第30話 空耳?
「ところでその服いくらしたんだ?」
見た目はすごく高そうだ。今まで貴族で贅沢な生活を送ってきたクレアがちゃんと買い物できたのか心配になった。
「ん~たしか二十万ピアって言ってたかしら」
「ふぇ。に、にじゅうまん!」
あまりの金額に変な声をあげてしまった。クレアがさらっとおかしな事を言うからだ。俺達の所持金は全員で五万ピアも無いはずだ。いや、五千ピアの鉄の剣を三本購入し、俺の防具も合わせたら既に三万ピアを切っているはずだ。そんな経済状況の中こいつは二十万ピアという大金をどうやって支払ったのだろう。借金でもたのだろうか……
ちなみに今はエミリーがパーティーのお金をまとめて管理している。一番年長者ということもあるが、クレアは貴族生活でお金を節約して使うという事はできないし、俺はこの一か月元々エミリーさんに金銭的にお世話になっていた。そういう理由から金庫番がエミリーさんに誰も文句を言うことなく決まった。
「何よ変な声出して。頭までおかしくなったの?」
頭がおかしいのはお前じゃないのかと言いたかったが、堪えた。それを言うと必ずキツイ一発が返ってくることは簡単に想像できる。
「い、いや。どうやってそんな大金払ったのかなって……俺達には今お金ないから」
恐る、恐る、疑問を問いかけた。
「心配しないで。店員脅したりとかしてないから」
おいおい、さすがにそんな心配はしてないよ。
「店主がね、私の着ていた制服とこの防具を交換してくれたのよ」
クレアは体を左右に動かして、服をひらひらさせている。気に入っているようだ。しかしあの何の変哲もない制服が二十万ピアの価値もあるものなのか? もしかして店主にはそういう怪しい性癖があるんじゃないか。俺が店主に疑いの目を向けると、話を聞いていたのかエミリーが口を挟んできた。
「あの制服人気あるよのね。アイスライト学院は基本貴族しか入学できないからね。平民の金持ちの中には欲しがる人も多いのよ。見た目も可愛いしね。他の町ではコスプレ祭りもあったりするし」
へぇ、コスプレ祭りか。一度行ってみたいものだな。ちょっと待てよ。じゃあ俺の制服も売れるんじゃないのか?
じゃあそろそろ行きましょうか、と言うエミリーに少し待っててと伝え、店主の元に早足で向かう。
「あのぉ、この制服買い取って頂けませんか」
「おっ、買取ね。ちょっと待ってろ」
そう言うと店主はまじまじと俺の制服を値踏み始めた。
「うーん。全部で五千ピアだな」
「えっ? たったの?」
何故だ! クレアの制服には二十万の価値があったというのに……やっぱりこの店主の性癖なのか。再び俺が疑いの目を向けると、店主は何かを感じたのか理由を説明してくれた。
「あのなぁ、価値があるのは女性物だけなんだよ。お前は他の男が着た制服を着たいと思うか? 思わないだろう。その点女性はあまりそういうのはない。可愛いものは着てみたいと思うんだよ。まぁだいたい売れるのはコスプレ祭りの時がほとんどだが。その時にカップルが男性物を買っていくぐらいだな」
またコスプレ祭りか……しかし納得だ……誰が着たか分からない学校の制服を俺もわざわざ買ったりはしない。俺は店主から五千ピアを受け取り、エミリーとクレアの元に戻る。
「俺も制服売ってきたんですが、五千ピアにしかなりませんでした」
俺は五千ピアをエミリーに手渡す。
「あ、ありがとう。まぁ男性物は人気ないからね。言っておけばよかったね。それじゃあ装備も揃ったところだし、あとは食料や道具を集めて出発しましょう」
俺の気持ちを察してくれたのか、明るく振舞っている。
その後、念のために回復アイテムのポーションや食料を買い込んだ。そして俺は背中に大きなリュックを背負うことになった。正直、今の装備にこのリュックは合わない。折角かっこいいのに……まぁパーティーで男は俺一人だから荷物持ちは仕方ないだろう。
周りにいるハンター達を見渡しても、同じように大きな荷物を持っているハンターが多い。クエストの場所が遠かったり、期間が長かったりするとその分荷物も多くなる。パーティー全員が大荷物を持っているハンター達もいる。今後を考えるだけで頭が痛くなる。何とかならないかなぁ。
憂鬱になりながら前を歩くクレアとエミリーさんの後ろを溜息をつきながら歩いていると、
「……手伝ってあげようか?」
どこからか女の子の声が聞こえた。周りを見渡すが前を歩く二人以外女性は誰もいない。
「なぁ、今何か言った?」
「え? 私は何も言ってないよ」
「どうしたのレイン。ほんとうにバカになっちゃったの」
どうやら二人ではないようだ、空耳かな。俺はそれ以上気にすることなく、そのまま二人の後を付いて行った。
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