第36話 事態急変
ファントムが出て行った作戦指令室では天音を筆頭にファントムが言った男に絞り過去の映像から本当に敵なのかの判断と監視が開始されていた。
男の過去の行動は展望室に入る前、展望室に来る前、どうやって来たのか等できる限りリアルタイムから遡り検証が行われていく。衛星に搭載された最新式の魔力感知器も宇宙から男の魔力反応を測定を開始しすぐに分析に入る。
そして作戦指令室に登録された魔術師リストから一致する魔力反応を見つける事が可能。魔術師リストは今までリベラ国が各国の監視で集めた世界中の魔術師のデータが載っており自国外の人間でも割と簡単にデータを得る事が可能だったりする。
「あの口調から何かを知っているのは間違いなさそうだが……逃がしたとは一体どういう意味なんだ……」
天音は部下と機械に一旦任せて一人ある事を考え始めた。
「あの日ファントム様は紅蓮に負け気を失い戦場から姿を一時的に消した。その間の記憶はないはず……となると紅蓮に倒される前の話しと言うわけか? だとすると気になる……」
そう。
もしそうなら後にリベラ国から逃げ出した八卦炉国の人間は紅蓮によって国ごと滅ぼされているのだから生き残っているわけがないのだ。
仮にそれでも生き残ったとしてもあの時気を失っていたファントムが知る事は不可能。可能性の話しをするならファントムに一度負けタイミングよく紅蓮とすれ違い生き残った者だと考えるのが自然な流れとも言える。
「そんな偶然が起きた……としてもアイツがもし本当にレベル六(原書)なら何故紅蓮はあの男を見過ごしたのかが気になる。そもそもファントム様と紅蓮の繋がりは一体なんだと言うのだ……。お二人共謎が多すぎる……」
そんなこんなで一人考え事をしていると、声が聞こえてきた。
それもかなり緊張している声だ。
「天音様!」
「どうした!?」
「間違いありません。あの男は先代皇帝陛下と繋がりがあり八卦炉国の客人として昔リベラ国によく来ていた重鎮のお一人です。名前は大久保、魔術師としてはレベル六(原書)で今は国際指名手配犯の一人です」
「そんな……間違いないのか?」
「は、はい。全ての観測機器がそう言っています」
言葉を失った天音。
たった一瞬見ただけで過去の面影が今ではないぐらいに変わり果てた中年の男が大久保だと見破ったファントムは一体何者なのだと、そう思わずにはいられなかった。
「ま、待て! そうなら検問をどうやって突破……あっ……そうゆうことか」
天音は重要な事に気付いた。
もし大久保が犯人で間違いないと言うなら五十嵐以外にも操られている者が権力者だけだと今まで思っていた。そこがもう間違いだった。検問兵等大久保にとって面倒な人間は全員操られていたと考えるべきだったと今さらながら気付いてしまった。魔法の対象者数はわからない。それなら尚更警戒はすべきだった。
「……となると、ファントム様はアイツの事を熟知していてアイツを見たと同時にこの事実にすぐ気付いたと言うのか」
なんとなくで呟いた言葉には妙な力があった。
違和感がない、むしろそれが正解。
そう思えるような言葉の力があったのだ。
「天音様!」
「今度はなんだ!?」
「大久保がこちらの動きに気付きました!」
「なに!?」
「展望室の強化ガラスを魔法で破壊して飛び降りると同時に逃走を開始。現在衛星で追っていますが路地裏等衛星の監視が厳しい場所を連続して通り抜けて……これは……地下です! このまま大久保は衛星監視を逃れる為に王都から各町に伸びる地下鉄を使い逃げると思われます! 衛星監視可能時間推定後三分。魔力反応でも今は追っていますが、向こうも全力ですので、地下に入ると同時に魔法を暴発されたら地下に魔力が充満してそっちで追うのも厳しいかと思われます!」
天音は急いでファントムの無線に連絡を入れた。
そして”やはり”と確信する。
この部下達の中に内通者がいるのだと。
でなければこの反応の早さはありえない。
もしファントムがこの事実に気付いていながら、無視していたと言うのだとしたら恐ろしいとしか言いようがない。
自分の何手先をもいつも読み、敵が作り上げた状況すら利用する戦略、これが優莉総隊長がファントム元総隊長を絶対に超えられない理由。そう、誰が何と言おうと、頭の回転がファントムは異常に速い。そして臨機応変に今まで数多くの修羅場を乗り越えてきた経験もある。そうなると天音は出し抜けてもファントムまでを出し抜くのは不可能なのだろう。
だとするならば、今大久保がやろうとしている事も全てファントムが意図的に作り上げた状況に踊らされているだけと言う事になるのではないだろうか。
ようやく、天音は気付いた。
ファントムがここを出て行く前に言った、
『仮に見つけてもこの人混みの中じゃ戦闘は厳しい。余計な被害を出さないと考えるならね』
その言葉の意味が。
「わざと報告させて敵自らを動かしたのか……」
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