第15話 判決
「なっ、なぜ。あれほどの怪我を負ってもう目覚めただと。いやそれだけでなく立ち上がって自分で歩いているなんて」
今まで余裕で振る舞っていた貴族の男もさすがにクレアの登場には驚いていた。
「私をその辺の一般市民と同じにしないでくれるかしら。この程度の怪我で何日も寝ていられないわ」
クレアは歩いてきて俺の横に立つ。近くで見ると、体のあちこちに包帯が巻かれて、血が滲んでいるところもある。顔色も悪い。足も震えていて何とか立っているような状態に見える。
「お、おいクレア、ほんとに大丈夫なのか?」
「だから大丈夫だって言ってるでしょ。あんたは自分の心配でもしてなさい。それに私がいないと死刑になるんでしょ」
まさか俺の為に、怪我で立っていることでさえ辛い状態で来てくれたのか。
「ありがとう」
「ふん、お礼はこの裁判が終わってからにしなさい。もし生きてここを出ることができたらたっぷりしてもらうから」
「うん、わかった。でもほんとありがとう」
それでも俺はありがとうと言う言葉を伝えずにはいられなかった。
貴族の男がドンッと自分の机を拳で叩いた。
「クレア氏が来たからどうだっていうんだ。レインが犯人の仲間でないと言う証拠はあるのか」
さっきまで落ち着いて話していた男が感情的になっている。
それを聞いたクレアが口を開く。
「私が家に着いたときは、すでにボルタが帰ろうとしていたところだったわ。私が目の前に立つと、あいつは意外に早かったなと言って右手を出して私に向けた。やばいと思って剣を抜いて飛びかかったけど。そこで意識を失ったわ」
すると、貴族の男はニヤリと笑った。
「それではボルタとレインが仲間ではないという証拠にはならないな。裁判官、もういいだろう。判決を出したまえ、死刑とな」
確かに、あの時クレアの意識があって、俺と父さんの会話を聞いててくれたらチャンスがあったかもしれないけど。
「そうだな、では判決を」
「ちょっと待ちなさいよ」
裁判官の言葉をクレアが遮る。
「たしかに証拠はないわ。だから私とレインでボルタを捕まえてやるわよ。それなら文句ないでしょ。だから判決を出すのは待ちなさい」
クレアがめちゃくちゃなことを言い出した。
「なっ、そんなこと許されるわけないだろう。あんまりふざけたことを言うな。裁判は子供のお遊びじゃないんだぞ」
「ふざけているのはどっちかしら。私はフォントネル家当主クレア=フォントネルよ。父を失ったとはいえ、まだ貴族としての格を落とされたわけじゃないわ。いえ、フォントネル家はこれからも私が守っていく。だからあなたごときが私にそんな口を聞けるわけなんてないのよ」
「ぐっ」
貴族の男は何も言えなくなっていた。
「クレア=フォントネルよ、あなたに一つ聞きたい」
裁判官の一人が口を開いた。
「なんでしょうか」
「レインはあなたの父を殺害したボルタの息子だ。それにボルタはずっと召し使いとしてフォントネル家に尽くしてきたのだろう。それが裏切られた。レインがあなたを裏切らないと言いきれるのですか。レインを信じられるのですか」
裁判官はじっとクレアの目を見て問いかけた。
「はい、信じます。私はレインの全てを信じています。もしもレインがなにも言わず私に剣を向けたとしても、私はレインを信じその剣を受けましょう。例えその剣が私を殺すものだとしても、私の大切な何かを守る為の理由があると信じて」
クレアも真っ直ぐ裁判官の目を見て答える。
俺はその言葉を聞いた瞬間、涙が止まらなくなった。いくら拭ってもどんどん溢れてくる。クレアがそこまで俺のことを信じてくれているとは思ってもいなかった。
裁判官はその言葉を聞いて軽く頷いた。
「判決を言い渡す。ザワード氏殺害に関する罪により死刑とする」
「やっぱり……」
貴族の男もヨシッと言ってガッツポーズしている。
俺は判決を聞いて目を閉じた。クレアがこれだけやってくれても駄目ならしょうがない。でも最後にクレアに会えて良かった。クレアの声を聞けて良かった。
「ただし、クレア氏が生きている限り執行猶予とする。またボルタを捕らえる、もしくは殺害することにより無罪に切り替えるものとする」
「なんだと、そんなバカな」
ガッツポーズしていた手から力が抜け、座り込み頭を抱えている。
えっ、ということは俺はまだ生きられるのか。またクレアの隣を歩いてもいいのか。
判決を聞いて呆然としていたら、横から小さな声で
「よかった」
と聞こえ、クレアがその場に崩れるように倒れた。
「クレアァァァl」
俺がすぐさまクレアを抱き起こし呼びかける。するとエミリーが様子を見に来てくれた。
「大丈夫よ、寝てるだけだわ。判決を聞いて安心したのね」
クレアの顔をみると、少しだけ笑みを浮かべていた。その顔を見て俺は誓った。
何があってもクレアを守りぬこう。その為に俺は誰よりも強くなろう。俺のこれからの人生はクレアの為に生きていこうと。
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