マジックアイテムを作るのが趣味の俺は、マンティコアに就職しました
ろくろっく
プロローグ:ちょっとしたお願い
「うあー、煮詰まった煮詰まった。ここの式を先に組んじゃうと天井が冷えなくなっちゃうなぁ」
考えすぎてぐるぐるしてきた頭をこぶしで軽く小突く。
かれこれ一時間近く新しい魔法を考えてると、退屈というか、精神的に参ってしまってついつい独り言が多くなる。
「でもなー、かといって後に回すと風が強すぎていろいろ吹き飛びそうだからなー」
椅子に座ったまま後ろを振り向き、自室を見回すと、そこには床一面にびっしりと積まれた紙束。
全部自分が書き上げた魔法陣である、大量にありすぎて自室からでることも困難だ。
試しに書いた魔法を使ってみて実際に起きた問題を直に見てから対処してもいいのだが、今やると大惨事が起きるとなんとなく分かるからやめておく。
「なんか上手いこと効率的にできそうな気がするんだけどなー」
手に持ったペンで問題が起きそうな部分をつついたりしてみても、もどかしい感覚が頭に走るだけでちっとも天啓が舞い降りてこない。
だめだ、完全に頭が動かなくなってる。
「むわー。休憩するか……」
ぐぐっ、と背中を伸ばす。
腰のあたりからコキッ、と子気味いい音がした。
しかも長時間座りすぎてお尻まで痛くなってきた。
「ダグちゃーん! ちょっと用事があるんだけど入って良いかなー!?」
「ん?」
どんどんどん、と慌ただしくノックされる扉から父さんの声がした。
ダグちゃんとは俺、ダグラス・ユビキタスのあだ名である。
もっとも、そう呼ばれていたのは幼少期までで、もう25歳になった今では特別な事情でもない限り家族でもダグラスと呼んでいる。
俺をダグちゃんと呼ぶということは、もしかすると……。
「なーにー父さん。またなんか困ったことでも起きたの?」
「そうそう、ちょっとダグちゃんじゃないと頼めないことができちゃって! 父さん入るよ……ってうわっ!? ごめん、なんか紙が落ちちゃった!?」
やっぱり、なにか頼みごとだったか。
部屋に入ってきた父さんは早速積み上げた魔法陣の紙束を崩してしまった。
あーあ、これなら魔法を使って確かめた方がよかったな……。
「あー、別にいいよ。あとでまた積み上げるから」
「崩しておいてこんなこと言うのもあれだけど、この部屋片づけないの?」
「イヤだよ面倒くさい……」
「そ、それなら他の人に片づけをやらせようか?」
「使用人さん使って片づけさせないで、魔法が暴発したら危険だから」
私室を勝手に片づけられるのも好きじゃないともいう。
急いでいるみたいだし、あまり話を脱線させるのも悪いから話を戻そう。
「それで、俺になんか用があるんじゃないの?」
「ああそうだ、そうだよダグちゃん! どうしても内密にやってもらいたい仕事があるんだよ!」
「――――仕事?」
父さんの用事というのは、どうやら仕事の頼みだったようだ。
しかし、仕事か。
仕事といういい方は……非常によろしくない。
「父さん、俺は仕事はやらないよ。俺の魔法はあくまで趣味だし、『お願い』じゃないと絶対に引き受けない」
「あっ……そうだったね、ごめん。それじゃあ、お願いがあるんだけど……」
「ならよし」
強い口調で訂正を求める。
父さんが少し残念そうな顔をしてるけど、これだけは譲れない。
仕事などという社会からの足枷とは無縁の存在でありたいが故に、俺はギルドに所属せず、フリーの魔法使いとして引きこもり生活を謳歌しているのだ。
といってもまあ、流石に生活するだけのお金は必要なので、商人ギルドのギルド長である父さんの『お手伝い』をこなすことで『お小遣い』を得ている。
商人ギルドの商売、マジックアイテムの売り上げが俺の僅かな収入源なのだ。
まあ本当にお小遣い稼ぎにしかならないけど、今の勝手気ままに魔法をいじる生活の方が性に合っているから気にしていない。
ちなみに、今作ってたマジックアイテムは『部屋をいい感じに涼しくするくん』という魔法陣だ。
そろそろ暖かくなってくるからね、コイツなら需要が出てくるに違いない。
「それで、どんなお願いなの? ちょうどマジックアイテム作成も息詰ってたから、割となんでも引き受けるよ」
「本当かい!? いやー助かった! 実は僕の方から『ぜひ任せてください!』って言っちゃったから、ダグちゃんがやってくれなきゃどうしようもなかったんだよー!」
「ダグちゃんはやめろって。というかもうそこまで約束を取り付けてたんじゃ断れない……ああもう父さん、引っ張らなくて良いから!? 」
返事を聞くや否や、父さんは顔を輝かせて俺を部屋から引っ張り出してしまった。
ほんと、ごくたまーにだけど強引な父さんだよ。
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