第28話 クエスト前夜
「おいおい、ちゃんと話聞いていたのか。お前さんたち魔物と戦ったことないんだろ」
マーシャルもさすがに心配しているが、そこにエミリーさんが割って入ってきた。
「私は騎士団の頃何度か魔物と戦ったことあるけど、この子達なら大丈夫よ。すごく強いから。たぶんFとかEランクなら楽勝じゃないかしら」
「そ、そうなのか? とても信じられんが……まぁ俺は一応止めたからな。何かあってもしらないからな」
「心配なんて無用よ。じゃあとりあえずクエストを選びましょう」
クレアは意気揚々とクエストの貼ってある掲示板へ向かっていった。それを見届けると首を横に振りながらマーシャルも奥の部屋に戻っていった。俺とエミリーさんはクレアの後を追った。
「どれにしようかしら……あっ、これなんかどう?」
クレアが一枚の紙を指す。
「どれどれ」
【エンシェントドラゴンの討伐】
クエストランク:S
報酬:三千万ピア
概要:グレナダ地方の洞窟に根城にしているエンシェントドラゴンの討伐。今は大人しくしていますが、いつ暴れだすか分かりません。Sランクハンターの方、是非討伐をお願いします。
注:このクエストはAランクハンター受注不可となります。
ばかばかばか! 本当にこいつマーシャルさんの話聞いてないな。いきなりSランクなんて受けれるわけないだろう。もしSランクだとしてもドラゴンとなんて戦いたくないし!
「クレア? 俺達まだFランクだからEランクまでしか受けれないよ。ちゃんと話聞いてた?」
「わ、わかってるわよ、そんなこと。冗談に決まってるじゃない。うん、これにするわ。これに決まり」
クレアは顔を少し赤らめて、焦るように一枚の紙を掲示板から剥がして、俺に手渡した。このやり取りを見てエミリーさんはクスクスと笑っていた。
【ゴブリンリーダーとゴブリンの討伐】
クエストランク:E
報酬:三万ピア
概要:ベラシーの森に出現したゴブリンリーダーの討伐。リーダーは三体のゴブリンを率いて森のボスに君臨しています。多くの動物や植物が犠牲になっているので討伐をお願いします。
俺がクエストの紙を眺めていたら横からエミリーさんが覗いてきた。急にかわいい顔が近くにきたので、驚いて心臓の鼓動が高まってしまった。いかん、いかん、俺にはクレアがいるのに。
「うーん、このクエストでいいんじゃないかしら。ゴブリンってよく聞く雑魚魔物だし。おそらく四体いるからEランクなのかな。ただベラシーかぁ……馬車で三時間はかかるわね。今から行くと野宿になっちゃう。まだテントとかもないし、今日は宿に泊まって、明日の朝から出発しましょうか」
ゴブリンは俺も聞いたことはある。確か子供ぐらいのサイズだが、力は普通の大人の人間よりもずっと強く、知能もあるが只それだけの魔物だ。特に魔法も使うことは無い。
エミリーさんの提案に俺達は断る理由はなかった。ハンターになった初日に野宿は嫌だったし、今日は色々あって疲れていた。せめてベッドのある部屋でゆっくり休みたい。
宿は平民街の中でも平均的な宿【やすらぎ亭】という所にした。もっと安い宿もあったのだが、さすがに女性を泊まらせるには躊躇するボロさだったので止めた。
エミリーさんが受付をしてくると言うので、俺達はロビー待っていた。クレアは既に眠りそうだ。しばらくすると
「お待たせ~。無事部屋取れたわよ」
と部屋の鍵を持って呼びに来た。
「ありがとうございます」
俺は礼を言って、鍵を受け取ろうと手を差し伸ばした。
「なに? この手は」
「何って……俺の部屋の鍵を受け取ろうかと……」
「ばかねぇ。みんな同じ部屋に決まってるでしょう。三部屋も取ったらもったいないじゃない」
「「え!!」」
ロビーの椅子に座ってほとんど寝ていたクレアも話を聞いていたのか飛び起きた。
「ちょっとまってよ。エミリーさんと一緒なのは分かるけど、なんでこのケダモノと一緒の部屋なのよ」
ケダモノって……ひどい……
「別にいいじゃない。節約は大事よ。それに本格的にハンターを始めることになったら野宿も当たり前になるわよ。一緒に寝れないとか言ってられないんだから。今日はその練習よ、諦めなさい。それにレイン君が何か事を起こす勇気があるようには見えないし」
エミリーさんは剃刀のように細く鋭い目をして俺を見る。うーん……本当に信用されてるのかなぁ。
クレアもエミリーさんの言葉に渋々納得して首をガクッと落とす。この状況を受け入れたようだ。
部屋に入ると、セミダブルのベットが一つとソファーが一つ置いてあった。清潔感があり中々いい部屋だ。ちゃんと寝巻も用意されていた。よかった……制服で寝ることは回避されたみたいだな。
「じゃあ、私たちはお風呂に行ってくるからレイン君も行ってらっしゃい」
エミリーさんとクレアは寝巻を持って部屋を出て行った。へぇ、風呂までついてるのか。早速行ってみるか。
宿の大浴場に入ると、先客が一人いるようだった。湯気でよく見えないが、長い青い髪を後ろで束ねた細見の若そうな男が湯船に浸かっていた。目が合ったので、軽く会釈すると若い男は声をかけてきた。
「やぁ、こんばんは」
「あっ、こんばんは」
挨拶を交わし、俺も若い男の向かい側に浸かった。いい湯だ。体の芯まで温まる。疲れが癒えていくようだ。あまりの気持ちよさに目を瞑ってゆったりしていると再び話しかけてきた。
「ここの湯は最高だろう。私はこの湯が好きで定期的に浸かりに来るくらいなんだ。まぁ最近は忙しすぎて半年ぶりになるんだけどね」
「は、はぁ。確かに気持ちいいです」
「そうか、そうか。ところで君はまだ十代に見えるけど、もしかしてハンターかい?」
「よくわかりましたね。まぁハンターと言っても今日なったばっかりですけどね」
「なるほどね……まぁ頑張りたまえ。君には魔法の才能があるようだ。彼女達も楽しんでいる」
「えっ? 彼女達って?」
何を言っているんだこの人は。しかし見ただけでハンターであることや、魔法の才能があることを言い当てた。いったい何者なんだ……
「まぁいい。それでは私は先に失礼するよ。君とはまたどこかで会えそうな気がするな。あんまり浸かりすぎてのぼせない様にね」
男はそう言うと俺に手を振りながら大浴場を後にした。
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