第33話 心が与える力


 お茶を楽しんでいた優美が静かに手に持っていたティーカップをテーブルに置きゆっくりと立ち上がって魔力反応を隠すことなく突撃してくる者の方向に向かって立ち上がる。二つの眼が見る先にはまだ姿こそ見えないが確かに敵はいた。


 優美の手に握られた剣は光沢があり月明かりを反射し光輝く白い剣。

 剣は補助魔法を掛けられており攻撃力強化と耐久値強化も施されている。


 それに合わせて周囲の空気が重たくなる。

 優美にとっては初めての命懸けの戦場でもあり、大役でもある。



 ――。


 ――――。


 それを正しく理解しているからこそ。


 その手は……微かに震えてしまった。


「もしかして緊張してるの?」


 背後から聞こえてきた透き通った声についビクッと身体を震わせてしまう優美。


「最初は誰だって恐いわよ。でもね……それを乗り越えないとその先はないわ。優美は誰の為にその剣を握ったの?」


「それは……」


「これは私の勝手な予想だけど……ファントムの為じゃないの?」


「そ、それは――ッ!!!」


「ファントムに認めて欲しい、そう思ったんじゃないの。なら私の為じゃなくて構わない。今も作戦司令室でその時が来るのをのんびりと待っているであろうファントムに見せつけてやりなさい。優美の本当の力を。そして俺の目に狂いはなかったとその剣を持って証明してあげなさい!」


「かしこまりました」


「いい目になったわね。剣士として迷いのない目、そして身体もリラックスしてる。なら私は優美にこの場を任せてここにいるわ。せいぜい死なないように頑張りなさい」


「はい!」


 力強い返事をすると同時に敵――五十嵐を肉眼で捉えた優美は大きく剣を振り上げる。そのまま低空姿勢のまま突撃し、渾身の一撃を叩きこむ。


 ――キィーン!!!


 夜の王城に響く甲高い金属音。

 つい近くにいれば耳をふさいでしまいたくなるような音。


 その音は一度や二度ではなく。

 何度も何度も夜の王城に響き渡る。


 迷いがなく、心を穏やかにした優美は自分が思っていた以上に五十嵐と闘えている事に内心自分でも驚いていた。

 ただ迷いがなくなっただけ。

 それだけで人はここまで変われる、そう思っていた。


「来て! 魔力機関銃!」


 優美の得意な形。

 剣による近距離攻撃と魔力銃による遠距離攻撃の合わせ攻撃。

 優美の言葉に合わせて上空に魔力銃が二個出現する。魔力銃は毎秒二・五発と油断出来ない魔法の銃弾が五十嵐を狙いつつも、術者である優美を躱しながら襲い掛かっていく。魔力銃一つに付き毎秒二・五発なのでそれが二個で毎秒五発の魔法の銃弾が優美を後方から強力にバックアップしてくれる。


 女の子であるため純粋な力勝負では分が悪いと踏んだ優美は一撃決まれば勝てるような大ぶりな攻撃ではなく、一撃一撃はダメージが小さくとも確実に攻撃を当て次の動きに繋げやすい攻撃をしていく。


 五十嵐の洗練された足さばきに優美が同じく洗練された足さばきで対処していく。


 だけど、二人の決定打になったのは……。


 実戦経験。


 僅かにだが、優美がおされている。


「クッ――」


「ほぉー、この短期間でよくここまで強くなったな」


 嬉しそうに言うは五十嵐。


「それはありがとうございます」


「だが、まだ甘い!」


 余裕の笑みを浮かべた五十嵐が後方に大きくジャンプし優美から距離を取りながら、剣を持っていない左手を向けて、


「小嵐(ローテンペスト)!」


 小規模な嵐が出現し吹き荒れ狂う風が目に見える刃となり優美を襲う。

 人を傷つける凶器と変貌を遂げた嵐が優美とその後方直線状にいるアイリスを目掛け飛んでくる。

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