第794話 鬼神力の魔法
分析魔法に改造できる攻撃魔法を探すのも大変そうだ。俺はアリサに当てがあるのか確認した。
「そういう時は、マリオンが便利なのよ」
アリサは影からハムスター型シャドウパペットを出した。このマリオンは魔導知能を組み込んだ特別なシャドウパペットである。マリオンは魔法庁に登録されている魔法を全て記憶しているという。
テーブルの上にマリオンが跳び上がると、俺と千佳に対してペコリと頭を下げる。
「アリサ様、何か御用でしょうか?」
「攻撃魔法の中で構造が簡単なものを、三つ選んで?」
「それは『バレット』『ウォール』『アトラクト』です」
『バレット』は攻撃魔法の基本である。『ウォール』と『アトラクト』は記憶になかった。マリオンの説明によると、『ウォール』は魔力で作られた壁で『プロテクシールド』のような防御用の攻撃魔法で、『アトラクト』は魔力で遠くの物を掴み引き寄せるという魔法だそうだ。
『バレット』は魔力を弾丸の形に形成して加速して撃ち出す必要がある。分析魔法では魔力の塊を高速で動かす事はできない。『ウォール』は<堅固>という効能を使っているので分析魔法に改造するのは無理だろう。そして、『アトラクト』はゆっくりと魔力を動かしているだけなので分析魔法に改造できる可能性が高い。
アリサがアレンジシステムを使うには、改造する基になる魔法を習得している必要がある。アリサの攻撃魔法の才能は『E』、簡単な攻撃魔法を習得して分析していた。
その中には『バレット』と『アトラクト』があった。この二つは魔法レベルが『1』で習得できるので、習得して分析魔法で構造を分析したのだ。
「まずは『バレット』を分析魔法に改造できるか、やってみよう」
俺が提案すると、アリサがアレンジシステムを立ち上げた。
「では、『バレット』の魔法を読み込みます」
アリサは習得している『バレット』をアレンジシステムに読み込み展開した。その状態で魔法の仕組みをチェックし、そのまま識別記号を攻撃魔法から分析魔法へ変えようとした。
「ダメ、識別記号を分析魔法に変えられないみたい」
アレンジシステムが識別記号を分析魔法へ変える事を拒否したらしい。
「それじゃあ、『バレット』を改造しよう。魔力弾を加速する処理を削除してみよう」
「それだと、攻撃魔法とは言えなくなりませんか?」
千佳が指摘した。千佳が言いたい事は分かる。だが、魔力弾を加速し撃ち出す処理の中に、攻撃魔法独特の構造があるのだ。攻撃魔法は消費する魔力量や流し込むスピードで威力が変わる構造を持っている。それが攻撃魔法の特徴なのだが、分析魔法にはないものなのだ。
アリサが俺が言った通り改造する。
「次はもう一度識別記号を分析魔法へ変えてみよう」
アリサが目を閉じて集中した。
「あっ」
「どうした?」
「識別記号を分析魔法に変える事ができたみたい」
攻撃魔法や分析魔法などの各魔法は、それぞれで可能な事と不可能な事があり、識別記号を変更する時に不可能な事が魔法の中に含まれていないかチェックするようだ。
その点で言えば、生活魔法はできる事が多いので様々な分野で役立つ魔法が創れそうだ。
「それじゃあ、完成した魔法を試してみましょう」
俺たちは地下練習場へ行き、『バレット』を改造した魔法を試してみた。アリサが発動した魔法は、魔力を銃弾の形に形成すると、的を目掛けて放った。だが、その速度は遅くひょろひょろと飛んで的にペチッと当たって消えた。
それを見た千佳が大きな溜息を漏らした。
「もはや攻撃魔法ではないですね」
『アトラクト』も分析魔法に改造してみた。ほとんど改造する事なく、分析魔法に変更できた。だが、元々物を引き寄せるだけの魔法だったので、魔物を倒すためには役立ちそうにない。もしかすると、敵の武器を奪い取る手段として使えるかもしれないが、よほど魔物が油断していないと無理だろう。
鬼神力を使った新しい魔法を、全魔法使いが使えるものにしようと話し合った。この試みでは、最初に俺が生活魔法を創り、それをアリサが分析魔法や付与魔法などに識別記号を変更するという手順で行う。俺は全ての魔法で使えるような魔法を創らなければならないのだ。
「グリム先生、鬼神力を使った生活魔法を創れますか?」
千佳が尋ねた。
「その前に『練凝』の躬業を使わないで、魔力凝縮ができるようにならないと鬼神力を使えない」
「分かりました。先生とアリサに『鬼神力鍛錬法』を教えます」
「いいのか?」
「グリム先生には、元々教えるつもりでしたから」
俺から様々な事を学んだ千佳は、少しでも恩返しができれば、と考えていたようだ。
俺とアリサは『鬼神力鍛錬法』を学び、毎日鍛錬して魔力を鬼神力と呼べるほどにまで凝縮する。俺は割りと早く『鬼神力鍛錬法』をマスターした。
体内で魔力を循環させながら、『鬼神力鍛錬法』のやり方で魔力に圧力を掛けて凝縮して鬼神力に変える。但し、『鬼神力鍛錬法』で魔力を凝縮できるのは六十倍までだ。それでも鬼神力のパワーを感じた。神威エナジーは次元が違うパワーなので及ばないが、励起魔力に比べると強力だった。
俺とアリサ、千佳の三人で鬼神力を使った魔法をどういうものにするか話し合った。鬼神力は高圧電流のような危険なパワーで、鬼神力を作り出した本人以外が触るとダメージを与えるようだ。
丸太に向かって鬼神力を放って試す事になり、俺たちは地下練習場へ向かった。丸太の前に立った千佳が、鬼神力を指先から丸太に向かって放つ。その勢いを説明するのは難しいが、これが水だったら五メートルほど飛んで地面に落ちるだろうというくらいの勢いがあった。
鬼神力が丸太に当たった瞬間、バチバチッという音がして丸太の表面が弾けて木くずが宙に舞う。しかし、すぐに鬼神力が尽きた。大量に鬼神力を作り出す事はできないのだ。
丸太に近付いて状態を調べてみる。丸太に幅五センチほどの削り取ったような溝が出来ていた。
「何も加工しない鬼神力で、この威力か。凄いな」
アリサが丸太を見て千佳の肩に手を置いた。
「魔法なんて要らないんじゃない」
「これを戦闘中に行うのは、無理な気がする」
千佳が正直に答えた。鬼神力を作り出す事は慣れればできるようになるが、鬼神力を勢いを付けて撃ち出すのが難しいようだ。
「その辺をサポートする魔法にしたらいいのかな」
俺はなんとなく魔法をイメージした。生活魔法はD粒子を操作したり変化させたりする事をメインとする魔法である。例外は片手で数えるくらいしかないはずだ。
今回は魔力操作だけを行う魔法を創ろうと考えている。やり方は簡単で、魔力で風船のようなものを作って鬼神力を溜め込み、その溜めた鬼神力に魔力で圧力を掛けて一ヵ所から噴き出すという方法だ。これなら魔力を加速する機能を持たない分析魔法でも実行できる。
問題はこれをどれだけ素早く実行できるかだ。
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