第26話 エミリーの提案
「ねぇ、場所間違ってないわよね」
「あぁ、ここで間違いないはずだ」
学校を退学になった俺達はとりあえずエミリーさんの家に帰ることにしたのだが……その家がない。ただの更地になっている。俺達は茫然とその場に立ち尽くしていた。
はじめは俺も場所を間違ったかなと思ったが、更地の隣にある緑色の豪邸、向かいにある噴水のある公園、何よりも一ヶ月であるが毎日通ったこの道。この更地がエミリーさんの家が建っていた場所であることは明らかだった。もしかしてエミリーさんも……嫌な予感がする。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
女性の叫び声が聞こえた。俺とクレアが振り返ると、そこには全身を震わせたエミリーさんが立っていた。俺達に気づくと勢いよく走ってきて、俺の両肩をがっしり掴んできた。
「ねぇ、何があったの。何があったら家が一日で更地になるの」
興奮が収まらず、俺の肩を揺すりながら聞いてくる。
「わかりませんよ。俺達も着いたばっかりで驚いてるんです。昨日はクレアの家が取り壊されましたし。それどころか学校も退学になっちゃいました」
それを聞くと、エミリーさんは何かに気づいたようにハッとして手を離す。
「まさか、ここまでやるなんてね。退学ってことはクレアさんも貴族を剥奪されたのかしら」
クレアは歯を食い縛り悔しさを表しながら答えた。
「はい。まぁ退学は別の理由なんですけど……えっ、私もってことはエミリーさんも貴族を?」
「えぇ。昨日王都へ呼ばれたのはその話よ。別に今さら貴族であることにこだわりはないけど、まさか財産まで取られるとはね」
「俺のせいだ……おそらく俺を庇った人間を処罰しているんだ。ごめん……」
もはや間違いないだろう。クレアは確かに貴族である父を失った。しかしだからといって、すぐに貴族を剥奪される事は聞いたことがないし、クレア自身も実力者だ。それ以上にエミリーさんには剥奪される理由はない。俺を裁判で庇ったこと以外は。
俺が申し訳なく肩を落としていると、背中に衝撃を受ける。クレアが手のひらで思い切り叩いてきたのだ。
「自惚れるんじゃないのよ。元々私が貴族だったのは父の力のおかげよ。だから父がいなくなったから貴族でなくなるのには納得してるわ。だから次は私の力で貴族になる。あんたが気にすることなんて何もないのよ」
人を食ったようなふてぶてしい顔でいい放ってきた。それを聞いていたエミリーさんも続いた。
「そうね、私も最近仕事サボりぎみだったしね。いつかこういう日が来るとは思ってたのよね。他の貴族とのお見合い話も断っちゃったし」
「でも……」
「でもじゃないわよ! ほんと女々しいんだから! 私が気にしなくていいって言ってるのが分らないの。分かったらそのコンニャクみたいな体をピシッと正しなさい」
クレアはクレアなりに俺を励ましてくれているのだろう。自分だって辛いはずなのに。
確かに落ち込んでいるだけでは何も始まらない。クレアだって前に進もうとしている。俺だけ置いて行かれるわけにはいかない。
「ねぇ、みんな。私に考えがあるの」
エミリーさんが新しいおもちゃを貰った子供のような顔で言った。
俺達はずっと立ち話をするのもなんなので、平民街にあるこじんまりとした喫茶店へ向かった。この町には貴族街の他に平民街があり、貴族以外の町民はほとんどがこの町で暮らしている。
「私こういう所にくるの初めてだわ」
クレアは案内されたテーブルに座ると、店内をキョロキョロ見渡してそう言った。確かにこの喫茶店は決して綺麗とは言えず、庶民的でおおよそ高級品といったものは飾っておらず、店員も老夫婦が営んでいるのか二人だけだった。
「ふふ、クレアさんも庶民的な暮らしに少しは慣れていかないとね。今は平民になるんだから」
それを聞いたクレアはどこか不満そうに口を尖らせている。
「それで、エミリーさん。さっき言ってた考えってなんですか?」
エミリーさんは真剣な顔をして、肘をテーブルにつき指を絡ませてその上に顎を付けて話し始めた。
「あなた達、今お金はどれくらいある?」
「えっ、俺は五千ピアくらいです」
「私も財産はほとんど燃えてしまったので二万ピアぐらいしか」
エミリーさんはうん、うんと頷きながら聞いている。
「ちなみに私は三万ピアよ。合計五万五千ピアね……私達は住む家も失い、貴族も剥奪されました。さて之からどうやって暮らしていきましょう」
「あっ……」
確かに家がないのは痛い。宿を借りるという手段はあるが平民街に泊まるとしても一部屋五千ピアはするだろう。他にも食事などもすれば一週間もすれば所持金は底をついてしまう。早急にお金を稼がないと……クレアを見ると平然としていた。恐らく、この危機的状況が理解できていないのだろう。今まで金の苦労とかしてなさそうだからな。
「ちなみにクレアさんは働いた事とか、得意な事とかある?」
クレアは決まりが悪い顔をしている。
「働いたことはない……です。得意な事は戦うことですかね」
これはしょうがないだろう。この国で貴族とは強くあることだ。敵対する相手を打ちのめすだけでお金が入ってくる。しかし貴族でない平民は皆細々と物を売ったり、芸を見せたり、貴族に雇われたりして日銭を稼いでいる。とてもクレアにはできそうにない。俺はたまらずエミリーさんに尋ねた。
「で、でもエミリーさんには考えがあるんですよね?」
「あるわ。私達三人にピッタリのお仕事が……それも稼ぎもいいお仕事がね。きっとクレアさんも大活躍できるわ」
エミリーさんがニヤリと笑った。
「その仕事ってまさか……」
俺は知っていた。クレアの能力を活かして活躍できるその仕事を。
「そう! ハンターよ!」
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