第34話 情けない
「今の魔法は何? すごい威力ね」
エミリーが俺の元に駆け寄り、疑問を投げかけてきた。しかし俺にもよく分からない……分かることは女の子の声が聞こえて、勝手に究極魔法が放たれた。しかも効果は絶大ながらも、味方を巻き込まないよう制御された俺の理想のような魔法だった。
聞こえた声の主を探そうと周りも見渡すも、やはり誰もいない。あの声はエミリーでもクレアでもない。もっと幼い子供のような声だった。
「いえ……俺にもよく分かりません……」
「魔法を使った本人がよく分かりませんってどういうことよ。ほんとバカになっちゃったの?」
避難していたクレアもゆっくり歩きながら戻ってきた。
「俺は上級魔法を使おうって思ってたんだ……でも女の子の声が聞こえて……それで勝手に究極魔法が俺の手から放たれたんだ」
俺は自分の身に起こったことを正直に話した。信じてもらえないかもしれないが、もしかしたらエミリーやクレアなら何か知っているかもと思ったからだ。
「女の子の声? 妄想癖まであったの?」
クレアは予想通り論外だった。
「究極魔法……女の子の声……」
エミリーは顎に手を当てて、節目がちにになり考えこんでいる。
「エミリー! 何か知ってるの?」
「……うーん。わかんない」
「え?」
「いや、どこかでそんな話聞いた気がしたんだけど忘れちゃった」
と言って、真っ赤な舌をペロッと出してくる。
エミリーが頼りだったが、仕方ない。まぁ今回は結果的に助かった。もしあのまま上級魔法を使っていたらエミリーにも被害与えていただろうし、最悪の場合それでも魔物を倒せなかったかもしれない。俺は心の中で『ありがとうございました』と感謝した。
『どういたしまして』
「あっ! 今の声! みんな聞こえたでしょ?」
二人の俺を見る目が冷たい……あぁ、これは可哀想な人を見る目だ。まさか俺にしか聞こえてないのか?
「レイン……頭にダメージを受けたのかしら……病院いく? バカにつける薬はないっていうけど」
クレアは心配しているのか馬鹿にしているのか分からない。いや、きっと後者だろうな。
「ま、まぁ、確かに今日は予期せぬ事もあって疲れたわね。無事クエストも達成できたし、今日も野宿は回避できそうね。それにあれを見て」
エミリーはそう言うとマンティコアが粉々に砕けた場所を指差した。そこにはリンゴほどの光り輝く赤い玉が転がっていた。
「あれは……魔石?」
「そうよ! 魔石は倒した魔物によって形や色や輝きが異なるのよ。それにクエスト外の魔石はギルドに買い取ってもらえるの。あれだけの魔石はそうそう出ないわ。とても良い値が付くんじゃないかしら。楽しみだわ」
エミリーはテンションが上がっている。あんな笑顔を見せるエミリーは知り合ってからまだ見たことがなかった。やっぱりお金って大事だよね。
俺はその魔石を持ち帰るため、両手でその魔石を持ち上げ……れない。
「何これ! 重い!」
俺は気合を入れ、腰を落とし、足の力を利用して持ち上げようとする……が、それでも持ち上がらない。どうしよう……このままではギルドに売ることすらできない。
すると、そんな俺も姿に見かねたのかエミリーが魔石に手をかける。
「よいしょっと」
そう言うと、一気にあのビクともしなかった魔石が持ち上がる。
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ。レインは魔物にとどめを刺してくれたからね。でも男の子だからもう少し筋力も鍛えなきゃね」
「はい……面目ないです」
重たいものを女性に持ってもらうなんて。情けない……
俺が落ち込んでいるとクレアがエミリーに話しかけていた。
「エミリー、私が持つわ。今回悔しいけど何の役にも立てなかった。せめて荷物持ちぐらいさせて」
クレアは魔石を受け取ろうと両手を伸ばす。その手は血で染まっていた。それを見てエミリーは少し悩んだようだがクレアの気持ちを察してか、魔石を受け渡した。
「ほんと……あなたも十分バカよ。重いから気を付けてね」
エミリーは優しく微笑んでいる。
「大丈夫よ。レインと違って、私は日々鍛えてるんですから」
そう言って、クレアは魔石を片手に抱えて持っていた。
「へぇ、さすがね。私より力持ちってなかなかいないのよ」
「ちょっと待て! さすがにおかしいだろ」
「おかしくないわよ。現にこうやって持ってるじゃない」
クレアは魔石をお手玉のようにひょいと上にあげて再び受け止める。
あの細い体のどこにあんな筋力があるというんだ。いやそれよりもこのままだと俺以外は女性というパーティーで一番力が無いということが明らかになってしまった。今日から筋トレ頑張ろう。
◆
全身を黒いローブで覆った男が森の奥から三人の様子を窺っていた。
「あのマンティコアをほとんど無傷で倒すとは……もう少し犠牲がでると思ったのだがな」
「久しぶりに見たけど、エミリーちゃんは苦戦してたよ?」
「……あんな装備じゃ仕方ないだろう。剣だしな」
「そっか。エミリーちゃん剣使うの苦手だったね」
黒いローブの男は確かに誰かと話しているが相手の姿は見えない。声は少年のようだが……
「それはそうと、レイン君だっけ? いいの? 彼、目覚めつつあるよ?」
「ふん! そうでないとおもしろくない。お前は自信ないのか?」
「ははっ、まさか。でも楽しみではあるね」
「確かにな……」
そういうと黒いローブの男は薄気味悪い笑みを浮かべ、全身に炎を纏って燃え尽きたように姿を消した。
◆
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