第13話 クレアは無事なのか
「裁判のある日までおとなしくしておくんだな」
兵士により牢屋の中へ突き飛ばされた。両手を手錠で塞がれているのでろくに受け身をとれぬまま地面にぶつかった。しかし起き上がる気力もなかった。
なんでこんなことに。なんで牢屋にいるんだ? 俺はクレアを助けたかっただけなのに。あぁ、そうかクレアを助けられなかったから牢屋にいれられたのか。
兵士はいつまでも起き上がらない俺を見て、
「こいつ、なんか気味悪いな」
と言い残し牢屋の鍵を閉めどこかへ行ってしまった。
あぁ暗いし、静かだ。鉄格子から月が見える。今日はなんか疲れたな。全身も痛い。もう何も考えたくない。寝てしまおう。
………
「おい、起きろ。罪人のくせにゆっくり寝てんじゃねぇよ」
昨日の兵士の大きな声で目が覚めた。鉄格子からは外の光がさしていた。ゆっくり寝たおかげか昨日よりは体の痛みが消えていた。すこし頭もすっきりしていた。自暴自棄になっても何も変わらない。それにまだクレアは死んだと決まったわけじゃない。まずは安否を確かめなければ。
俺はゆっくりと立ち上がる。
兵士は昨日の俺と様子が違うので少し驚いたようだった。
「ふん面会だ。付いてこい」
そう言うと手錠から下がっている紐を引っ張り歩き出した。
「ここだ、入れ」
兵士に案内された部屋に入ると、机が一つと椅子が二つだけ置いてあった。他には何もない殺風景な部屋だ。
「座って待ってろ。もうすぐお前を弁護いてくれる者が来るはずだ」
俺はおとなしく指示に従う。兵士は部屋の扉を閉め鍵をかけた。
俺を弁護? 誰だろうか、見当もつかない。
三十分? 一時間? どれくらい待っているだろうか。何もない部屋でただ待つというのは辛いものがある。痺れをきらし中から大声で声を上げようとしたとき、ガチャと鍵があく音がした。そしてこんな場所に似つかわしくない綺麗な女性が中に入ってきた。
「はじめまして、君がレイン君ね。私はエミリー=ファニングよ。エミリーって呼んでいいわよ」
エミリーはまだ年は20歳前後といった感じでスタイルもよく、黒髪がサラサラで美しい。タイトなスカートに白いシャツを着ている。まさにお姉さんだ。
「はじめまして、レインといいます」
「よし、じゃあ自己紹介も済んだところで早速始めるわよ」
「ちょっと待ってください、聞きたいことがあります」
クレアのことを聞いておかないと取り調べどころじゃない。
「あぁ、クレア=フォントネルのこと?」
俺が言う前にエミリーさんは察していた。
「そ、そうです。大丈夫なんですか? 死んでないですよね?」
俺は椅子から立ち上がり前のめりで必死にエミリーに尋ねた。
「ちょっと落ち着きなさい。クレアさんは大丈夫よ。とは言っても怪我がひどくてまだ治療中だけど命に別状はないわ。三日もすれば目が覚めるでしょ」
よかった……クレアが生きてる。ほんとによかった。
全身から力が抜け、椅子に力なくストンと座る。
「ただクレアさんの父、ザワード=フォントネルは亡くなっていたわ。あの剣神ザワードがやられるなんて信じられないけれど。それに屋敷も半壊したわ」
そうか、やっぱり。クレアは目が覚めたらきっとショックを受けるだろうな。
俺が近くにいてやりたいが、父親を殺した男の息子が許せるだろうか。むしろ今は俺も仲間だと疑われ捕らえられている。くそっ、どうしたらいいんだ。
「やっぱりあなたはこの事件の犯人ではないようね」
俺の様子をじっと見ていたエミリーは確信したようにそう言った。
「え、なんで」
俺はまだ何も話してないのに。
「私ぐらいになると、見るだけで悪い奴かいい奴か分かるものよ。何も知らなかったんでしょ?」
「はい。事件の前の日、昔の剣を手入れしていたので少し気になったぐらいで。まさかこんなことを起こすなんて」
「なんかザワードのこと言ってなかった?」
ん? ザワード?
「たしかザワードさんがしてくれることはまやかしだとか、あいつのせいで俺はとか」
「やはりボルタの奴。やっぱりまだあの時のことを」
ん?ボルタ?
「エミリーさん、さっきからザワードさんや父さんのこと呼び捨てにしてますけど知り合いなんですか?」
「ん? あぁ、昔ザワードとボルタと私は同じ騎士団に所属していたからね。あなたが小さいときにも会っているのよ。だから今回弁護を引き受けたわけ」
ちょっと待って……父さんが騎士団してたの何年前だ?
「え? エミリーさん今おいくつなんですか?」
「レイン君、女性に年齢を聞いたらいけないよ」
騎士団に入れるのが最短で18歳だから、少なくとも30歳は越えてるな。
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