第562話 『サリエルクレセント』
ケネスは生活魔法の修業を積み、ようやく魔法レベルが『10』にまで達した。そして、『ホーリーキャノン』を習得して、ラッセルダンジョンのオークジェネラルを狩る準備ができた。
オークジェネラルと対決する決心をしたケネスとウォルトは、ラッセルダンジョンに入り九層を目指して進んだ。邪神眷属のオークジェネラルが発見されたのが、九層のオーク砦だったのである。
一層から八層は知り尽くしたエリアばかりなので、最短ルートで九層まで到達する。オーク砦は中央の中庭を円状の砦が囲んでいる構造になっている。
その中庭にオークジェネラルが居るので、一度砦に入って中庭に抜けなければならない。
「途中のオークナイトは、僕が始末する。できるだけ魔力を温存しろ」
ウォルトがケネスに言う。
「了解、頼むぞ」
二人は砦に入った。入り口で見張り番をしていた二匹のオークナイトと遭遇する。その瞬間、ウォルトが『ショットガン』を発動し、魔力の散弾をオークナイトたちに叩き込んで仕留めた。
遠くからオークナイトたちが集まってくる気配に気付いた。攻撃魔法使いには隠密行動は無理だと、ケネスは思う。
それからも、ウォルトが大活躍した。遭遇したオークナイトたちを吹き飛ばし、穴だらけにしながら中庭に進んだケネスたちは、オークジェネラルに遭遇する。
「ハッ!」
ウォルトが『ソードフォース』を発動し魔力刃を飛ばす。それに気付いたオークジェネラルが横に飛んで魔力刃を避けた。しかし、それはフェイントだった。ウォルトは『メガボム』を放っていたのだ。
『メガボム』の大爆発がオークジェネラルを巻き込み膨れ上がる。爆風がケネスたちを吹き飛ばそうとするので、姿勢を低くして踏ん張る。
その爆風が収まった時、薄笑いを浮かべたオークジェネラルが無傷で立っていた。
「くそっ、やっぱり普通の魔法じゃダメなのか」
ウォルトが悔しそうに声を上げた。
「無駄な事はするなよ」
「試してみたかっただけだ。仕方ない、任せたぞ」
「おう、雑魚が入ってきたら、よろしく」
ケネスは素早さを上げる魔法を使おうとしたが、高速戦闘中に生活魔法を使えるほど習熟していない事を思い出す。なので、代わりに『パワータンク』を使って筋力を五倍に強化する。
オークジェネラルが大剣を振り上げ、ケネスに斬り付ける。それを避けて五重起動の『ホーリーソード』を発動し、聖光ブレードをオークジェネラルの肩に叩き込む。
三メートルほどの聖光ブレードの切っ先が、オークジェネラルの肩を切り裂き血を噴き出させる。その痛みに驚いたオークジェネラルが跳び退いた。
血を飛び散らしながら、オークジェネラルが吠える。
「うるせえぇ!」
ケネスも叫びながら跳躍する。その手には魔導武器の『炎のメイス』があった。武器による攻撃は通用しないと分かっているので、オークジェネラルの攻撃を受け流すためのものだ。
もう一度五重起動の『ホーリーソード』を発動し、聖光ブレードをオークジェネラルの首に向かって振る。その攻撃は大剣で受け止められた。
聖光ブレードは何でも切り裂く刃という訳ではなく、威力を強化し<邪神の加護>を無効化するだけなのだ。武器や盾で受け止められる事もある。
大剣の反撃がケネスを襲った。それをメイスで受け流したが、完全に受け流せず身体が宙を飛んだ。地面を二転三転してから、素早く起き上がると追撃して来るオークジェネラルの足に聖光ブレードを送り込む。
足を斬られたオークジェネラルが地面に倒れた。後ろに二度跳躍したケネスは、『ホーリーキャノン』を発動し聖光グレネードをオークジェネラルに撃ち込んだ。
聖光グレネードがオークジェネラルの背中に命中し、金色の閃光を放ちながら爆発する。爆発の閃光が消えた時、ズタズタになったオークジェネラルの死骸が横たわっていた。その死骸は光の粒となって消えると、ドロップ品を残した。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺は世界各地で邪神眷属が倒されたという報せを聞いた。それと同時に魔法庁に登録した生活魔法と俺とカリナが書いた『生活魔法教本』がベストセラーになる勢いで売れていると連絡を受けた。それだけ生活魔法が広がり始めたという事なので嬉しい。
これで発見された邪神眷属の八割は倒せる。残りの二割は、強力な対邪神眷属用の魔法が創られるまで待つ事になるだろう。
今日も俺とメティスは、<聖光>を使った強力な魔法を研究していた。
「<聖光>と相性がいいのは、光だと思うんだ」
『ですが、レーザービームのようなものを魔法で再現するとなると、莫大なエネルギーが必要になります』
メティスは映画に出てくるようなレーザー兵器を連想したようだ。まあ、相手がドラゴン級だとすると、それくらいの威力がなければ通用しないだろう。
『そう言えば、攻撃魔法に『サリエルクレセント』という魔法があります。あれを応用できませんか?』
『サリエルクレセント』というのは、『ソードフォース』のように魔力で作られた魔力刃を撃ち出す魔法であるが、『ソードフォース』とは違い分子分解の力を持つ魔力刃を撃ち出すものだった。
調べてみようという事になり、魔法庁から『サリエルクレセント』の魔法陣を購入した。それを持ち帰って賢者システムを立ち上げ魔法陣の情報を読み込む。
この他系統の魔法を調査するノウハウは、エミリアンから教わったものである。普通のやり方だと生活魔法以外の魔法陣は読み込めないのだが、エミリアンから教わった方法で実行すると読み込める。
賢者システムに『サリエルクレセント』の魔法が展開された。それを丹念に調べると、この魔法がどういう風に分子分解の力を得ているか分かった。
分子同士に働く静電相互作用に基づく引力、これを分子間力というそうだ。この攻撃魔法は、その分子間力を阻害して分子をバラバラにしているらしい。これはメティスに手伝ってもらって解析した結果である。
「これを創った賢者は、科学の分野に詳しかったんだろうな。俺なら考え付きもしなかったよ」
『ですが、これは応用できそうです。まず、<分子分解>の特性を創りましょう』
「えーっ」
俺は思わず嫌そうな声を上げたが、必要な事なので『痛覚低減の指輪』を取り出した。メティスから詳しい説明を受けた俺は、賢者システムを使って新しい特性の作成を開始する。
特性を創る苦痛に耐えて、<分子分解>の特性が完成した。後は<分子分解>と<聖光>の特性を付与した魔法を創るだけだが、どれくらいの魔法レベルで習得できるようにするかが問題だった。
『サリエルクレセント』も魔法レベルが『25』で習得できるものなので、何かを妥協しないと他の生活魔法使いが習得できない魔法になりそうなのだ。
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