24、見えない犯人
異世界探偵とかんなは一人一人事情聴取し、犯行が行える者を絞り込んだ。
事件の間、四両目にて食事をしていた者には犯行が不可能。そして三両目にいた王国兵にも犯行は不可能であった。それらの人物を省き、容疑者と思われる者は五名であった。
『・
能力なし
・夕暮可凛、女、探偵
能力なし
・阿妻兵蔵、男、探偵
能力なし
・加賀
能力なし
・冬園キララ、女、探偵
能力なし』
(異例の事態だ。どうしてこうも、皆無能力者だと言い張るのだろうか。確かに一人や二人無能力者がいてもおかしくはない。だが……ありえない)
異世界探偵は座り込み、頭を抱えていた。
この事件の犯人が誰なのか、そして犯行の方法は?
何一つとして分からない。既に行き詰まっていた。
「異世界探偵さん、大丈夫ですか?」
コタローは心配そうに異世界探偵を見ていた。だが頭を抱える異世界探偵にその声は届かない。
(情報が足りない。能力を使ったことは間違いない。だがこれでは誰が犯人なのか知る術がない……、まずい。さすがにこれは……)
その頃、列車内に乗っている探偵も動き始めていた。
事件ーーとなればこの世界で動くのは探偵であった。それもこの列車には今複数の探偵がいる。つまりこの状況は、犯人にとってはリスクを負っている状況であった。
だがしかし、その状況に陥っても尚、身分を犯人は平然と笑っていた。
(どれだけ探偵が集まろうと無駄さ。それにまだ事件は終わっていない)
その事件の犯人は次の事件の計画を水面下で進めていた。
もはや犯人には百通りもの計画があるかのように冷静な行動、だがあまりにも冷静すぎるあまり、列車に乗る誰もがその人物が犯人だとは気付いていない。
そしてその人物が動き出したと同時、探偵たちも事件解決へ動き出す。
「事件が起きたのはここか。それにしても、悲惨な光景だな。天井に貼り付けなんて、まるで見せしめのようじゃないか。まあ見せしめであることには違いないが」
そう言って現れた男ーー彼の名は義眼探偵。
彼は義眼である右目を見開き、天井に貼り付けになっている男を凝視する。
「なるほど。犯人は彼か……というより、これは犯人などいない、が正しいか。確かにこの能力ならば、天井に貼り付けになることは可能か。それにしても、これは少し理解不能だ。さすがに探偵である俺にも分からないな」
呟き製造機のように思ったことをポンポンと口に発する男と遺体の二人きりの八両目、そこへ待ったをかけるかのように一人の女性が現れる。
義眼探偵は振り向き、その女の顔を凝視する。その女を見るや、驚きを交えたような、そんな表情で彼を見ている。
「行動が早いな。だがバレてしまったんだ。とはいえ、どうしたものか」
「安心しろ。私はこれまで多くの人を殺してきた。そしてこの列車でも殺すつもりさ」
彼は殺し慣れているようにそう言い放ち、義眼探偵を獲物として視界に捉えていた。
義眼探偵は苦い笑みを見せる。
「探偵君、まさかとは思うが、君は視界に入った人物の過去を見れるのかい?」
「冥土の土産に教えてやる、そんな言葉、立場が逆だったら使えたのだが残念だ。まあ俺は自分の情報は一切吐かないから不安になれ」
「何を言うか。私は見ての通り用意周到でね、もしバレても逃げられるように多彩な武器を隠し持っているんだよ。まあバレることは百二十パーセントないけど。でもとりあえず、君を殺さなきゃ」
彼は腰の辺りへ手を移し、そして次に義眼探偵へ手を向けると彼の手にはハンドガンが握られていた。
義眼探偵は冷や汗を浮かべ、数歩後ろへと下がる。
「残念だったな。いくら下がってもここは一番後ろの車両の八両目、つまりはその先は地獄だ」
列車は現在真夜中の森の中を走行している、それに加え近くには民家などは何もない、ここら辺はただの森林が広がるのみ。もし列車から堕ちたとして、森から抜け出すのはカラスが鳴く瞬間を当てることくらい難しい。
気付けば外へ繋がる扉へ背をつけていた。ここまで追い込まれ、義眼探偵の顔から笑みは完全に消えた。
「どうせ死ぬな。これじゃ」
「最後に聞きたいことはあるか?」
「最後って……まあこれは死んだな。じゃあ聞いておくよ。どうして殺人を犯す?しかもこの列車の中で」
「さあ。私はスリルを味わいたかっただけさ。それに人を殺すということは楽しいだろ。とても愉快じゃないか」
「少し下品だな」
「仕方ないだろ。この世界には上品な人間なんて一人もいないんだから」
彼は引き金を引いた。飛び散る火薬とともに飛び出た鉛の弾丸、それは義眼探偵の額へ直撃した。それとともに扉は開き、義眼探偵は走る列車の外へと投げ出される。
鳴り響く銃声、その音に列車に乗る者たちは気付かないわけがない。
銃声を聞いた者たちは一斉に八両目へと駆け込む。一番についた夕暮可凛が見たのは、開いた扉と飛び散る血痕。それらは誰かが銃で撃たれ外へ投げ出されたことを意味していた。
夕暮可凛がその光景を見た後、加賀面影と阿妻兵蔵も八両目へとかけついた。
だがそこには夕暮可凛と天井に貼り付けられる遺体以外には誰もいない。
自ずと二人は直感的に悟った。
「「夕暮可凛、犯人はお前か」」
そこへ異世界探偵も駆けつけた。
夕暮可凛は自分が疑われていることに気付き、必死に弁解している最中であった。それを見た異世界探偵は、犯人は夕暮可凛なのだと錯覚した。
だが確信はない。
「二人とも、ここは私が事情聴取をします」
「だが、」
「俺たちは容疑者かもしれないけど」
「容疑者であるという疑心を持たれている以上、他者を追い詰めれば罪を擦り付けようとしていると思われる。だから私が調査をしなくてはいけない」
二人は何も言い返せず、その口を閉じた。
異世界探偵は二人を八両目の外へと追いやり、夕暮可凛と二人きり八両目で話をする。
「夕暮さん、あなたは一番最初にこの車両へ駆けつけてきたのですか?」
「はい」
「ではここへ来る際、すれ違った者は?」
「一人もいません」
「君は七両目にいたのかい?」
「八両目の調査をしようと扉の前に立った瞬間、銃声のような音が聞こえたんです。その音に驚いて八両目へ入ったのですが、遺体以外は何もなく、誰もいませんでした」
「そうか……」
犯人は私です。
夕暮可凛は薄々気付いていた。
どう足掻いても、この状況では自分が犯人と言っているようなものだと。
「なるほど。ではこれにて事情聴取は終了です。ありがとうございました」
夕暮可凛は重く暗い背中を異世界探偵へと向け、静かに八両目から去っていく。七両目へ戻っていく彼女の姿は、やけに悲しく辛そうであった。
異世界探偵は迷い、戸惑っていた。
「では犯人は……誰だ?」
ふと足元に何か落ちていることに気付いた異世界探偵は、その紙を手にした。その紙にはこう書かれていた。
『私はこの列車に乗っている』
異世界探偵はその文字列をにらめっこする。
そして気付いた。汗で紙がめくれていることに。
「まさか……」
異世界探偵は汗でめくれた部分から紙を剥がした。
『無名作家より』
そう書かれていた。
それで確信した。
汗でめくれる紙、それは紛れもなく無名作家の手法であった。
「まさかこの列車に……」
驚くほかない。
彼女は怠惰であるはずだ。それにこの列車は恐らく爆弾によって爆破する。というのに、どういうわけか彼女はこの列車に乗っている。
何かの暗号かとも思ったが、それ以外の意味はないようだ。
「まさか本当に乗っているのか!?だがなぜ?」
彼女の目的は何なのか。それは未だ謎のまま。
「異世界探偵さん、少しお話があるのですが」
そこへ、一人の女性は異世界探偵へと話しかけた。
白く透き通る髪、そしてお嬢様のような大人しそうな雰囲気、それと美しい瞳。
「冬園キララさんですね」
「はい」
「どうかされましたか?」
「いえ、少し気になったことがあるんです。話を聞いていただけますか?」
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