第575話 イタリア警察と組織

 邪神に接触した組織というのは、イタリア警察の調査で『ディオメルバ』と呼ばれていると分かった。しかもディオメルバは、パルミロと関係があると判明したのである。


 それを聞いた俺は、半邪神となったパルミロを思い出した。その組織がパルミロに命令を出していたのだろうか? その組織の目的は何なのだろう?


 まだ分からない事だらけだが、一つ分かった事がある。イタリア警察の調べで、組織の者がイタリアのピサダンジョンへ頻繁に潜っていた事を突き止めたのである。


 イタリア警察はディオメルバの下っ端を逮捕したが、それ以外は取り逃がしたようだ。


『ディオメルバの目的が分かれば、対策も立てられるのですが』

 メティスの言葉に頷いた。

「そうだけど、逮捕した下っ端からじゃ、大した情報は引き出せないかも……それに、もしかすると洗脳されている可能性がある」


『そうですね。洗脳は錬金丹を使えば解除できますが、副作用で記憶が失われると証言も取れません』


 一年以上昔の事なら喋らせる事はできるだろうが、重要な事を知っているとは思えない。賢者でありA級、つまりS級冒険者の俺でもイタリア警察に介入できないので、任せるしかない。


 しばらくして『ホーリープッシュ』と『ホーリーブリット』が販売されるようになると、賢者柊木の名声が上がった。そして、賢者柊木とはどういう人物かという疑問が呟かれるようになり、俺が賢者ではないのかという声も上がる。


 だが、それを打ち消したのは、邪神眷属の対策会議に出席した各国の代表たちである。あの時は東郷平八郎に変装していたのだが、それを賢者柊木だと思い込んだ代表たちは、顔が違うし年齢も違うと断言したのである。


 御蔭で賢者柊木とグリム先生は、別人だと言われるようになった。


 賢者坂下の資料を調べたが、付与魔法に関する発見以外はなかった。天音はいくつかの発見を得て、大喜びしているようだ。


 俺は邪神に備えて鍛錬を始めた。特に『霊魂鍛練法』と神威月輪観の瞑想を中心に鍛錬する。何となく、その鍛錬が必要だと感じたのだ。


 俺はこういう勘を大事にしている。その鍛錬を一ヶ月ほど続けた御蔭で、短時間で神威月輪観の瞑想を完成させ神威エナジーを手に入れられるようになった。そうなると、次の課題は神威エナジーを自由自在に操れるようになる事だ。


 今までの経験で神威エナジーと魔力を混ぜて生活魔法を発動すると、威力が増す事が分かっている。但し、それは神威エナジーの威力を下げているような気がする。


 神威刀を使って攻撃する時のように神威エナジーだけで攻撃できれば、大きな威力を発揮するだろうと考えた。そのためには神威エナジーを自由自在に操れるようになる必要がある。


 神威エナジーは一つの特徴を持っている。それは一つの場所に留まる事を嫌がるというものなので、神威刀を使う時のように、刀身の形に留める事が難しいのだ。


 神威エナジーを体内で循環させるという行為は、それほど難しくはない。ただ循環させても肉体に影響を与える事はなかった。


 しかし、この神威エナジーに思いを込めれば別である。癒やしたいという思いを込めれば、肉体の傷などは治るようだ。病気はどうだろうかと思ったが、俺は健康体なので試せない。だからと言って、他人に試せば人体実験だと言われそうだ。


 神威については他人に話すつもりがないので、俺がパルミロの真似をする事はない。治療以外で神威エナジーを応用できるのは、魔装魔法のような身体能力の強化だろうか? しかし、指輪などの魔導装備による身体強化も完全には使い熟せていないのに、神威エナジーによる身体強化に手を出しても使い熟せないだろう。


 俺が魔装魔法使いだったら、神威エナジーを使った身体強化を考えるけど、生活魔法使いとしては、ちょっと違うような気がする。気がするだけなので、本当はどうするのが正しいか分からない。


 なので、自分に必要なものは何かと考えて、鍛錬を続ける事にした。その必要なものというのは、防御力である。身体の表面に神威エナジーを包み込むように流し込み、その神威エナジーを循環させる。身体の表面を流れるように制御すれば安定するのではないかと思ったのだ。


 試してみると難しい。身体を隙間なく覆うように流れる神威エナジーを維持するのは、集中力が必要だった。


 俺は何度も何度も挑戦し、そのたびに失敗した。それで諦めるつもりはない。神威エナジーの制御に関しては、少しずつ良くなるという手応えを感じていたからだ。


 これが制御できるようになれば、その神威エナジーに思いを込める、それは『防御』関係の思いというものになるだろう。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 時間を姫川が渋紙市へ来た頃に戻す。

「アリサさんは大学を卒業した後、どうするんです?」

 姫川がアリサに問い掛けた。

「卒業した後は、日本のダンジョンで発見された壁画や文章の研究をしようと考えています」

「あれっ、グリム先生と結婚すると聞いたけど、違うの?」


 アリサは幸せそうに笑い頷いた。

「その予定です。でも、ダンジョンでの活動や分析魔法使いとしての研究は続けるつもりです」


「そうなんだ」

 姫川はアリサに生活魔法を教わる事になったのだが、この幸せそうなお嬢さんで大丈夫なのかな、と思った。


「姫川さんは、生活魔法の魔法レベルが『3』で、『プッシュ』『コーンアロー』『マジックストーン』を習得したのですよね?」


「その通りよ」

「だったら、『ホーリープッシュ』と『ホーリーブリット』を習得しましょう」

「邪神眷属用という事?」


 アリサが頷いた。

「そうですが、この二つを使って、上級ダンジョンで狩りをしようと考えています」

 それを聞いて姫川は頷いた。


 その後、姫川が二つの魔法を習得すると、アリサは早撃ちの練習を姫川に指示した。姫川も攻撃魔法使いとして早撃ちの練習はしている。なので、自分の早撃ちは早い方だろうと考えていたが、違ったようだ。


 グリーン館の地下練習場で、アリサに早撃ちを披露した姫川は、あっさりとダメ出しされた。

「まだまだですね。もっと早く発動するように練習しましょう」

「早くというと、どれくらいです?」


「ちょっと見本を見せましょう」

 アリサが気軽な感じで言う。姫川は自分の早撃ちと、どこが違うのか見極めようと思いアリサの動きを見守る。


 標的であるコンクリートブロックの前に立ったアリサは、右手を前に伸ばし、手を拳銃のような形にして、コンクリートブロックを狙うと、連続して七重起動の『ホーリーブリット』を発動し、機関銃のように聖光ブリットを撃ち出した。


 ガッガッという音が響き、コンクリートブロックに穴が穿たれる。姫川の早撃ちが一回ずつ引き金を引いて発射される拳銃弾だとすると、アリサの早撃ちは本当に機関銃だった。しかも姫川は三重起動なのに、アリサは七重起動である。


「こ、これが早撃ち? 攻撃魔法の早撃ちと次元が違うじゃない」


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