十二歩目 加入
討伐を終えた俺達は、倒され浄化するように消えたモンスターから、バラバラと落ちた結晶を拾い集め、持ち帰る。この結晶は討伐証明になり、討伐報酬として、依頼達成報酬に追加される。
草木が広がる、大きな道を歩いていると俺たちへ向けた、いや、シズクへ向けた言葉が聞こえる。
「あれえ? 誰かと思えばシズクじゃないか?」
後ろから声を掛けてきた男は、派手な金色の鎧を装備している。手には派手な剣を見せびらかす様に持ち、わざとらしい笑顔を浮かべている。これ絶対勇者だろ。
仲間を引き連れている勇者。そしてそこにはボスゴリラがいた。どうして……。あいつは盗賊だろ?
「攻撃魔法が使えないくせに、パーティーを組んだのかい? そこの男の子、可哀想だね?」
「久しぶりだなぁガキ」
こいつら、あきらかに挑発して来てるな。こういう場合、挑発に乗って突っかかるのがテンプレなんだろうが、面倒事は避けたい。肩をすくめ、うつむくシズクの腕を引き、そのままシカトして前へ進む。
俺が大人な対応を見せ去ろうとした時、首元に、ひんやりとした感覚がする。目線を横にやると、勇者が聖剣を俺の首元に当ているのが分かる。「僕に歯向かうのかい?」などとほざいている。怖い。泣きたい。だが、ここでギャン泣きしたら舐められるだけだ、根性だせ!
「うるせえぞ、金ピカ鎧野郎。俺はお前みたいな、クズに使う時間なんて持ち合わせてない」
「聖剣に選ばれた僕を愚弄するのかい? いい度胸だね、叩き潰してあげるよ」
勇者は不敵に笑う。おいおい、俺の意見はガン無視ですか。せっかく頑張って啖呵切ったのに! この勇者いちいち腹立つな。
これはもう戦うしかないんだろ? ならこのクズ勇者の相手はシズクだろう。俺はボスゴリラを潰す。後の二人はリルを呼んで相手してもらうか。
「リル、状況把握出来るか?」
「もう把握しておるわ」
神域から、ガンテツと共に現れる。ガンテツも神域に出入りできるのか。まぁ神と同等に強いらしいからな。
「勇者さんよ、相手してやるが、お前の相手はシズクがする。俺はボスゴリラを潰す。て事でボスゴリラ、前出ろ」
「上等だあ」
舐められないよう、威勢よく振る舞う俺に、ボスゴリラも対抗するように威勢よく言うが、以前より鋭さがない気がする。勇者は失笑しながらも聖剣をシズクの方へ向け「いつでもおいで」なんて余裕を見せる。叩き潰されろ。
「リル!」
『分かっておるわ!』
「儂も加勢しよう」
「シズク!」
「うん! ありがとうね翔吾」
よし! 総力戦! リルもガンテツもいるし、最悪俺が負けても何とかなる! 勝つけどな。もう逃げないって決めてんだ。
あのモブっぽい仲間の人達、可哀想だな。獣の姿になったとき凄いびっくりしてたな。神獣族だし驚くよな。どんまい。勇者も驚いてたけど、ボスゴリラは二回目の遭遇だしそんなにだったな。
それぞれに距離を取り相手を見据え、攻撃に備える。
――俺はボスゴリラと向き合い言葉を投げかける。
「どうして盗賊のお前が勇者パーティーにいるんだ?」
「なりたくて盗賊になった訳じゃねぇんだ。自由に出来ればそれでいい。知名度のある勇者パーティーに入るチャンスがあったからそのチャンスにのっただけだぁ」
ボスゴリラの言葉にはどこか重みがあり、信念を感じ取れる。こいつにも何か事情がありそうだな。だがこいつはシズクを笑った。だから許さん。潰す。
同時に飛び出し、ボスゴリラの右拳が俺の頬に、俺の右拳がボスゴリラの頬にぶつかり、お互いがダメージを負い、軽く体が浮く。
「やるようになったじゃねぇか!」
「そう言うてめぇは大した事ないな? ただのゴリラか?」
「後悔させてやるぜガキ!」
ボスゴリラが剣を抜き、間合いを一気に詰め、力強く振り下ろす。それをガンテツが造った刀で受け止める。そして勢いを流し、左へと剣を払う。
体勢を崩したボスゴリラは、地面に倒れる。その隙を狙い、確実に距離を詰める。
「まだ、まだぁあ!!」
拳を地面へ突き立て、地鳴りを起こすボスゴリラ。ご本家のドラミングすげぇ。
揺れに体を取られている間に、ボスゴリラの剣は、俺の頬をかすめていた。じわじわと熱くなり、赤い血が頬を伝う。
「バテてるんじゃないか? 俺が楽にしてやるぞ、ボスゴリラ」
「舐めた事言ってんじゃねぇぞぉ! 地鳴りごときでひよってた雑魚が!」
そう言って大胆に切り込んでくるボスゴリラ。俺は反応が少し遅れ、不利になる。
だが、確実に仕留めたと確信したボスゴリラは動きが荒くなり、大きな隙が生まれる。
俺の勝ちが確定した。こんな時のための必殺奥義を、ガンテツから伝授されている。
後ろに飛び、距離を確保する。左足を後ろに下げ、鞘に刀を一度納め、柄に手を掛ける。俺の唯一の技――居合切り。
悟るように、斬られる覚悟をしたのだろう、剣を持つ腕の力を抜く。ボスゴリラはどこか悔しいような、清々しい様な、そんな表情を浮かべていた。
だが俺は刀から手を離し、右脚を軸に、下げていた左脚をボスゴリラの胴体にぶつける。
地面へ叩きつけられるように倒れたボスゴリラは、驚いたような声で問いかけてくる。
「なぜ……斬らなかった?」
「俺の目的は謝らせる事だ。殺す気はない。まぁ居合切りは試したかったけどな。お前急に力抜くんだもんなぁ」
今度モンスターに試そうと決めながら続けて言う。
「それにあんなクソパーティーに所属するくらい切羽詰まってんだろ? 何があるか知らんが根は良い奴なんじゃねぇの? お前」
「そんな事を俺に言うやつはお前くらいだ。以前お前らが森で話しているのを聞いた。二人とも苦労してるのを知って、謝りたかった」
ボスゴリラが聞いていたのか。リルの感知を撒くなんてなかなか凄いんじゃない?
「すまない! 言い訳にしかならないが俺は村を救いたくて盗賊をしていた。村を立て直す資金を集める為に」
懺悔するかの様に言葉を続ける。
「勇者パーティーに入れば汚ぇ事をしないで済むし、困っているやつを救えると思ったから入っただけだ。結局何も行動する事なく、弱者を痛めつける盗賊と変わらないほどクソだったけどな」
ボスゴリラが紡ぐ言葉にはたくさんの後悔を感じた。いいやつだったなボスゴリラ。村を救いたいって、こいつの村にモンスターが出たとかか?
なんにせよ何かのために泥をかぶれるこいつはすげー奴だ。俺は気に入った。
「ボスゴリラ、名前は?」
「ハンツだ。聞いてどうする」
「ハンツ、村を救えるならなんでもいいんだろ? 俺らのパーティーに来ないか? こっちには神獣族がいる、どこぞのクソパーティーより、ましだろ」
しばらく状況を理解しきれていないような表情を見せるハンツが、口を開く。
「ありがたい提案だが、シズクが拒むだろ……」
「拒まねぇだろ、シズクはそんなやつじゃないぞ?」
ボスゴリラもとい、ハンツを仲間に引き入れ、シズクが戦っている所へいく。
言わずもがなリルとガンテツは圧勝しているだろうし、面白みがないから放置する事にした。
「見ろよボスゴリ、あいつ半泣きだぞ?」
「元メンバーとして情けねぇ。ださすぎんだろ」
勇者の無様な負けっぷりに呆れる俺とボスゴリ。一拍置いて、ボスゴリが言葉を付け足す。
「おいこら、ボスゴリラを略すんじゃねぇよぉ」
いいじゃねぇか、なんて言いながらシズクと勇者の対決を見届ける。あだ名で呼んだ方がより早く馴染めるだろうしな。たぶん。
金ピカ勇者は俺の望み通りボコボコに叩き潰されていた。やったぜ!
シズクは手も足も出ない勇者に対し、躊躇なく拳を撃ち続ける。まさに修羅。シズクさんまじパネェ。
「ちょっ、ちょっと待って! 僕が悪かった! これ以上は――」
勇者の情けない命乞いは途中で遮られ呆気なく気絶させられる。
「シズク、おつかれさん」
「こんなやつにこき使われてたなんて思うと悲しくなるよ……って翔吾! う、うしろ……」
シズクはボスゴリを指さしおろおろしている。何この生き物、可愛い。
俺はボスゴリと一瞬目を合わせ悪ふざけをしてみる。
「なっ……なぜ、お前がここに……倒したはずだろ!?」
「甘かったな、ガキ!」
良かった。俺の悪ノリがボスゴリに通じてた。でもこの後どうしよう。何も考えてなかった。だがそんな悩みが吹き飛ぶ前に、ボスゴリが吹き飛んだ。それはもう、天高く。
「翔吾……から、離れろ!」
その言葉は既に2発目の拳が炸裂した後に放たれた。
「ストップ! ストップ! ごめんシズク、悪ノリしすぎた。ハンツは訳ありなんだよ、だから、俺たちのパーティーに加わってもらう」
言ってるうちに気付いたけど脈絡無さすぎだな。だけどシズクは、コロッと殺伐とした雰囲気を消し、明るい表情を見せる。
「ハンツって言うんだ! 殴ってごめんね? 翔吾が認めたなら、ほんとはいい人なんだね?」
ほらやっぱり拒まない。というか、シズクは察し良いし、適応力凄いよね。俺はボスゴリの方へ視線を送る。
「すまなかったシズク! こんな事で許してもらおうとは思ってない。お前の決意も何も知らずに……」
「いいよ、許す! これからは頼りにしてるよ!」
ボスゴリは呆気にとられたように、下げた頭を少し上げ、ぽかんとしている。そりゃこんな無垢な少女に輝く笑顔見せられたら、俺らみたいな腐敗したやつは浄化されるよね。
わかるぞボスゴリ。羨ましいぞボスゴリ。そこ変われボスゴリ。
さて、勇者パーティーどうするかな。このまま放置? ギルドに報告? 喧嘩売ってきたのこいつらだし報告しよう。
願わくば勇者の資格、剥奪されないかな。聖剣折れたりしないかな。そんな事を思っていると、後ろからリル達が歩いてくる。雑魚達を引きずって。
「この勇者、やはり大した事なかったのう! シズクよくやった!」
「リル! ガンテツさん! 二人の指導のおかげだよ!」
「それにしても貴様は甘いな、小僧。訳があれども、敵だったやつを仲間にするとは」
聞いていたのか? どこから? なんて疑問はない。多分神域。だから俺はそこには触れず、ガンテツに返事をする。
「そうか? まあ強いし、良いだろ? それよりこのアホ勇者、ギルドに報告するか?」
「そうだな構わんだろう! ハンツ! キビキビ役に立つがよい!」
「役に立つなら、儂も構わん。」
素っ気ないガンテツとは対照的に、リルはイタズラにボスゴリに笑いかける。ボスゴリは引きつった笑顔で感謝を伝えた。きっとリルに恐怖心を抱いてる。神獣族だしね。
「それで、ギルドに報告だったかのう? それは必要ないぞ。こやつらの一連の行動を、神域を通してギルドに映したからのう」
何この子、恐ろしい子……!
そんな話をし始めた時、前からぞろぞろと馬がこちらへ向かって走ってくる。俺達の目の前で止まり、馬から降りた女性が話す。
「報告を受けてギルドから参上致しました!」
「はやっ! 迅速ですね」
「ありがとうございます! それで勇者様は?」
「ここにおるぞ。我が縛っておいた」
リルも迅速ですね。この世界の女性、超有能じゃん。俺の立場ないなぁ……。
「早急な対処、感謝します。事情をお伺いしたいので、お手数だとは思いますが、明日ギルドへお越しいただけますか?」
「分かりました。伺います」
俺が返事をするとギルドの人達は、勇者一行を荷馬車へ詰め込み、ギルドへと帰還する。
あ、勇者が持ってた剣、忘れて行ってる。
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