婚約破棄された守護聖女はチョットだけ意地悪

克全

第1話:婚約破棄

「レイ辺境伯家令嬢ダイアナ、お前は私の婚約者と言う地位を利用して、逆らう事にできない下位貴族令嬢に無理難題を言って苦しめたな。

 私の名前を使っての非道許し難い、この場で婚約を解消する」


 やはりこうなりましたか。

 家の密偵達が調べていた通りですね。

 別に王太子と結婚したいわけではありません。

 貴族令嬢に生まれた者の責務として政略結婚に応じただけです。

 ただ、レイ辺境伯家の名誉だけは守らないといけませんね。


「ありもしない悪事をなすり付けるのは止めてくださいますか、王太子殿下。

 そのような卑劣卑怯な真似をしなくても、何時でも婚約は解消させてもらいます。

 ただし、正々堂々男らしく他の令嬢を妊娠させたからだと言えばです

 まあ、でも、王太子殿下には無理でしょうね。

 殿下が小心で卑怯なのは幼馴染の私が誰よりも知っていますから」


 私にズバリと真実を言われた王太子は真っ青になっています。

 レイ辺境伯家が魔獣の侵攻を防ぐことで百年の泰平を貪ったマッカイ王国です。

 平和ボケして密偵組織も役立たずになっています。

 レイ辺境伯家とは情報収集能力も謀略能力も桁が違ってしまっています。

 まあ、私も事を荒立てる気はありません。

 レイ辺境伯家の名誉さえ守れればいいのです。


「だ、だ、だ、だま、だまれ、だまれ、黙れ。

 多くの貴族がお前の悪業を証言している。

 言い逃れの嘘を言って誤魔化そうとしても無駄だ」


「王太子殿下が王位についた時に陞爵するからと、嘘の証言を約束したハミルトン男爵家令嬢と、ヘプバーン男爵家令嬢とスコット男爵家令嬢ですか。

 でも本当に陞爵する事ができるのですか。

 三家の男爵家には表だって何の功労もないのですよ。

 それに国王陛下がお元気ですから、何十年後に行われるか分からない陞爵ですよ。

 それとも国王陛下を誅し奉る気ですか。

 さすがにそんな事をしようとしたら父も許しませんよ。

 リタ嬢、ティナ嬢、ケリー嬢、急いで家に帰ってもう一度父親と話し合いなさい。

 本当に陞爵できるかどうかも分からない悪事に加担して、レイ辺境伯家と敵対する覚悟があるのですかとね」


「わ、わ、わた、わたくし、気分が悪くなってしまいました」


 私の視線を受けてハミルトン男爵家のリタ嬢が急いで舞踏会場を出て行きました。


「わたくしも急に気分が悪くなりました」

「わたくしも気分が悪いので失礼いたします」

 

 ヘプバーン男爵家のティナ嬢とスコット男爵家のケリー嬢も、リタ嬢の後を追うように舞踏会場から逃げ出しました。

 彼女達は私が反抗も反論もできずに黙って糾弾されると思っていたのでしょうね。

 確かに普段の私は何があっても怒らない大人しい令嬢を演じてきました。


 いえ、演ずるというよりは怒るのが面倒だったのです。

 でも、家臣領民が命懸けで大陸の平和を護り続けている、レイ辺境伯家の名誉を汚されるのだけは許せません。

 とても面倒ですが、言掛りで汚された名誉の分だけは怒らなければいけませんね。

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