ツヴィリング
日陰に立つ細身の彼女は不思議な陰のある雰囲気を醸し出していていた。
鎖骨にかかる長さの豊かな黒髪は所々跳ねていて、前髪は無造作に分けられていた。それでいて長い睫毛が縁取る目は少し切れ長のアーモンド形で、その黒目には烈日が灯り耀いて見える。肌が生白くすっきりとした鼻と薄い唇が儚げではあるものの、よく見ると適度に引き締まった体つきのため脆弱な様子は感じられない。
主人であるタカホのツヴィリング、貴帆は顔こそ瓜二つだが、髪色や性別が違うためか主人とは少し違う印象を受けた。加えて薔薇の棘のように己を外部から遠ざけんばかりの、独特なそれがあるように思える。生まれた世界と生きてきた環境のせいだろうか。
雨虹は目の前の貴帆を観察しつつ、「ウルイケ領」行きの電車に乗るよう努めて爽やかに促した。
だが当たり前のように彼女は雨虹を不審な目で見つめてくる。
自分の身の振りが欠陥しているような視線を自ら注がれに行くとは──主人がこんな強引な手段を命じたため仕方無いが──いい気持ちはしない。
しかし貴帆の性格は注意力散漫なタカホとは反対に慎重なようで、日頃の苦労を思い返すと警戒を知ったその怪訝な視線に安堵すら覚えるのも事実である。
それはともかく、と雨虹は目の前の貴帆を見て次の一手を考える。どうにかこの不審者扱いを脱しなければならない。
見たところ貴帆は地に足がついていて、冷静な判断ができるくらいの理解力もありそうだ。
雨虹が笑顔を保ったまま頭を巡らせていると、同じように貴帆もあれこれ考え込んでいたのか、口を開いた。
「ツヴィリングってなんですか。それとあなたやあなたの主人がどこの何者なのか、私に分かるように説明してください」
随分と冷静な様子で、物怖じせずに雨虹を見上げていた。
この歳にしては落ち着いていて肝が座っている、と雨虹は内心感心する。それから笑顔を貼り付けたままゆっくりと頷いた。
「説明が不十分だったことをお詫び申し上げます。ではまずツヴィリングについてご説明致しましょう」
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