十七歩目 未知

 俺達はまたギルド方面へ向かい、シルヴァさんが手配してくれた大きめの馬車へと乗り込む。お礼だと言って、馬車の手配をしてくれた。何のお礼かは分からないけど。


 俺達は、ガタゴトと馬車に揺られ目的地へ向かう。進むにつれ、豊かな景色が視界に入る。街の中からでも、透き通った青色の海が一望できる程、広く鮮やかに広がっていた。道中では一面緑の森を通って自然を感じれた。のどかだなぁ。


「まだ着かぬのか?」

「もう少しだよ! リル」


 移動に飽きたリルがごねるのをシズクが止めている。リルの気持ち少し分かるな……。景色がいくら綺麗でも、変わり映えしないと退屈――そんな事を考えていると、大きな石が積み上げられた門が見える。

くぐると、ラグロクとは違い整えられていない道に簡素な造りの宿。街と言うか村じゃない?


「これが街なのか? 村との違いがあまりわからんのう」

「リルもそう思うか? でも栄えてる感じがして村っぽさが薄いけどな」

「雰囲気凄く好き! 落ち着くね~」


俺が心の中で思っていた事を、口に出したリル。それに共感する様に俺とシズクがリルに話しかける。

 そのまま話しつつも、魔物が出たという場所を聞き込む。気付けば街の端へ来ていた。ここが行き止まりと言わんばかりの大きな崖の下。

 そこには十匹を超えるボスゴリがこちらに向け威嚇していた。


「お前、末っ子か? 兄貴達デケェな」

「テメェの目にはあれが人間に見えんのか?」

「は? どう見てもゴリラだろ。何言ってんだよボスゴリ」

「翔吾はハンツがゴリラに見えてるんだと思うよ!」

「じゃろうな!」

「そうだろうな」


 ゴリラが人間か、ハンツがゴリラか。そんな会話を繰り広げつつ、各々武器を構え戦闘態勢に入る。シズクは杖を、リルは風を纏う。そして二人は後方支援の為後ろに下がる。

 ボスゴリ、ガンテツ、俺の前衛三人は、武器を構え勢い良くモンスターに向かっていく。


「許せ……ボスゴリ!」

「手加減せんぞ脳筋小僧」

「そのネタいつまで引っ張んだよぉ! つうか誰が脳筋だジジイ!」


 小ネタを引きずる俺たちに、ツッコミつつもモンスターを狩っていくボスゴリ。そして補足するように口を開く。


「あいつらはストーンコング、拳と胸部がヤベェくらいに硬いから気を付けろ!」

「もっと早く言えよ……」


 ストーンコングの胸部に密着した刀から伝わる衝撃で、腕を痺れさせながら返事する。超痛い。

 刀を素早く離す。距離を取り態勢を整える。シズクが身体強化の魔法を前衛にかけ、リルが暴風でストーンコングを浮かす。


「今じゃ! 翔吾!」

「おう!」


 落下地点へ移動し、首元へ目掛け刀を振り上げる。ストーンコングが地に転がる頃には息絶えていた。


「とりあえず一体だな」

「後は儂に任せておけ。刃こぼれした刀では厳しいだろ」


 最初の攻撃で刃こぼれしたのか。「帰ったら打ち直す」と付け足し、瞬く間に駆逐していく。


「おい! 俺何もできてねぇじゃねえか!」

「どーんまいっ!」


 俺は煽る様に笑顔でボスゴリを励ます。でもこれで終わりか? 呆気ないな。

 空はオレンジに色付いていて、腹の音が周りに響く。もういい時間だな。


「すっごい腹減った」

「小僧、ここで野営するか。側に海もある、食料の調達もしやすそうだぞ」

「そうだな端まで来たし、戻るのに時間かかりそうだしな」


 そう言い、念の為にとシルヴァさんに渡されたテントを二つ、設営していく。


「おいチビ! 武器構えろ!」


 急に緊迫した表情を見せるボスゴリ。周りを見渡すと、崖に刻まれた召喚の印から柄の短い斧、柄の長い斧の二本を持ったストーンコングが現れる。


「おいおい! ここにも召喚の印かよ」


 誰が何の為に……! いや、今はそんな事言ってる場合じゃないな。


「翔吾! ハンツ!」

「小僧共、大丈夫か」

「翔吾よ、こやつ大き過ぎぬか?」


 デカい上に武器を持ってやがる。タチが悪い。こんな奴も存在するのか。未知との遭遇……。

 

「やばいな。ボスゴリの五倍はデカい上に、刃こぼれした刀。分が悪いぞ」


 ストーンコングが長い斧を一振りする。前にいた俺とボスゴリが吹き飛ぶ。

 地面を蹴り、距離を詰め刀で腕へ斬りかかる。


「やば……刀折れた。ガンテツの刀でも折れたんだから、最初に貰った剣は無理だろうな」

「拳で戦えばいいだろぉ」

「無理があんだろ、てか剣は?」

「無くした」


 まじかこいつ。元々持ってたやつと、冒険者登録で貰った剣両方かよ。


「ねぇ翔吾! 聖剣使えば?」

「あ、そっか! リル!」

「承知した!」


 俺の前に神域を開くリル。手を入れ聖剣を取り出す。


「よし! やるか!」


 聖剣を上へ上げ、勢い良く下ろす。

 気付けば、斬撃がストーンコングの頬を掠めていた。まじか、気合入れるつもりで振ったのに。聖剣怖え。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る