第24話 見えてきた真実


 ――十五分後。


「終わりましたよ」


 その言葉に優美が閉じていた目を開ける。


「そのままゆっくりと全身に魔力を流してみてください。それで異常がなければ治療は終わりになります」


 ファントムは優美から一歩離れ、その赤い瞳で優美の魔力の流れを確認する。


 優美は言われた通りにする。


 するとすぐにある事に気付く。

 魔力の流れが今までとは違うと。

 もっと言えば少し前のことなのに忘れていた感覚が戻ってきたことに。


「違和感はありますか?」


「い、いえ……ありがとうございます」


 涙を零し、深々と頭を下げる優美。

 もうなんと言ってお礼をすればいいかわからない。

 それぐらいに優美は嬉しかった。


「それは良かったです。では下着などをつけて貰って構いません。私は少し天音の所に行ってきますのでここでゆっくりとしていてください」


 ファントムはアイリスと優美に一度頭を下げてから、天音の元へと向かった。


「ばかね……ホント」


 アイリスは隣で着替える優美と背中を向けて歩いて行くファントムを見て誰にも聞こえない声で呟いた。



 ファントムは天音がいる作戦司令室へとやってきた。

 すると天音の部下がファントムの元へとやって来て、作戦司令室の奥へとある作戦会議室へと案内された。

 そこは魔法で防音処理が施された特別な部屋で本来重要作戦が話し合われる場所でもあった。


「お待ちしておりました」


「うん。また随分と重たい空気にしたね」


 ファントムは会議室奥へと座る天音に微笑みながら言った。

 そのまま対面となる席へと腰を下ろす。


「単刀直入にお伝えします。今回の一件今すぐに手を引いてください。五十嵐の目的は優美様だけではありません」


 その言葉にファントムの表情から笑みが消える。

 これは予想外過ぎた。

 そう思い、ファントムは冷静な状態で天音と語る事を心掛ける。


「女王陛下の命を破れと言いたいの?」


「……違います。五十嵐の目的は…………」


 唇を噛みしめる天音。

 これはなにかあるなと思い、ファントムは問い詰めるのではなく待つことにする。

 部屋の空気が重たくなる。


「半年前ファントム総隊長がお止めになった近隣諸国との戦争の火種となることです。優美様はこの国でもかなりの権力者と今後なる予定のお方です。白井家の財力や権力を考えれば当然でしょう。その優美様の危機となればアイリス女王陛下はかつて……いや今でも信頼されているファントム様を頼りにして助けを求めると五十嵐は考えたようです。実際そのように今なっております。そしてファントム様が再びアイリス女王陛下の近くにいる状態での戦争の火種になる事が五十嵐の目的です。五十嵐は当時副総隊長だった優莉様に認められなかった事を悔やんでいて、その報復として俺には力がある、国に対して影響力がある、だから……認めろと言うのが今回の五十嵐の目的です」


「ならもう優美様は狙われないってこと?」


 なんとなくでしか意味が分からないファントム。


「多分狙われます。正確には優美様もです」


「どうゆう意味? それと戦争の火種とこれがどう関係するの?」


「アイリス女王陛下を含めこの国の権力者が亡くなれば他国は放っては置かないでしょう。資源に恵まれ、物資にも恵まれ、この大陸で数少ない独立国でありながら、次期国王陛下は未だに未定……ここまで言えばファントム様ならお分かりいただけるかと」


 ファントムは嫌な予感がした。

 だけどここで聞かずして逃げるわけにはいかない。


「つまり、他国はこの国を狙っていて、生き残った権力者を偽りの王にして傀儡として操ると?」


「断定はできません。ですがその可能性は高いでしょう。もっと言えば……先代国王陛下と同じく五十嵐は……これはあくまで予測ですが五年前から操られているような気がします。過去十年のデータをあらって見たところ所々不思議な傾向がありましたので間違いないかと。家族とも五年ほど前に全ての縁を切っているようですし。もっと言えば助けを求めて悪を演じているようにも見えなくもないと言うのが私の見解です。五十嵐を上手く捕獲できれば真相解明不可能とまで言われた半年前の真相が見えてくるかもしれませんが相当難しいと思います。これはファントム様一個人でなく一国の問題として動くべき件だと私は判断しました。そしておそらく期限としては優莉総隊長がおらず防御が手薄となった明日までに傀儡となった五十嵐が動いてくるのかと思われます。相手の目的がファントム様に対する復讐劇でもあると考えればそれで辻褄が合いますので」


「なら一つだけ。なんでアイリス女王陛下ではなく、俺にこの事を先に話したの? 天音の立場ならこの事実に対して直接アイリス女王陛下に話しを持っていき相談もできた。なのにしなかった理由は?」


「…………」


 天音が黙った。

 きっとそれなりの理由があることぐらいファントムはわかっている。

 昔は上司と部下だったのだからこれくらい当然と言えば当然。

 そして天音もこうゆう場合後で事情を話せばファントムが決して怒らない事を知っている。

 なのにどうしてファントムにまず相談したのか。

 そこがファントムとして気になった。







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