第106話 同居人
「アハハ。アリアちゃん面白すぎ」
夕食を食べ終えて、オオルバさんも帰った魔法店。すっかり寝巻き姿になった私とアリリアナはベッドの上で寛ぎながら、今日起こったことをお報告しあっていた。
「もう、笑い事じゃないよ。あの子ったら、初対面の、それも聖人にだよ? 試験官を渡して当たり前のように毛髪や血液を要求するんだもん。私すごく驚いたんだから」
「教会って言えばギルドに並ぶこの大陸最大の武力集団だもんね。そこの最高幹部に遠慮なく体の一部を要求するとか、その突き抜けた感じが逆にメッチャ格好いい感じなんだけど。ヤバ、私、アリアちゃんのファンになっちゃうかも」
「もう、何言ってるのよ。アリアの前で絶対そんなこと言わないでよ」
ただでさえ唯我独尊状態なのに、ファンが増えてこれ以上悪化したらどうなっちゃうんだろ。将来あの子が教会やギルドみたいに怒らせると怖い組織に喧嘩売るんじゃないかって、すごく心配。
「アハハ。言わない。言わない。それよりもさ、そのナンパな聖人さんは結局どうした感じなの?」
「喜んでと言ってその場で毛髪と血液を渡そうとするから、私が慌てて止めたんだけど……」
「けど?」
「アリアが拗ねちゃって。コーヒー飲むだけ飲んだらさっさと帰っちゃった。……はぁ、せっかくのお茶会だったのに全然話せなかったよ」
ゲルド王子のこととか、お父様のこととか、色々聞きたいことがあったのに。
「へ~。アリアちゃんでも拗ねるんだ。ちょっと意外かも」
「そんなことないよ。あの子は確かに表情とかには出ないし、普段は私でも何を考えてるかよく分からないんだけど、魔法に関することには、すっごく分かりやすい反応するから」
そう言えば小さい時はそれでよく喧嘩してたっけ。……痛い目を見るのは大抵私の方だったけど。
「なるほど。なるほど。でもまぁ、誘ったら来てくれるんだから、そんなに気にしなくてもいいんじゃない? また次誘えば良いだけなんだから」
「それは……うん。そうだよね」
子供の頃のようにとは行かなくても、このまま偶に会ってお茶をするくらいの距離感になれたらいいなって思う。
「アリアちゃんと上手くいってるのは分かったけど、もう一人の方とはどんな感じなわけ?」
「もう一人って?」
「決まってるじゃん。レオっちよ。レオっち。何か進展あった?」
「進展って、別に何もないけど」
「え~? 勉強という名目でしょっちゅう二人っきりになってる感じなんでしょ? 若い男女が密室で二人っきりな感じなわけよ? これで本当に何もないとか信じられないんだけど。嘘ついたら承知しないぞ、この、この~」
「きゃっ!? ちょっ、ちょっと、アハハ。もうやめてよ」
押し倒されるのはともかく、くすぐられるのには弱い。私はちょっと間、子供みたいにベッドの上を転がった。
「そ、そう言えば、この間言ってた件はどうなったの? ほら、イリーナさん達をクランに勧誘する件」
シャドーデビルを倒して、そろそろ二ヶ月。最初の一月が取材やら何やらで忙しかったせいで、せっかく冒険者になったのにまだ何のクエストも受けてない。でもこの頃はだいぶ収まってきたので、そろそろ冒険者として活動するのかなって思ってたんだけど、アリリアナが私とレオ君に提案したのはクエストではなくて、新たなメンバーの勧誘だった。
私の質問にアリリアナは得意げな笑みを浮かべた。
「オッケーだってさ。しかも意外なことに私がクランのリーダーで構わない感じみたい」
「そうなんだ。意外とその辺りこだわりのない人だったのかな」
冒険者試験を受けに行った時、たまたま出会ったイリーナさんは誰もが知る騎士の名門であるグラドール家の出身。そんな彼女を勧誘するのだから、クランのリーダーを誰が務めるかで一悶着起こることを想定してたんだけど、意外なことにそうはならなかったみたい。
「新人ながら早くも実績を出している注目のクランと、無名の新人クラン、それがくっついた場合、どちらのリーダーがリーダーをやるかなんて論ずるまでもありませんって感じのこと言ってた。正直私はどっちがリーダーやっても良かったんだけど、少なくともイリーナさんがドロシーパパさんみたいな家柄絶対主義じゃなかった点についてはラッキーって感じよね」
「アリリアナ、それ外で言っちゃダメだよ? 今はお父様、センカさんの上司でもあるんだから」
お城で大きな権力を握ったお父様。陰口なんかで報復をする人じゃないと思いたいけど、私達のせいでセンカさんに迷惑が及ぶ展開がないよう注意しなくちゃ。
「りょ~かい。それにしてもセンカの奴がまさかドロシーパパの部下になるとはね。メルルもこのまま行けばドロシーの義理の姉になりそうだし。いや~、人生何が起こるかわかんない感じだわ」
「何でそんなに私とレオ君をくっつけたがるの?」
「何? くっつきたくない感じなの?」
「それは、その……分かんないよ」
「とか言いつつ、実は~?」
ニヤニヤしながら肘で突っついてくるアリリアナ。何だろ、ちょっとだけイラッとしちゃう。
「もう、しつこい。私寝るから」
私は布団を頭から被ると、ベッドの上で体を丸めた。
「アハハ。ごめんってば。怒んないでよ」
「あっ、ちょっと! 自分のベッドがあるでしょ」
私の布団に侵入してきたアリリアナが、背後から手を回してくる。
「いいじゃん、いいじゃん。一緒に寝ようよ。ってか私まだ眠くないし、もっとお喋り付き合う感じでお願い~」
「もう。仕方ないんだから」
そうして私達はここ最近ずっとそうしているように、睡魔が勝つまで延々どうでもいいことを話し続けた。
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