第40話 二日酔い
「うー、頭いたい」
次の日の朝、エミリーは頭を抱えてベッドに座っていた。俺とクレアは既に外にでる準備を終えていたので、あとはエミリーを待つだけなのだが。
「ねー、今日はクエスト休みましょう? ほんと無理です。ごめんなさい」
そう言ってエミリーは再びベッドに横になってしまった。
「しょうがない。今日は休みにするか」
「駄目よ」
クレアは深刻な表情ではっきりと拒絶し、エミリーに尋ねた。
「エミリー、お金はあといくらある?」
それを聞いたエミリーは体を半分起こして、無言で自分の体をまさぐっている。やがて二日酔いで顔色の悪いエミリーがさらに血の気が引いたようになった。
そして無言で、持っているお金をベッドに並べた。
「え?」
俺は目を疑った。そこにはたったの五千ピア程度のお金しかなかった。
「やっぱり。昨日、夕食の支払いでエミリーからお金を探したら全然お金なかったから。やっぱりこれだけなのね」
ちょ、ちょっと待ってくれ。俺が装備とエミリーの飲み代の肩代わりで三十万。クレアの剣が百万、エミリーが三十万使ったとしても、まだまだお金はあるはずだ。もしや……
「エミリー、お金何に使った?」
「ごめんなさい。欲しい武器がなくて……新しい武器を鍛冶屋に頼んだら高くなっちゃった……」
申し訳なさそうに苦笑いを浮かべている。まぁ、百歩譲って武器は仕方ないだろう。クレアだって、百万の武器を買っている。これからBランクのクエストも受けるだろうし、良い武器を使うことは必要だろう。いつマンティコアのような魔物に出会すかも分からない。
でもやっぱり元貴族だな。クレアもエミリーも金の使い方が派手だ。いつか、俺が金庫番にならなければと本気で思った。
「ちなみにお金無いのに、どうやってみんなに奢るつもりだったんだ?」
「え? 何の話?」
昨日の記憶がないようだ。うん、酒もほどほどにしてもらおう。俺は昨日の食堂での出来事を事細か説明した。
「ほんとうに、ごめんなさい」
ベッドの上で土下座して謝るエミリーの姿がそこにあった。
「もう済んだことは仕方ないわ。でもこれで分かったでしょう。私達は早くも貧乏になってしまったから、今日クエストに行かないと宿にも泊まれないわ。休む暇なんてないのよ」
一番金を使ったクレアが一番偉そうだ。その通りなのだが……
「そうね。私も頭痛いとか言ってられないわね」
ベッドから立ち上がろうとするがフラフラだ。それにまだ酒臭い。
「エミリーは休んでて。今日は俺とクレアで行ってくるから。低いランクなら二人でも十分だし。今日、明日の生活費なら稼いでくるよ」
「そ、そう。ほんと悪いわね。確かにこんなんじゃ逆に足を引っ張っちゃうわね。じゃあお願いします」
再び倒れるようにベッドに横になって目を閉じて、か細い声で呟く。
「…………ほんとに、ごめん」
「気にしなくていいですよ。じゃあ行くか。今日中に最低一つはクエスト達成しないとな」
「そうね、急ぎましょう。今日は私も戦うから」
「怪我はもういいのか?」
「全く問題ないわ」
うーん、不安だ。戦いたがっているクレアが自ら治ってないとは言うまい。まぁ、ゴブリンレベルなら問題ないだろう。
「無理するなよ」
「ふん、あんたは自分の心配でもしなさいよ。もうセクハラ魔法は使わないでね」
「なっ!」
人の魔法に変な名前を付けないで欲しい。本当ににわざとじゃないんだ。
俺達はギルドでクエストの貼ってある掲示板を眺めていた。
「これにしましょう」
クレアは一枚の紙を指差した。
【ロックスネークの討伐】
クエストランク:A
報酬:300万ピア
概要:タニア砂漠に出没するロックスネークの討伐。砂漠のオアシス付近で出現を確認しております。体長は五メートルを越え危険な魔物です。飲み込みや巻き付け、毒に注意してください。
「だめ!」
「なんでよ! 今B級だからA級まで受けられるはずでしょ」
クレアは本気のようだ。何も考えてないな、こいつ。
「確かに受けることはできるけど、二人しかいないし、いきなりA級はまずいだろ。魔物の強さが分からない」
「何よ、弱気ね。大丈夫よ、私の剣があればドラゴンだって一刀両断よ」
すごい自信だな。確かに万全なクレアがいれば勝てるかもしれない。あくまでも万全ならだ。俺はまだクレアは完全に治っていないと思っている。それにこのクエストには大きな問題がある。
「それでも駄目だ。クレア、タニア砂漠ってどこにあるのか知ってるのか?」
「えっ……」
俺の質問にクレアは無言になる。やっぱり知らなかったか。クレアにはこの世界の常識や知識も教えていかないとな。
「タニア砂漠はここから馬車で三日はかかるぞ。それに砂漠だと色々準備もしないとだけど、俺達には金がない。だから無理だ」
「そ、そうなの。じゃあ無理ね。他を探すわ」
クレアは諦めたように肩を落として、再び掲示板に目を移す。その時、後ろから聞きなれない声、だが聞いたことがある小さな声をかけられた。
「これはどう?」
俺とクレアは、同時に後ろを振り返った。そこには昨日魔石を見てもらったシズがいた。
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