決勝の敵
貴帆達は難なく決勝まで進んだ。模擬戦が1番苦労したと言えるだろう。
決勝の相手は貴帆達とそう変わらない年齢の4人。男が3人と、女が1人だ。審判がそれぞれの名前を紹介していく。
男のうち1人は剣を持ち、金髪にターバンをしたやんちゃで軟派な印象のリュート。1人は貴帆の身長ほどあるような巨大な斧を担ぎ、丸坊主で筋骨隆々なタド。もう1人は魔道書を抱え、黒髪に眼鏡といった真面目で爽やかな面持ちアズリバード。女は明らかに気が強そうな顔と、大きなリボン付きと縦巻きが強烈なメリア。実戦用と言うより装飾が目的のような、派手なレイピアを持っていた。
そして審判が静かに手を上げる。
「では決勝戦──はじめ!」
一段と大きな歓声が会場を満たし、戦いの火蓋が切って落とされた。
すると魔道士の格好をしたアズリバードが一歩進み出て両手を広げた。
「人には加護があり、それは風火水土の4つであることをご存知ですか?人間、召使い、勇者、魔法戦士……誰にでもです。火と水、風と土はそれぞれ対極。風は火の成長を助け、火は風を膨張させる。水は土を育み、土は水を浄化する。このように相関関係があるわけですが……」
唐突な演説に貴帆達は混乱する。撹乱の一種か、なんのつもりかさっぱりわからない。
黒髪眼鏡のアズリバードは少し間をあけて、貴帆達のことを真っ直ぐ見すえる。だが貴帆はそれに対し嫌な予感を覚える。自身の情報を見透かされているような、どこかで感じた視線だ。
アズリバードはふっと口角を上げて口を開いた。
「雨虹
アズリバードが雨虹へ手を向けた。
「火!」
すると雨虹が大きな炎で囲まれた。突然並べられた知識量に驚き、対応に戸惑っているうちに、まんまとはめられたのだ。雨虹が悔しそうに唇を噛む。下手に動いたら、体力が大幅に削られるだけだ。弱点なだけあって並大抵のダメージでは済まない。
その様子を満足げに見て、アズリバードはナオボルトに手を向ける。
「トレアキサンダー・ナオボルト。ウルイケ領1の実力を誇る勇者。パワー、体力、攻撃力に優れ大剣を振り抜かれれば立っていられる者はいないとか。加護は火。よって弱点は水です」
ナオボルトが大きな滝によって遮られた。その素早さに抵抗できず、また仲間が一人孤立していく。
貴帆はここで、ステータスチェックをされたのだと気づいた。以前ナオボルトを探している時に、受付嬢にされたのを思い出す。雨虹は道徳観念がどうとかいう話をしていたが、アズリバードには残念ながらそれはないようだった。
貴帆は少し後ろにいるレッタを見る。顔が青ざめて、何かを恐れている。いつも圧倒的な実力で貴帆達を支え、優秀で気丈な彼女がそんな顔をするのを見るのは初めてだった。そんなレッタの顔を見て、アズリバードが「ほお」と声をあげた。声の調子から楽しんでいることが伺える。
「あなたは……レッタと名乗っているのですね?いやぁ実に面白く興味深い」
その言い回しにかすかな疑問を覚える。
「ふざけないでちょうだい。そんな余裕ぶって、隙だらけよ!」
切り替えたレッタがそう言うが早いかアズリバードの懐に飛び込んでいく。だが脇からでてきた筋肉マン、タドにフィールドの端まで飛ばされた。鼻で笑いながら、アズリバードはレッタに向かってまた手を向ける。
「レッタ……謎多き美女とでも言っておきましょうか。領内指折りの魔法戦士。磨き上げた技、類を見ない戦法を駆使して華麗に勝利を収める。加護は風。よって弱点は土です!」
あっという間に壁際のレッタが岩石の向こうへ消えた。仲間と離され狼狽える貴帆を見て、アズリバードが意地悪く微笑む。
「さあ順に消えてもらいましょうか」
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