話 タバコの香り

「まあ……苦労すると思うよ、おまえさんは。俺と似て頼りにならない感じだもん」


 部隊長の嵯峨の言葉に、正直誠は反発していた。


 嵯峨はゴミだらけの部隊長室をはじめとする、『駄目人間』を代表するような男である。


 誠の部屋は嵯峨の惨状に比べればかなりましだった。


「そう言えば……隊長は小遣いを茜さんから貰ってるんでしたっけ?」


 せめてもの反撃として誠はそう切り出した。


「そうだよ……俺は資金面での計画性は部下に任せっぱなしだから。あんまりね……」


 嵯峨の言葉に誠はやはりと思いながらタバコをくゆらせる嵯峨を見つめていた。


 その時、誠は背後に気配を感じて振り返った。


 そこには、かなめ、カウラ、アメリアの三人が着替えを済ませて立ち尽くしていた。


「おう、やっぱりか……カウラ、ちょっと吸わせて」


 そう言うとかなめはタバコを着古したジーンズから取り出して素早く火をつけた。


「いいねえ……コイーバクラブ?千円越えだろ?十本で」


 かなめの吸いだしたタバコに嵯峨はそう声をかけた。


「アタシはタバコはキューバに決めてんの」


 そう言い放つとかなめは静かにタバコをくゆらせた。


「神前。こいつのタバコ……葉巻だぞ」


 嵯峨は厭味ったらしくそう言うと席を立った。


「これ……葉巻なんですか?細いですよ」


 そんな誠の言葉にかなめは静かにタバコの煙を吐き出しながら言葉を続けた。


「葉巻はな、管理が大変なの。湿度とか、気温とか。いろいろあんだ。その点この『シガリロ』は問題ないから」


「『シガリロ』?」


 誠はそう尋ねるが、かなめは平然と煙草をくゆらすばかりで何も答えることはなかった。


「かなめちゃんの気まぐれでしょ。まあ、かなめちゃんがタバコに金を惜しまないことは知ってるけど」


 アメリアとカウラは呆れた表情で、タバコをくゆらせるかなめを見捨てるようにして喫煙所を後にした。

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