第36話 報酬
「さぁ、まずはギルドにいくわよ。なんせもうパンを買うお金だってないんだから」
エミリーが日が落ちてきた平民街を歩きながら悲しいことを言っている。元貴族が二人もいるパーティーがこんな貧乏になるなんて……
「早くいきましょう。お腹減ったし美味しいものが食べたいわ。それに装備も買わないと。私の剣、エミリーが折っちゃったし」
「ごめんね、クレア。達人だったらあんな剣でもうまく使うんだろうけど。剣は苦手だわ」
剣が苦手? 俺から見たら相当な腕前に見えたが……稽古つけてもらったときも手も足も出なかったし。気になってしょうがないので聞いてみた。
「エミリーの得意な武器って何?」
「えっ、な、ないしょかな……」
エミリーは口ごもり答えてはくれなかった。武器が内緒ってすごく気になる!
「えー、武器ぐらい別にいいじゃない。早く教えてよ」
クレアも気になったのか追撃を始めた。いいぞ、クレア!
「うーーー、わかったわよ。次、武器を買いにいくときはちゃんと得意な武器を買うから! それでいいでしょ」
若干やけになったようにエミリーは言い放った。
「しょうがないわね、楽しみにしてるわ。私はもちろん剣よ。大剣でもいいわよ」
聞いてもないのに、分かりきったことをクレアは自慢気に言っている。それ以外使うところ見たことないし。
「まっ、何にしろお金がないと何も買えないわ。早くいくわよ」
俺達は自然と早足でギルドに向かった。
ギルドに入りカウンターに向かうと、マスターのマーシャルが出迎えた。
「よう、新人ハンター。初クエストはどうだった?」
エミリーはしたり顔で、カウンターに黒い三つの魔石を並べる。
「この程度のクエスト朝飯前だわ」
「ほう、たしかにゴブリンの魔石だな。やるじゃないか。ではこれが報酬だ」
そう言って、マーシャルは魔石を受けとると、かわりに四万ピアをカウンターに置いた。
「あれ? 報酬は三万のはずじゃ……」
俺の記憶が正しければ、間違いなく三万だった。一人一万ずつだなっと思った記憶もある。
「三万はクエスト達成の報酬だ。それに加えて魔石の質によって上乗せされるのさ。今回の魔石はゴブリンにしてはなかなか良い物だからな」
マーシャルが説明してくれた。そういうシステムがあったのか。儲うけものだな。
「ねぇねぇ、エミリー。これ一体いくらになるのかしら」
クレアは地面に置いたマンティコアの魔石を指差している。
「そうね。楽しみは後にとっておくものだけど、そろそろ本命のおでましね」
エミリーが赤く輝く魔石を抱え、得意満面でカウンターに置く。
「さぁ、これも引き取って貰おうか」
「なっ!」
マーシャルはまるで雷に打たれたような顔で魔石を見る。
「こ、これは……まさか……いやいや、そんなはずはない。お前らこれ本物か?」
目の前にあるものが信じられないようだ。それはそうだろう。あの魔物は新人のハンターにどうにかできるものではない。俺達だって偶然あの魔法が使えなかったらどうなっていたか分からない。
「間違いなく本物よ。いくらでも調べるといいわ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。これが本物なら相当な魔物だったのは分かる。しかし、俺には見分けがつかん。専門家を呼んでくるから待っててくれ」
「早くしてよ。私達も忙しいんだから」
エミリーが強気だ。相当自信あるんだな。
「わ、わかってるよ」
マーシャルは慌てるように奥の部屋に入ると、一人の女の子を連れて戻ってきた。
「待たせたな。こいつはシズだ。すごい鑑定能力の持ち主でな。あらゆるものを見抜くんだ」
その女の子は十歳ほどに見える。銀色の髪を肩まで伸ばした可愛い娘だ。
「ねむい……ねる」
シズは突然目を瞑り立ったまま寝始めた。器用な娘だな……
「お、おい、シズ。起きろ! 仕事だよ! この魔石を見てくれ」
マーシャルがシズの両肩を掴み、激しく揺らしている。小さな体が壊れてしまいそうだ……シズはゆっくり目を開けた。
「仕事……がんばる……」
「よし、起きたな。どうだ? 本物か?」
シズは眠たそうに目を擦りながら、ジッと魔石を見ている。
「うん。本物。マンティコアの魔石。価値は二百万ピア。おやすみ」
シズは再び目を閉じて、立ったまま寝てしまった。でも今、価値は二百万ピアって言ったか? やった! これで貧乏からおさらばだ。
「やはり本物か……しかもマンティコア……お前ら何者だよ」
「今はただのF級ハンターよ」
クレアが腕を組み勝ち誇ったように答えた。
「はっはっは、そうだったな。しかしマンティコアを倒したとなれぱ話は別だ。たしかマンティコアは……」
マーシャルは図鑑のような分厚い本をペラペラ捲っていく。
「あった。マンティコアは8000ポイントだな。すると……一気にB級まで飛び級だな」
「そんなことありなんですか?」
「普通は簡単に死なれちゃ困るから一つ上のランクのクエストまでしか受けられないようにしているだけだ。まぁ、それでもお前たちのように力を示せばマスターの権限でこういったこともできるのさ。それと報酬の二百万だ。受けとれ」
見たこともない札束がカウンターに置かれた。お金の束が金塊のように輝いて見える。俺とクレアが札束に同時に手を伸ばすと、間から物凄いスピードでエミリーの手が飛んできた。
「子供にはまだこんな大金早いから、私が預かっておくわね。あとで一緒に買い物しましょ」
そう言って大金を懐にしまった。この人独り占めする気じゃないだろうな。クレアも疑いの眼差しを向けている。いや、エミリーに限ってそんなことするわけない。ほんとお金って人を駄目にするな……
そしてお金持ちになった俺達はギルドを後にした。
◆
レイン達がギルドを去った後、シズが静かに目を開く。
「あの人達、何者?」
「おぉ! 起きてたのかよ。俺も昨日会ったばかりだが、元貴族らしいぞ。なんで剥奪されたかは知らんが」
「そう。私も仲間にいれてもらおうかな」
シズはか細く小さな小さな声で呟いた。
「えっ? なんて言った? 仲間?」
「おやすみ」
シズは再び立ったまま目を閉じた。
「全く、仕方ねぇな」
マーシャルはシズを抱えて、奥の部屋に入っていった。
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