剣・恋・乙女の外伝 ~『流水の弟子』の修行・大陸放浪編~

千里志朗

第1章 魔の森編

第1話 振り返りし日々


過去話のみに変更されました。以下は前の前書きです。


(第二部開始です。


1話は、今までを振り返り反省している様な感じで、総集編?みたいな感じです。


EXルートに入らない、145話から後の話ですが、二話から、夢、回想、の形で過去の修行の話へと移ります。


それを終えて改めて、145話のアルとの戦いもやりますので、


よろしくお願いいたします。)

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 ※



「―――つ~~っ、疲れた……」


 ゼンは自分の部屋に戻ると、余りの脱力感でベッドに倒れ込んで、突っ伏した。


 『人間弱体党』への襲撃計画が終わり、冒険者ギルドで打ち上げが行われたのだが、その夜、ゼンはハイエルフにアルティエールに連れ去られ、フェルズからかなり遠い遠方の地で、彼女と命がけの決闘紛いの事させられる破目に陥った。


 単なる誤解の積み重なりで、自分を軽く見られ、ないがしろにされた、と思い込んだアルティエールの、意固地で頑固な性格故のこじれた話だった。


 それを何とか止めて、話合いにまで持ち込むのに、ゼンは昨日に引き続きの、余裕のない全力戦闘を強いられた。下手をすれば、命を落としてもおかしくない、ギリギリ瀬戸際の戦闘だった。


「……やっぱり、師匠の言う様に、自分の許容量を超えた事をしている、面倒事を背負い込んでるって事なのかな……」


 ベッドに倒れ込んだまま、ゼンは独り愚痴る。 


 ゼンの師匠、ラザンは、自分に出来る限界を見極め、それ以上を抱え込まない様に、と愛弟子(まなでし)のゼンに助言していた。




 だが、フェルズに戻ってからゼンは、パラケスに頼まれた従魔術の伝授を、冒険者ギルドに対して行い、その過程で、従魔研で少なからずな人数の人やエルフとの付き合いを得た。


 そこで出会った3人のエルフの少女(?)、ハルア、エリンとカーチャ。


 そして、獣王国から来た、二人の獣人族の女性。


 公爵令嬢で、獣王の姪、ロナッファ、将軍の娘で、伯爵令嬢、ゼンとはすでに顔見知りの自称弟子、リーラン。


 それらの前に、考えもしなかった、過去に失ったと思った治癒術士ザラとの再会。


 それと並行する様に、思いがけず実ってしまった、封印していた自分の片思い。


 『西風旅団』のメンバーで、黒髪の美しき魔術師、精霊王(ユグドラシス)の親友、サリサリサ。


 その、サリサとザラの二人を、二人とも婚約者として迎えてしまい、他にもゼンを慕い、その想いを告白する者、ただ黙って想いを募らせる者、等々。


 いつの間にか、ゼンの周囲には、ゼンを慕う女性達が、まるで引き寄せられる様に集合していた。


 恋愛をする事等、考えもしなかった自分に、何故こんなにも次々と、女難じみた出来事が起こるのか、人たらしな天然の魅力に、無自覚なゼンには分からない。


 恋愛自体は、封印していた想いを、お節介な精霊王(ユグドラシス)に解かれてしまってからは、多少の理解が出来るようになったが、それでも自分が好かれる理由、それ自体については納得の行く答えは出ていない。


 獣人族の二人は、自分を打ち負かした相手だから、が主な理由らしい。


 種族的に、純情無垢、純真可憐なエルフは、ちょっと助けられた、みたいに些細な切っ掛けでも恋愛へと発展するらしい。


(チョロイン二大種族)


 ギルマス付きの秘書官、ファナは、レフライアに憧れる余り、その義理の息子となるゼンと結婚すれば、レフライアの義理の娘となれる、等と言う普通ならどうでもいいような与太話を、ギルマス本人に吹き込まれ、まさか真に受けたのか、ゼンに対して怪しい挙動をしている。


 と、一応それぞれの理由は、分からなくもないのだが、それで好き、恋愛に至るのかというと、どうにも疑問で納得がいかないのだ。


 “自分如き、背の低い子供で、スラム出の、素性も得体の知れぬ、一冒険者に―――”と。


 ゼンにとって、ラザンとの修行の旅の間に定着した、『流水の弟子』としての英雄の活躍や評判は、単に師匠のオマケに過ぎず、未熟な自分には過分な評価でしかなかったのだ。


 身につけた装備は立派で、多少の剣術が使える様になっても、中身は薄汚い(清潔にしていても)、所詮はただのスラムの子供(ガキ)風情。


 それが、ゼンの自身に対するいつまでも変わらぬ印象(イメージ)だった。



 ※



 ゼンは、義理の親と、自分を受け入れてくれたパーティーの大切な四人、そして自分の分身とも呼ぶべき従魔達の事以外は、切り捨てて考えなくてもいい事柄としか思っていなかった。


 そう完全に冷たく合理的に割り切った性格をしている、と自分で思い込んでいた。


 だから、自分の大事なパーティー『西風旅団』の、安全な迷宮探索の手段として、考えていたクランも、“仲間”を増やすのではなく、仕事上での、一時的な協力者として、お互い利用し合うドライな関係になるだろうと推測していた。


 そのクラン全体の、私生活の管理として大きな宿舎を借りたのも、あくまで共同生活で、探索中の連携行動、息を合わせる鍛錬の為の手段で、それ以上を求めていた訳ではなかった。


 だが、フェルズに帰還して、物事が動き出すと、どの話でも、ゼンが考えていた様な、合理的で割り切った、小規模な話で終る事はなかった。


 クランに一番始めに参加を表明した『爆炎隊』は、ゼン達と、迷宮(ダンジョン)で、余り良好とは言えない出会いをしたパーティーだったのだが、その衝撃の出会いで逆に、『流水の弟子』の強さを知り、『西風旅団』の実力も認識した彼等は、最初から友好的な存在となり、クランの勧誘予定のパーティーに顔見知りが多かった事から、クラン勧誘は、勧誘した全てのパティーに了解をもらえる、という大成功を納めた。


 そして、中には反発的な気持ちや態度をしていたパーティーもいたのだが、それらもクランでの宿舎の待遇の良さや、ゼンが、それぞれのパーティーが抱える問題への助力を約束され、次第にこのクランに馴染んで行くのだった。


 物事における人との付き合いは、どんな場合でも有機的に複雑に絡み合い、結果それは、友好的な絆として広がり、人脈形成がなされる。


 大勢の人々が暮らし、社会生活を営むそれが、ゼンには経験がないが為に予測出来ず、いつの間にか自分が大きな集団の中核にいる事を、それが形成されてしまった後に気付くのだった。


 修行の旅の時も、そういう事がなかった訳ではないのだが、所詮それは、旅する流れ者の一時の付き合いでしかなく、それが継続する事は、基本ない。


 従魔の件や、流水の剣術に興味を持って同行者となったパラケス翁以外。


 だから、スラムでも一人で生活を何とかして来たゼンには、定住して、冒険者として一つ所に留まって生きて行く未来の展望が、ありはしたのだが、いざそれが実現してみると、自分では思いもしなかった余波や影響が各所にあり、考えもしなかった流れへと、ゼンは半強制的にいざなわれていた。


 例えば他には、スラムの子供達の件だ。


 ゴウセルの、商会の乗っ取り騒ぎの一環で、この本店のあるフェルズで行われていた営業妨害に雇われていたのが、スラムの非合法組織で、ゴウセルが雇っていたスラムの子供達も脅迫されて、その妨害行為に加担されていたのだが、その過程で、その当事者である子供達と知り合い、そして、昔助けられなかった、ゼンの命の恩人であるザラをそこで偶然見つけ、助け出した事から、それは始まった。


 ゼン自身は、自分がスラムの出だからと言って、彼等を救いたい、等と言う慈善の心を持ち合わせてはいなかった。


 自分も基本、一人で生きていたし、彼等には彼等の世界があり、それに干渉するつもりは微塵もなかった。


 だが、ザラは違った。


 彼女は、自分の生まれ持つ治癒の力を、現在も過去も関係なく、周囲の人々に、分け隔てなく無償で行使していた。


 怪我や病気を治す手段がほとんどないスラムの地で、自分だけがそれとは無縁でいられる事に、考える必要もない筈の、負い目や罪悪感があったのだと言う。


 それに影響を受けたゼンは、事前から考えていたクランの宿舎に、彼等、スラムの子供達を使用人として、正式な身分は、冒険者である自分の従者登録として、働かせる事を考えついたのだった。


 単に資金は潤沢にあるので、物のついでな、軽い気持ちだった。


 ゼンは、ただ孤児院に多額の寄付をする事や、スラムの子供に無料の施しをする事をいい事だとは考えていなかった。収入とは、働いた代償として得られる対価であり、それをただばら撒けばいいとは思えなかったからだ。


 だから、一応の保護者兼雇い主、となっただけのつもりだった。


 それが、いつのまにやら『スラムの英雄』と崇められている。


 やること成す事全て予想外の流れになって、制御が出来ていなかった。


 それが、ゼンの自省に繋がっていた……。



 ※



 ゼン自身にはもう、修行の旅の途上で得た、魔物の魔石や素材、貴重な武器や魔具等、売れば一生使い切れない様な財産がある。


 それは当然、ほとんどの権利は師匠であるラザンの物である、とゼンは思うのだが、ラザン自身は大して金を必要とはしておらず、酒と女 (娼婦)ぐらいか、と笑って済ませる。


 強くなる手段として魔物を狩っているだけで、魔石も素材も収納具に死蔵するか、下手をすると倒した魔物を、そのまま放置して移動しようとさえする事も、多々あったのだ。


 だから、別れ際に、自分はいらないので、これからの生活に生かせ、とゼン自身が狩った魔物以外の素材類や魔石まで、価値のある物はほとんどをゼンに譲り渡していた。


 自分は宵越しの金は持たない主義だ、と謎の主義主張を表明して、僅かな食料と酒だけあれば、それでいい、といつもの皮肉な笑みを見せる。


 ゼンがどんなに固辞しようとも、それは変えられず、目上のパラケスまでが、「弟子は師匠に従うものじゃろ?」と言い、結局押し切られてしまった。



 それでも、剣術以外は無頓着でほぼ何もしない、ぐうたら駄目人間なラザンの生活面の心配から、剣狼ソ-ド・ウルフの魔石で従魔を造ってもらった。


 その時、「こういう風にするんです」と、自分が狩った剣狼ソ-ド・ウルフのボスの魔石に“気”を流し、うっかり従魔にしてしまったのがゾートだった。


 ラザンの方の従魔も、当然の様に“人種(ひとしゅ)”に進化し、偶然、ゾートの妹だった。


 “アヤメ”と名付けられた従魔が、完全に成長する少し前から、ラザンの身の回りの雑事や料理等を、他の従魔達と一緒に教え込み、密かに食材やある程度の金を収納具にまとめて渡し、家事全般、心配のないレベルまで到達してからゼンは、フェルズへの帰還の途についたのであった。



 そうして戻って来たフェルズでの生活は、まず始めに、ゼンをスラムから見出し、冒険者になるまでの一切を世話してくれた、ゴウセル商会の会長、ゼンを養子に、と望んでくれたゴウセルの商会の乗っ取り騒ぎと、ゼンをパーティーの一員に、と受け入れてくれた冒険者のパーティー『西風旅団』の解散騒動等がいきなりあった。


 どうにか、それらはゼンと、その時はまだ秘密にしていたゼンの“従魔”達の活躍で事なきを得た。


 その後、『西風旅団』の復調具合を見る為に、彼等が大怪我をした中級迷宮(ミドル・ダンジョン)を攻略した。


 それから、パラケスに託された“従魔術”の伝授を、冒険者ギルドの研究棟に新設された“従魔研”で1カ月の間、特別教官として勤める事になったのだった。


 その間に、クランで共同生活する宿舎の目途を立てて、その古い小城を、生活出来る様に改装工事をした。


 それが、クラン会議で“フェルゼン”と名付けられた小城の宿舎だった。


 クランの名前は『東方旅団』となった。中核となる『西風旅団』に合わせて、との事だ。


 クランの参加者には、村を襲撃された邪教徒に復讐を考えていた竜人と、その協力者のエルフとハイエルフのパーティーがあった。


 その邪教は、偶然にも他の復讐を画策する竜人に出会ったラザンとゼン達、『流水の一行』との共同作業で、邪教の壊滅はすでに達成されていた。


 それを教えられた竜人達は、その恩返しと村の復興資金を稼ぐ意味もあって、そのままクランに参加する事を約束してくれた。


 問題は、その気性の荒いハイエルフ、アルティエールが昔死なせてしまった子供に面影を重ねているのか、ゼンの事を気に入ってしまい、三番目の婚約者に名乗りを上げた事だった。


 丁度その時、冒険者ギルドで極秘に準備が進められていた、フェルズの上級冒険者に対して、洗脳紛いの妨害工作を長年進めていた、『人間弱体党』の殲滅作戦が進められていたのだが、ハイエルフの超感覚で、民衆に紛れ込んだ敵側の“草”(一般人に成りすました密偵)の存在が、全て感知出来たのだった。


 喉から手が出る程に必要とされる最重要な情報、その協力に対する見返りとして、ゼンは仕方なく“三番目”を約束したのだった。


 今のところ、婚約者として、サリサ、ザラ、アル。


 エルフで、ゼンに想いを寄せている、ハルア、エリン、カーチャ(ハーフエルフ)。


 獣人族で、ゼンに想いを寄せている、リーラン、ロナッファ。


 人間では、恐らくはファナ(未確定)。


 ゼンの従魔達の事は、とりあえず除外する。


 エルフの女性達は、クランの支援作業についてもらっている者が2名。カーチャはB級の冒険者でクラン参加者だ。全員同じ部屋でフェルゼンに住んでいる。


 獣人族の二人は、共に冒険者だが、ロナッファがA級、リーランがC級。共に、ゼンへの好意を明言し、クランにも参加する事になっている。


 ゼンは、彼女達、全員の顔を思い浮かべ、手酷く振る自分を思い浮かべてみる。


 ………気分が悪くなった。


 旅の途中でも、何度かあったのだが、もうそれなりに付き合いのある彼女達では、自分にとっての思い入れや、友情、親愛の様な物があって、それを自分で裏切る気持ちになったのだ。


 それに、すでに断られてもずっと待つ、と明言している者も数名いるのだ。


 全員を受け入れる、なんてあり得ないのに、冷たく振り払う勇気もない。


(俺は、こんなにも、優柔不断で欲張りだったのかな……?)


 出来るのなら、このままの友達のような関係で、穏やかにすごせたら、と思うのは、無理なのだろうか?


 ……多分、無理なのだろう。彼女達は、答えを求めている。


 ゼンは、いつもの様に、深く深く、自省しながら悩み、考える。


 それでも、連日の疲労が祟って、身体は睡眠を欲している。


 だから、少しづつ、睡魔の誘いに抗えず、意識は朦朧としていく。


 ゼンが最後に考えていたのは、もしも、もっと自分が上手く修行を出来て、少しでも今以上の強さを得ていたのなら、ここ数日の、一歩間違えれば、死、もしくは他に甚大な被害が及んだかもしれない状況が、もう少し好転していたのではないのか、という自責の念だった。


 そして、心ももっと強ければ、非情に徹して、全員を振り払うか、あるいは全員を受け入れる度量を持てる様になるか?


 ……考えている内に、何がなんだか分からなくなるのだった。






*******

オマケ



ブランク?で上手く書けてないです。現状。


幕間とか外伝も書くつもりですが、本編、外伝、いっぺんに上がる、とかは期待しないで下さい。


すみませぬ~。

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