第773話 樹海ダンジョンの十七層

 ツリードラゴンは多数のつるをうねうねと波打たせ、近付く俺を警戒しているようだ。この魔物の大きさは二十メートルを少し超えるほどで、地面を覆い隠すほど多数の蔓には毒の棘がある。


 何も考えずに近付いたら、蔓で打たれて骨が砕けると同時に毒の棘が致命的な毒を注ぎ込むだろう。俺は多機能防護服のスイッチを入れてから、『マナバリア』を発動してD粒子マナコアを腰に巻いた。


『エルモアを出しましょうか?』

 メティスが提案した。

「そうだな。但し、俺が危険になるまで手を出さないでくれ」

『分かりました』


 エルモアが影から出てきた。俺は構えた神剣グラムに魔力を流し込み、ツリードラゴンの幹に向かって振り下ろす。神剣の刀身から超重力の刃であるダークブレードが飛び出してツリードラゴンへ飛翔した。


 それに気付いたツリードラゴンが数本の蔓を伸ばして盾にする。その盾にダークブレードが命中して引き裂いた。そのまま飛翔したダークブレードは、ツリードラゴンの幹に命中して細胞を引き剥がして超重力で握り潰す。その結果、ツリードラゴンの幹に深い傷が刻まれた。


 ただツリードラゴンはタフだった。人間なら死んでいるほどの傷でも弱っている様子はない。それどころか、俺に向かって蔓を伸ばして来る。


 向かって来る蔓を睨んで『ニーズヘッグソード』を発動し、拡張振動ブレードで蔓を切断した。だが、すぐに別の蔓が伸びて来る。


 俺は神剣グラムに魔力を注ぎ込み、嵐の日の海をイメージしながら神剣グラムの切っ先をツリードラゴンへ向ける。その瞬間、周囲の空気が集まり始め嵐のような強烈な風が吹き始める。すると、その風の中に多数のテニスボールほどの歪んだ空間が生じた。


 高重力場が歪んだ球状空間を発生させたのだ。それはグラビティスフィアと呼ばれるもので凄まじい破壊力を秘めており、それが横殴りの雨のようにツリードラゴンへ降り注いだ。神剣グラムに組み込まれている【グラビティストーム】という技である。


 ツリードラゴンの幹や蔓に命中したグラビティスフィアは、バレーボールほどの穴を開けた。それが大量に命中したツリードラゴンは穴だらけになり、自分の身体を支える事もできなくなって崩れるように地面に倒れた。


 倒れた直後は、蔓が弱々しく動いていた。だが、それも動かなくなると光の粒となって消えた。俺は影からシャドウパペットたちを出してドロップ品を探すように指示した。


 最近出番がなかったタア坊やハクロ、ネレウスが頑張って探し始める。小熊型シャドウパペットのタア坊や飛竜型シャドウパペットのハクロは屋敷やグリーン館で遊んでいる事が多くなっていた。


 タア坊やハクロは若い冒険者たちの間で人気で、可愛がられているようだ。そのタア坊が巻物を持って戻ってきた。その巻物を受け取った俺は、マルチ鑑定ゴーグルで調べてみる。


 巻物は『フライングアックス』という魔装魔法の巻物だと分かった。

『魔装魔法なのに攻撃を飛ばすのですか。珍しいですね』

「そうだな。確かエミリアンが研究していたはずだから、彼に売ろうかな」


 次に白魔石<大>が見付かり、続いてモノクル型の魔道具が発見された。

「また鑑定モノクルか?」

 俺はマルチ鑑定ゴーグルで調べてみた。すると、『鉱物鑑定モノクル』と表示される。これは鉱石などを鑑定する魔道具のようだ。


 通常の鑑定だと『何とかの鉱石』という感じで結果が表示されるだけだが、この鉱物鑑定モノクルを使うとその鉱石に含まれている各成分がパーセンテージで示されるようだ。ダンジョンはもちろん、地上でも使えそうだ。


 他にないか『マジックストーン』で確かめてみたが、これだけのようだ。

「それじゃあ、『才能の実』を確かめようかな」

 俺はタア坊たちを影に戻すと、エルモアだけを連れて中ボス部屋の奥に向かう。通路を通って小部屋に入ると、才能の木が生えており、小さな実がいくつも生っている。


 だが、ほとんどは熟していない白い実である。ただ一個だけ鮮やかな赤色をしている実がある。攻撃魔法の実だ。俺は丁寧に採取して容器に入れてからマジックポーチに収納した。


『その攻撃魔法の才能の実は、どうするのですか?』

「そうだな……俺が食べても攻撃魔法のランクが『F』から『E』に上がるだけだしな」

 攻撃魔法の才能があるバタリオンのメンバーとなると、由香里と姫川が頭に浮かんだ。他にも亜美や根津も才能があるのだが、ほとんど修業していない。


『由香里さんは、生命魔法を伸ばそうとしているようですので、姫川さんに渡したらどうでしょう』

「そうだな」


 俺たちは転送ルームに引き返し、十層の中ボス部屋に行った。だが、残念な事に他の誰かが悪魔の王子を倒した後だった。


「はあっ、『限界突破の実』はダメだったか」

『では、十五層のジャバウォックが復活したか確かめましょう』

 俺たちは転送ゲートで十五層へ移動し、転送ルームから外に出ると濃霧により真っ白になった世界が広がっていた。


「相変わらず真っ白なんだな」

 以前は霧が晴れるのを待ってから中ボス部屋を探していた。だが、D粒子センサーのレベルが上った今なら、見えない状態でも中ボス部屋へ行くくらいなら大丈夫だと判断する。


 やってみると意外と簡単だった。中ボス部屋を探して中に入ると、ガランとした空間だけが目に入る。入る前から気配で分かっていた。


『まだ復活していないようですね』

「ジャバウォックはネームドドラゴンだ。復活にも時間が掛るんだろう」

 俺はこの中ボス部屋で野営する事にした。

『ここから下へと探索していくのですね?』

「そうだ」


 翌朝早くから下へ向かった。十六層に下りて階段を探しながら荒野を歩き回る。ここではビッグピルバグやデザートウルフ、トロールなどと遭遇した。


 それらを瞬殺して階段を見付けると、それを下りた。十七層は海だった。島がポツポツと見えるが、広大な海が広がっている。その海を見ていた時、黒いものが海面から飛び上がり、盛大な水飛沫を上げながら海に落下した。


『ブラックサーペントですね』

「シーサーペントの上位種か。確か詳しい情報はなかったはずだ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る